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2割負担の範囲は結論出ず政府の検討へ、経営情報公表制度等の具体的要件も公表――第109回介護保険部会(2023年12月7日)

厚生労働省は12月7日、第109回社会保障審議会介護保険部会を開催し、「給付と負担」として残された「一定以上所得者の判断基準」について議論した。

また、「介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会」の中間整理・工程表のほか、改正介護保険法に対応した施行規則改正の内容などの改正法施行等に関する事項が報告された。


「部会の存在意義が問われる」一定以上所得者の範囲「異例な形」で幕引き

自己負担を2割とする「一定以上所得者の判断基準」に関しては、「介護報酬改定での対応と合わせて、予算編成過程で検討」するとの対応案が示された。

ただし、予算編成過程では、①医療サービスとの単純比較の困難さ、②サービス利用への影響、③十分な準備期間の設定について留意し、検討する。

介護保険部会としての一定の結論を出さず、部会で挙げられた意見等を参考に政府が決定する内容となっている。

こうした対応案が示されたことについて、健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員は、介護保険部会で十分な検討がされないなかで予算編成に委ねることは「この部会の存在意義が問われる」として、遺憾の意を表した。

日本医師会の江澤和彦委員も、厚生労働省へ諮問する会議である社会保障審議会について医療・介護分野における形骸化が指摘されているとして、懸念を示した。

厚生労働省からは、現下の物価状況や後期高齢者医療の見直しに伴う負担増、介護報酬改定影響などを踏まえた負担の可否について「非常に重く受け止め」ているとし、部会の意見を責任をもって反映し検討すると理解を求めた。

早稲田大学の菊池馨実部会長は「年末に向けて厚生労働省には頑張っていただく」として、部会として認めるよう求め、「異例な形」として年末の予算編成の場へと検討を移す形となった。

 2割負担に資産の考慮を、平均貯蓄の数値公表には懸念の声も

 議論に当たっては、より細分化された世帯の収入・支出の年収別モデルのほか、高額介護サービス費との関係を示す1人あたり利用者負担額分布、2割負担とした場合の各所得・収入基準ごとの影響試算などが示された。

しかし、様々な支出を要する要介護者等の収入・支出モデルとはなっていないこと、物価高や医療保険・保険料の負担増が見込まれることなどから、複数の委員から十分な検討が難しいとの意見が挙げられた。

主に、収入と支出の差がすなわち負担できる範囲とはみなせないとの考えだ。

こうした点も踏まえ、収入ではなく貯蓄に着目した意見も複数挙げられた。
一橋大学国際・公共政策大学院の佐藤主光委員は、貯蓄が乏しく収入が低い高齢者を重点的に配慮する一方で、「資産の保有状況を考慮した自己負担のあり方・保険料の設定」を検討していく必要があるとの認識を示した。

一方で、高齢者の貯蓄状況を踏まえた資料に関して懸念を抱く意見も挙げられた。

資料のなかで、2022年の世帯主75歳以上世帯の平均貯蓄は約1,500万円台に増加している。

高齢社会をよくする女性の会の石田路子委員は「多くの高齢者の実態を表すものではない」として、こうした数字がひとり歩きし世代間対立を引き起こすことを懸念した。

日本医師会の江澤和彦委員も「貯蓄がない」と「3,000万円以上」が高い割合を占めていることから、「平均値より中央値を参考にするべき」として、中央値の提示を求めた。

厚生労働省は現在中央値のデータはないとしながらも、500万から700万の水準ではないかと回答した。

総合事業は第9期に具体化、年度内に省令・告示等を見直し

続いて、「介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会」の中間整理・工程表について報告された。

方向性としては総合事業の充実を、多様な主体の参入を促進し、専門職と関わり合いながら高齢者自身が適切に活動を選択できるようにするものと位置づけ、地域共生社会の実現を目指すものとなっている。

具体的な方策では、継続利用要介護者が利用できるサービスを「サービスA」に拡大すること、ガイドライン等で総合事業の運営・報酬モデルを提示すること、高齢者を社会参加につなげた場合・孤立から地域の生活支援につなげた場合の加算を例示することなどが示された。

こうした方策を、第8期の年度内において必要な制度改正省令や告示・ガイドラインの制定等を行い、第9期の3年間を通じて具体化に取り組んでいくことで実現していく工程となっている。

日本慢性期医療協会の橋本康子委員は、強調される「多様な主体の参画」の範囲について確認。

厚生労働省からは、多様な主体としては高齢者自身や民間企業も含まれ、参画を促進していく考えが示された。

公表制度は年100万円以下の事業所等を除外、包括センター体制整備の省令案も示される

このほか、令和5年介護保険法改正に関連した省令等の改正事項についても報告された。

介護サービス事業者の経営情報を収集し、国民に分かりやすいよう属性等に応じてグルーピングした分析結果を公表する制度が、令和6年4月から創設される。

この制度については原則すべての事業者が報告対象になるが、小規模事業者等への配慮から、過去1年間介護サービスの対価として支払いを受けた金額が100万円以下の事業者等は除外される。

報告は収益・費用の内容や人員に関する事項が求められ、会計年度終了後3月以内を期限とする。ただし、初回に限り令和6年度内での提出を可能とする経過措置を設ける。

これにともない、介護サービス情報公表制度について「財務諸表」と「一人当たり賃金」が追加されることが示された。

また、介護保険法改正では、地域包括支援センターの体制整備等として、①居宅介護支援事業所も介護予防支援の指定を受け実施することを可能とする、②総合相談支援事業の一部を居宅介護支援事業所に委託することを可能とする見直しが図られる。

同じく令和6年4月から実施されるこうした見直しについても、省令改正事項が示された。

さらに総合事業の上限制度でも、上限を超えた市町村に関する個別判断について要件の明確化を図るなど見直しの内容が公開された。

厚生労働省は、日本医師会の江澤和彦委員・民間介護事業推進委員会の座小田孝安委員の質問に答える形で、情報公表等制度の見直し内容を説明。

情報公表制度のグルーピングは法人類型別・地域別が考えられること、報告期限の会計年度終了は事業所の会計年度にあわせることなどが示された。

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