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第13回地方から考える「社会保障フォーラム」開催(7月19日)

 社保研ティラーレ主催・第13回地方から考える「社会保障フォーラム」が19日、都内で開催された。フォーラムは2日間の日程であり、20日も開かれ、約70名の地方議員が参加した。

「高齢者や障がい者、子どもたちを含めた普通の市民が安心して生活を送ることが出来る地域社会を築きたい」。

そうした地方議員の願いを受け、今フォーラムは4年前に発足。年3回開催されるフォーラムでは、厚生労働省の幹部やOB、学識者などが講師に招かれ、介護福祉を中心とした社会保障の講演が行われるとともに、講師と地方議員による活発な意見交換が行われることが特徴だ。

今回の講師及び主な内容は次のとおり。
19日
講義1「障害者の就労」
内山博之氏(厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長)
講義2「『地域共生社会』の背景とねらい」
野﨑伸一氏(厚生労働省政策企画官)
講義3「社会保障は何のため? 誰のため?」
権丈善一氏(慶應義塾大学商学部教授)
20日
講義4「生活保護について」 鈴木建一氏(厚生労働省社会・援護局保護課長)
講義5「地域包括ケアシステムの深化と地方自治体の役割」
三浦 明氏(厚生労働省医政局経済課長(前・老健局振興課長))


障害者の就労支援で農福連携を促進

19日に登壇した厚労省障害福祉課の内山課長は「障害者の就労」について講演した。

内山課長はまず、障害福祉施策のポイントとして大きく2点を指摘した。一つは、時期的なことととして、2018年4月に障害サービス報酬等改定や第5期障害福祉計画が開始すること、改正障害者総合支援法が施行されることを上げた。もう一つは、サービスの質の向上を目指す取り組みを進めていることを紹介した。

その上で障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスとして、①就労移行支援②就労継続支援A型③就労継続支援B型──の三つを紹介した。

このうち就労継続支援A型について2006年度に約11万3千円あった平均賃金が低下し、15年度には約6万8千円になっている。
その原因の一つとして、状態の変化が大きく、長時間働くことが困難な精神障害者の利用が増えたことを指摘。

またA型では営利法人やNPO法人の参入が進んでおり、「志が低く、障害者の支援よりも経営を考える事業所が増えてきていることが指摘されている」と説明。実態として生産活動を実施せずに自立支援給付だけを受け取ったり、就労時間を制限したりするなどの問題が寄せられたという。

厚労省としては、今年4月に新たな対応を打ち出したことを紹介。その一つとして「指定基準を改正し、利益で利用者の賃金を支払うことを徹底している」と説明した。原則として自立支援給付から賃金を支払うことを禁止。また希望を踏まえた就労機会の提供を徹底している。

さらに障害者の就労支援では、農業分野との連携、いわゆる「農福連携」が進められていることも紹介した。厚労省は2016年度から新規事業として「農福連携による障害者の就農促進プロジェクト」に取り組んでおり、19年度まで都道府県に補助し、障害者施設への農業の専門家の派遣や農業に取り組む障害者就労施設によるマルシェの開催などを進めている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックで、障害者の働く力をアピールすることを目指している。

社会構造の変化などを受け地域共生社会を促進

厚労省の野﨑政策企画官は「『地域共生社会』の背景とねらい」を説明した。

野﨑氏は、少子高齢化や単身世帯の増加などの社会変化の中で、公的な支援が増大しており、その背景には家族による助け合いの脆弱化や、非正規雇用の増大などがあることも指摘。今後も高齢化や社会構造の変化が続き、公的支援がさらに拡大していくことが考えられるとした。

一方で現在の公的支援では、▽個人ごとに異なる複雑化したニーズには応えにくい▽社会的孤立など制度の「外側」の問題は放置されがち▽「支え手」「受け手」に分かれ、本人の持つ力を引き出すという発想になりにくい──などと課題を指摘した。

今後も人口減少が進み、あらゆる分野で担い手不足を招いていくことや、現状の制度は人口や経済が「右肩上がり」となることを前提に縦割りでつくられているとともに制度・分野を超えた創意工夫が広がりにくいなどの問題があることも指摘した。

その上で、目指す「地域共生社会」について説明。
既に地域共生社会の実現に向けた実践はあり、たとえば北海道の社会福祉法人が閉鎖されたパン工場を職員ともども引き受け、障害者の作業所としてスタートしたことなど複数を紹介した。今後の地域共生社会の実現に向け、「厚労省の仕組みも変えていかなくてはいけない。地域の先進事例も大切にしなくてはならない」と強調した。

さらにパラダイム・シフトが必要とし、▽「自助」「互助」を育み応援する仕組み▽分野の縦割りを超え、地域社会経済を支える仕組み▽地域に置ける実践を応援する仕組み──に変えていくとした。

地域共生社会の実現に向けた取組を進めるため法改正が行われたことも紹介した。 6月2日に公布された「介護保険法等一部改正法」により社会福祉法も改正され、地域福祉推進の理念や市町村が包括的な支援体制づくりに努める旨が規定された。また市町村が地域福祉計画を策定するよう努めるとともに、福祉の各分野における共通事項を定め、上位計画として位置付けた。

他方で、29年度予算に20億円が計上され、100ヵ所程度の市町村で、包括的な支援体制づくりの事業が進められていることを示した。

子育ての社会化の重要性を強調

慶應大の権丈教授は「社会保障は何のため? 誰のため?」について講演した。

講演の中で権丈氏は、高齢期の支援の社会化が進められる一方で、「子育ての社会化」が重要であることを強調。「これをやらなければ高齢期の社会保障にものすごい批判が出てくるし、同じ世代の人でも子どもがいる人、いない人で分断が起きる」と訴えた。

その上で「こども保険」構想を打出した自民党の若手議員らの特命委員会の場で、公的年金・医療保険・介護保険の三つの制度から拠出する「子育て支援連帯基金」創設の話をしたことに言及した。「皆で払って子育てをしっかりやっていくと、将来的には医療も介護も年金も給付が充実していく」などと説明した。  

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