#34 DV被害による別居のときの遺族厚生年金の受給権について
今回は、夫死亡時の別居の理由が夫の暴力だったケースです。DV被害を受けていても婚姻解消の意思は認められず、経済的な援助や音信があったことから、生計維持関係があったと認められました。では、具体的に見ていきましょう。
4年近く別居中の夫が死亡し、遺族厚生年金を請求
A子さんが夫のBさんが年金受給に死亡したとのことで、遺族厚生年金の請求手続きに来所されました。
厚生年金保険法第58条第1項第4号には、老齢厚生年金の受給権者が死亡したときは、その者の遺族に遺族厚生年金が支給されると規定されています。同法第59条第1項には、遺族厚生年金を受けることができる遺族について、死亡した者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、死亡した者の死亡の当時、その者によって生計を維持した者とすると規定されています。
今回の場合、記録の確認及びA子さんの持参書類等から、夫であるBさんが死亡した当時、老齢厚生年金の受給権者であったこと、また、A子さんがBさんの戸籍上の配偶者であったことについては間違いありませんでした。
残された問題点は、Bさんの死亡当時、A子さんは別居の状態にあり、Bさんにより生計を維持していたと認められるかどうかということであります。
まず戸籍謄本等を確認すると、A子さんとBさんは昭和58年4月1日に婚姻し、両者の間に長女C及び長男Dが出生していました。子供たちが独立後、住民票上、A子さんとBとも、平成20年12月からM市に住所を置いていました。しかし、令和2年9月、BさんはN市に住所を移し、一方、A子さんは同年4月、X市に住所を移しました。その後、A子さんは令和3年2月、Y市に住所を移していました。
したがって、A子さんは令和2年4月からBさんが死亡に至るまで、住民票上の住所が同一だったことはありません。
遺族厚生年金の受給権者に係る生計維持関係の認定基準には、生計維持認定対象者が死亡した者の配偶者であり、住所が死亡者と住民票上異なっている場合に、死亡者による生計維持関係が認められるためには、次のいずれかに該当する必要があるとしています。(平成23年3月23日 年発0323第1号の生計同一に関する認定要件)
ア 現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められること
イ 単身赴任、就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票上異なっているが、次のような事実が認められ、その事情が消滅したときは、起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められるとき
1)生活費、療養費等の経済的な援助が行われていること。
2)定期的に音信、訪問が行われていること。
なお、このような基準は、一般的・基本的なものとしては相当と解されますが、A子さんの話によると、Bさんから長年にわたり暴力を受けていたようです。
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