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社会福祉法等一部改正法案が参議院厚労委員会で可決(6月4日)

「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」は4日、参議院厚生労働委員会において、自民党・公明党・日本維新の会の賛成多数で可決すべきものとして決した。附帯決議も付され、介護福祉士養成施設卒業者への国家試験義務付けに係る経過措置の終了に向けて直ちに検討を開始し、必要な施策を確実に実施することなど6項目を求めた。

採決に先立つ審議では安倍晋三総理大臣も答弁に立ち、重層的支援体制整備事業の実施に向け、財源を確保する意向を示した。質疑終局後、立憲民主党及び共産党の委員が反対討論を行った。  

重層的支援体制整備事業の実施に向け、「財源を確保」と安倍総理

下野六太委員(公明党)は、重層的支援体制整備事業の実施に向けた支援について安倍総理大臣に質した。安倍総理は、「できるだけ多くの市町村がこの事業に取り組むことができるよう体制整備のための財源を確保するとともに、事業の効果的な実施に向け、相談支援員等に対する研修の実施など支援を積極的に行っていく」と答えた。

事業の委託先は地域の社会福祉法人やNPO法人等を省令で規定

改正社会福祉法106条の4第4項で、市町村が重層的支援体制整備事業の事務の全部又は一部を厚生労働省令で定める者に委託できることとしている。

その規定について足立信也委員(立憲民主党)が4日午前の審議で、「委託」の具体的な対象範囲や当該市町村に委託先が無い場合の対応などを質問したが、厚労省は十分な答弁ができなかった。その点について同日午後、石橋通宏委員(立憲民主党)があらためて加藤勝信厚生労働大臣に質した。

加藤大臣は、重層的支援体制整備事業の実施主体は市町村であることを明確にしたうえで、「小規模市町村が単独で事業の実施が難しい場合には、複数の市町村が連携して広域的な委託事業を実施することは法で規定されているものではないが、当該市町村の判断により実施する可能性はある」と説明。「省令では、事業を適切に実施することができると市町村が認める、地域における実績がある社会福祉法人やNPO法人等を規定する予定だ」と答えた。さらに次のように続けた。

「この規定に基づき、事業の委託を行った場合でも、事業の実施主体はあくまで市町村であり、事業の適切な実施の責任を確実に果たしていく必要がある。事業の委託を行う際には、質の高い支援が提供され、地域において積み上げた信頼性が確保されるとともに、地域の支援関係者による継続的な相談支援体制が確保されるよう十分留意する必要がある。具体的には地域の支援関係者の意見も聞きながら当該市町村での事業実績等も踏まえ、委託先を選定していただくことにする。合わせて、小規模市町村等複数の市町村が連携して事業を実施する場合の委託先についても同様である。厚生労働省としては、このような市町村における適切な事業委託の在り方に対し、市町村向けの通知等で十分に周知を図っていきたい」

福祉系高校の支援を検討へ

石橋委員は学校数や学生数が減少している福祉系高校の支援について要請。厚労省社会・援護局の谷内繁局長は、「厚生労働省としては現在、特段の措置を講じていないが、将来の介護を担う人材を地域に密着して育成する福祉系高校の重要性は着実に増している。学生を確保していく観点から支援の在り方について考えていきたい」と述べた。

加藤大臣も、福祉系高校の生徒は一般の高校の生徒よりも「かかりましの費用もあるだろう」と指摘。たとえば、福祉系高校の生徒が対象外の介護福祉士就学資金貸付等事業と、対象となっている高等学校等就学支援金を比較し、財政的な支援を含めて検討していく意向を示した。

養成施設卒業者への国家試験義務付けの経過措置終了に向け直ちに検討するよう要請

こうした質疑の終局後、反対討論に立ったのは、田島麻衣子委員(立憲民主党)と倉林明子委員(共産党)。両委員とも介護福祉士養成施設卒業者の国家試験の義務付けに係る経過措置の延長を批判した。さらに田島委員は、今般の法案が複数の全く異なる内容の「束ね法案」であることも指摘。倉林委員は、「今やるべきことは、介護現場で働く職員の専門性を評価し、著しく低い賃金水準、実情に合わない人員基準の抜本的な引き上げだ」などと主張した。

採決では、自民・公明・維新の賛成多数で法案を可決すべきものと決した。さらに6項目の附帯決議が付された。附帯決議では、介護福祉士養成施設卒業者への国家試験義務付けに係る経過措置の終了に向けて直ちに検討を開始し、必要な施策を確実に実施することなどを求めた。

地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議

令和二年六月四日 参議院厚生労働委員会

 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。

一、 重層的支援体制整備事業について、同事業が介護、障害、子ども及び生活困窮の相談支援等に加え、伴走支援、多機関協働、アウトリーチ支援等の新たな機能を担うことを踏まえ、同事業がより多くの市町村において円滑に実施されるよう、裁量的経費を含めて必要な予算を安定的に確保するとともに、既存の各種事業の継続的な相談支援の実施に十分留意し、その実施体制や専門性の確保・向上に向けた施策を含め、市町村への一層の支援を行うこと。また、同事業を実施するに当たっては、社会福祉士や精神保健福祉士が活用されるよう努めること。

二、 認知症に対する概念の変化、政令で定める状態について広く周知し、「共生」と「予防」の概念を分かりやすく国民に説明すること。

三、 医療・介護のデータ基盤整備に関し、本法の施策によって解決・改善される問題・課題及びもたらされる具体的なメリットについて、費用対効果も含め、国民に分かりやすく提示するとともに、進捗管理を徹底すること。

四、 介護・障害福祉サービスに従事する者、とりわけ国家試験に合格した介護福祉士の需要の充足及び賃金・処遇等の改善の状況を適切に把握するとともに、賃金・処遇、ハラスメント対策を含む雇用管理及び勤務環境の改善等の方策について検討し、処遇改善加算等が賃金・処遇等の改善に有効につながる施策を講ずる等、介護・障害福祉サービスに従事する者の確保・育成に向けて必要な措置を講ずること。

五、 介護福祉士養成施設卒業者への国家試験義務付けに係る経過措置については、本来速やかに終了させるべきものであることに鑑み、その終了に向けて、直ちに検討を開始し、必要な施策を確実に実施すること。また、各養成施設ごとの国家試験の合格率など介護福祉士養成施設の養成実態・実績を調査・把握の上公表するとともに、可能な範囲で過去に遡って公表し、必要な対策を講ずること。また、介護福祉士資格の取得を目指す日本人学生及び留学生に対する支援を充実すること。

六、 社会福祉連携推進法人制度について、社会福祉連携推進法人が地域の福祉サービスの推進に資する存在として事業展開できるよう、社員となることのメリットを分かりやすく示すこと。また、社会福祉法人の合併及び事業譲渡の推進策について検討すること。

右決議する。

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