令和5年度厚労省予算に見る! 薬局・薬剤師の将来像(萩原雄二郎)
令和5年度政府予算が3月28日に可決、成立しました。
この政府予算のうち、薬局・薬剤師や医薬品・医療機器等を所管する厚労省医薬・生活衛生局(以下、医薬局)の予算は89億2,300万円。
その予算は以下のⅠ~Ⅶの項目に配分されています(下図)。
Ⅰ 薬事分野のDX推進
Ⅱ 薬局・薬剤師の資質向上等
Ⅲ 革新的な医薬品・医療機器等の迅速な審査・実用化
Ⅳ 医薬品等の品質確保・安全対策の推進
Ⅴ 薬物乱用防止対策の推進
Ⅵ 血液事業の推進
Ⅶ 適切な承認審査や安全対策の在り方に関する研究の推進
上図の項目のほとんどが薬局・薬剤師に直接・間接に関係していると見ることも可能ですが、本稿では特に、「Ⅰ 薬事分野のDX推進」の「1. ICTの進展等を踏まえた薬局機能の高度化推進」および「2. データヘルス改革を見据えた次世代型お薬手帳の活用の推進」について、また「Ⅱ 薬局・薬剤師の資質向上等」の全項目について取り上げます。
これらの項目は、医薬局が「薬局・薬剤師関係予算」と見なしており、薬局・薬剤師への影響が特に大きい項目として認識されているものです。
ICTの進展等を踏まえた薬局機能の高度化推進
予算項目「Ⅰ 薬事分野のDX推進」の「1. ICTの進展等を踏まえた薬局機能の高度化推進」には新規に6,200万円の予算が付いています。
予算が削減されることが多いなかで、新規に高額な予算が認められているだけで、重要度の高さをうかがい知ることができます。
事業の背景には、本格的な少子高齢化が到来し、地域包括ケアのさらなる進展が求められていることがあります。
具体的には、リフィル処方箋への対応を含め、薬局薬剤師は薬学的専門性を活かした対人業務を充実させるとともに、セルフケア、セルフメディケーションの支援等の健康サポート業務に取り組む必要があり、オンライン服薬指導、データヘルス改革、電子処方箋等の導入など、「薬局のICTの進展への対応が必須」という課題が認識されています。
事業の概要・スキームは次のとおりです。
(1)薬局高度化のための4事業
①薬局DXの推進
情報通信機器等を活用する先進的な薬局の取組の有用性を検証。例えば、電子版お薬手帳等のPHRやウェアラブル端末を利用し、効果的かつ継続的な指導、医療機関との連携等による影響を検証します。
②高度な専門性の発揮
薬剤師が様々な患者の服薬情報や患者の生活情報を活用して薬剤の見直しを行う「薬剤レビュー」の実施にかかわる研修等を行います。
③対人業務強化のためのガイドライン作成
患者の疾患や使用する医薬品の特徴をとらえた服薬指導やフォローアップ等の実施に関するガイドラインを学会等と連携して作成します。
④健康サポート機能の充実
自治体と薬局が連携して実施する健康サポート活動や、薬局が医療機関と情報共有や受診勧奨などで密接に連携してセルフメディケーションの支援を行う取組について、患者アウトカムを検証します。
(2)効果の検証等を行う検討会
上記「薬局高度化のための4事業」の効果検証に加え、薬局の在り方に関する現状分析、課題抽出を行う検討会を実施します。検討会では現状分析や課題抽出を行い、好事例が均てん化(均等化、平均化、類型化すること)できていない理由の分析、対策案等を検討します。
データヘルス改革を見据えた次世代型お薬手帳の活用の推進
予算項目「Ⅰ 薬事分野のDX推進」の「2. データヘルス改革を見据えた次世代型お薬手帳の活用の推進」は、令和4年度予算で新規(3,800万円)に立ち上げられた事業です。令和5年度は1,400万円が認められています。
電子版お薬手帳について、有効で安全な薬物療法及びセルフメディケーションを推進するため、一般用医薬品等の情報の効率的な把握・ 管理の方策、今後活用が期待される機能についての調査、薬局・店舗販売業等における効果的な活用方法を検討する事業です。
検討に際しては、マイナポータルや電子処方箋、PHRの推進等のデータヘルス改革の動きを踏まえ、次世代型お薬手帳の活用法を探ることを求められている事業といえます。
薬剤師確保のための支援体制の整備
予算項目「Ⅱ 薬局・薬剤師の資質向上等」の「2. 薬剤師確保のための支援体制の整備」は令和3年度予算で新規に立ち上げられた事業です。
当時の事業の内容としては、医療機関・薬局の薬剤師の地域偏在等に対応するため、各都道府県における薬剤師を確保するための取組事例等を収集し、その内容を踏まえて薬剤師の偏在状況と課題を把握し、地域偏在等に対応するための効果的な方策等を「調査・検討する」段階にありました。
令和5年度予算においては、薬剤師が不足している地域において、自治体や地域の病院薬剤師会・薬剤師会等が医療機関・薬局と連携し、薬剤師が不足する医療機関・薬局に対する「薬剤師確保の支援を行うための体制を整備するための事業を実施し、得られた成果・知見等の共有を図る」という段階に進んでおり、予算は3年度とも同額(2,400万円)で継続中です。
卒後臨床研修の効果的な実施体制の構築
予算項目「Ⅱ 薬局・薬剤師の資質向上等」の「3. 卒後臨床研修の効果的な実施体制の構築」は、令和3年度予算で新規(3,200万円)に立ち上げられたときは「卒後臨床研修の効果的な実施のための調査検討」という事業名でした。
当初の事業の内容は、画期的な新薬の開発などの医療の変化に対応した業務を薬剤師が適切に実施するための研修に向けた取組として、近年のチーム医療の進展や薬物療法の高度化・複雑化等に対応するため、免許取得後の薬剤師に対し、「医療機関等で卒後研修を行うモデル事業の実施」および全国で用いられる「共通のカリキュラムの作成のための調査・検討を実施」するという段階にありました。
令和5年度予算(1,800万円)においては、共通カリキュラムを用いた卒後研修の一定の質を担保するため、その研修指導者や実施体制を含む施設要件、評価体制等の検討や「卒後研修の中長期的な効果検証のための方策の検討等を実施」します。
進展が見られてはいますが、実施体制の構築のための「検討」の段階です。
緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査
予算項目「Ⅱ 薬局・薬剤師の資質向上等」の最後に掲げられているのは「4. 緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査」です。
意図しない妊娠を防ぐために処方箋なしでも「緊急避妊薬」を薬局で購入できるようにするかどうかについて、緊急避妊薬の調剤実績がある薬局などの実態調査等を踏まえ、薬局における緊急避妊薬販売時の留意事項、情報提供の在り方について調査検討を行うための予算です。
すでにパブリックコメントの募集も終了しており、令和5年度中に処方箋なしの薬局での緊急避妊薬販売が実現する可能性もあります。
将来の薬局・薬剤師をイメージする
薬局・薬剤師が関与する「医療」の特徴は、他の産業と異なり、人命に直結するがゆえに自由な営利追求が許されず、その経営が政府による医療政策の影響を強く受ける点にあります。
医療政策の方向性を知ることは、将来の薬局・薬剤師をイメージするためには欠かせない基本情報といえます。
医療政策は、予算に裏打ちされて初めて実現へと向かいます。であれば、薬局・薬剤師関連の予算項目を見ることは、漠然とした将来の薬局・薬剤師のイメージではなく、具体的で実現可能性の高いイメージを描きやすくすることでしょう。
医薬局の「令和5年度医薬関係予算」(図1)は、薬局を含めた「医療」の将来像を描くのに必要な医療政策が整理されたものと見ることができます。それらの中から本稿で取り上げた「薬局・薬剤師関係予算」と見なされる項目は、薬局・薬剤師に関する医療政策を実現するための方策が調査・検討されたり、すでに事業として推進されたりしている、ホットで将来性にあふれた項目です。
予算の項目を見て将来の薬局・薬剤師をイメージすることは、薬局経営やキャリア形成を考えるための的確な道標になるかもしれません。
(次回は6月に掲載予定です)