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【玉置妙憂:超高齢多死時代のケアを考える#6】看護・介護職のスピリチュアルケア

いつのまにか季節が流れ、みなさまとここでお目にかかるのもこれが最終回になります。
もっともとお話ししたいこともあるのですが、それはまたの機会にいたしましょう。

さて、今回は、看護・介護職の「セルフスピリチュアルケア」についてお話ししようと思います。


耳を傾ける看護・介護職

前回、スピリチュアルペイン、スピリチュアルケアとはなにかについてお話ししましたが、今一度、さっと振り返っておきましょう。

スピリチュアルペインには、大きな特徴がありました。
それは、スピリチュアルペインの問いには、答えがないということです。

ですが、そのほかにもう1つ、大きな特徴があります。
それは、スピリチュアルペインは、それを聴いた人もダメージを受けるということです。

看護や介護の現場には、「老い」や「病」といった、避けて通ることのできない問題が山積みです。おのずと、スピリチュアルペインが生じる機会は多くなります。
さすれば、当然のことながら看護・介護を生業としている方々は、人様のスピリチュアルペインに耳を傾けることが多くなるでしょう。

つまり、痛むのです。
耳を傾けている自分自身もダメージを受けるのです。

ケアをしようとする人にこそケアが必要


思い当たることが、きっとおありになるのではないでしょうか。

患者さんや利用者さんの想いをずっと聞き続けたあと、思わず漏れるため息。
なんとも表現しがたい重苦しい気分。
あのため息や重苦しさは、体が疲れたせいではありません。
患者さんや利用者さんのスピリチュアルペインを聴いて、自分自身のスピリチュアルペインが揺れてしまったためなのです。

ですから、常々申し上げています。
ケアをしようとする人はケアをされなければいけません。

「それが仕事なんだから」とか、「かりにも専門家なんだから」といって放っておいてよい問題ではないのです。
むしろ、看護・介護職に就いているからこそなおさら、ケアされなければなりません

ところが、現場ではなかなかそうはいきませんね。
なんといっても目の回る忙しさで、物理的にそんな時間はとれないということもしばしばでしょう。
また、ケアされたいなどと弱音を吐くようなことは言い出せないといった雰囲気もあるかもしれません。

でもね、そうやって頑張り続けてしまうと、いずれ、この仕事を続けることが苦しくなってしまう日がきてしまいそうです。
そんなことになってしまったら、大きな社会的損失。
「もう、これ以上は無理…」となってしまう前に、常日頃からご自分自身をしっかりケアしてあげていただきたいと思います。

セルフスピリチュアルケア

セルフスピリチュアルケアの方法は、人それぞれです。

大自然に身を置いて、深呼吸するもよし。
たまには高級レストランで、贅沢するもよし。
そういった方法の中のひとつとして、今日は「もしかしたら少し楽になるかもしれない考え方のコツ」をいくつかご提案させていただきます。

これは、あくまでも提案ですので、最初からちっとも響いてこなければさっさと捨ててくださいね。
もし、少しでも響いたことがあったら、実際にやってみてください。

そして、なるほど効果があるかもと思ったことだけ採用してください。

①思考の鎖を断ち切る

まずは、「思考の鎖を断ち切る」ということを意識してみましょう。

私たちの思考は、鎖のようにつながっていく癖があります。
とくに、ネガティブな考え、例えば不安や心配、怒りや妬み、恨みや不満といった思考は、よけいガチャガチャ、ガチャガチャとつながっていってしまう傾向があります。

「明日も仕事で早いんだから、考えるのをやめてさっさと寝なければ」と思えば思うほど、考えが止まらなくなって眠れない…などといったご経験はないでしょうか。
これ、またしても脳の癖です。「このことを考えるのはやめよう」は、脳がもうすでに「このこと」を考えてしまっているので、思考の鎖を断ち切ることができないのです。

では、どうやって思考の鎖を断ち切ればよいかというと、「体を動かす」です。

寝ていてグルグル思考に陥ってしまったら、体を起こして布団の上に座ってみましょう。
その動作をしている瞬間は、必ず思考の鎖が切れています。

でも、またすぐ沸き上がってきますね。だって、問題は解決していないのですから。
そうしたら次は、立ち上がってしまいましょう。

次は、台所まで行って。
次は、水を一杯飲んで。

こうして体を動かすことで、思考の鎖を次々に切っていきます。

これを意識的にやっていると、直に脳が「思考の鎖を切る」ことを覚えてくれます。
どうせ朝まで考えたって、問題は解決しやしません。
だったら、さっさと思考の鎖を断ち切って、ぐっすり寝て、体と頭を休めたほうがずっと得策です。

② 言葉のメンテナンスをする

私たちは、この日本という同じ国、同じ社会に生きていると思っているかもしれませんが、実は違います。
それぞれがそれぞれに作っている、自分の世界に生きているのです。
ただ、五感の機能がだいたい同じ程度なので、擦り合わせをして「私たち同じところにいるよね」ということにしているのです。

つまり、私の見ている世界は、あなたの見ている世界とは違います。
私の住んでいる世界は、私がつくりあげている仮想現実なのです。

さて、その仮想現実をかたちづくっているのは何かというと、私自身が使う「言葉」です

たとえば、夜布団に入って「ああ、今日はろくでもない一日だった」と言えば、ろくでもない一日が終わってゆきます。
一方、「今日は楽しかった。良い一日だった」と言えば、良い一日が終わってゆくのです。

もちろん、社会や組織の中では、他者と協力して具体的に変えていかなければならないことも多々あるでしょう。
でも、それと同時に、ご自分が使っている言葉のメンテナンスもぜひしてみてください。

最初は、気持ちが伴わなくても大丈夫です。
せめて、口に出す言葉だけでも変えてみる、それだけでOKです。
でも、そうしているうちに、いつのまにか本当に世界が変わってきます。

③ この世は諸行無常と知る

しばしば、「病気になったことが受け入れられない」「家族の死が受け入れられない」「いったいどうやったら受け入れることができるでしょう」といったご相談をいただきます。
そのお辛さをお聴きするたびに、ああ、この世は「諸行無常」だということを知っていただきたいものだと思うのです。

諸行無常

この言葉は、すでにこれまでにどこかでお耳になさっていることでしょう。
平たく言うと、「この世のものはなにひとつ同じかたちのままで在り続けることはない」ということです。

これは、真理です。

真理というのは、時代が変わっても、国が変わっても、社会が変わっても、変わらないものです。

ちなみに、法律なんてものは真理ではありません。
だって、時代や国が変われば、変わりますものね。あれは、単なるルールです。

でも真理は、変わりません
私たちは、諸行無常の世に生きているのです。

だから、ずっと若いままではいられません。
ずっと健康なままではいられません。
ずっと生き続けていくわけにもいかないのです。

でも、私たちは科学という力を持ち、いつしか勘違いするようになりました。
「病気は治せる。いつまでも健康でいられるはずだ」と。

 だから、病が治らないと分かったとき、「失敗」になってしまうのです。
「こんなはずじゃなかった」と、受け入れられなくなってしまうのです。

でも、思い出してくださいね。
私たちは諸行無常という真理の上に生きているのです。

もともと、私たちに「受け入れる」「受け入れない」といった裁量は与えられていません。
与えられているのは、「諦める」ということだけです。

諦めるというのは、なにも、やさぐれて放り出せというのではありませんよ。
目の前に起きていることをつまびらかに見て、ああ、そういうことなのかと腹に落とすということです。

人間関係も、体も、命も、すべて諸行無常です。
どうにもこうにも苦しくなってしまう時があったら、この苦しみでさえ、決して留まることない大いなる流れの中の一点に過ぎず必ず移り変わってゆくんだということを、思い出してみてくださいね。

さて、今日のお話はここまでにしましょう。

これまで数回に渡り、私の話にお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。
みなさまの毎日が、穏やかで、豊かでありますよう、お祈りしております。

 

玉置妙憂 (たまおきみょうゆう)
看護師・僧侶・スピリチュアルケア師・ケアマネ-ジャー・看護教員 日本スピリチュアルケア学会理事/日本スピリチュアルケア実践協会代表 東京都中野区生まれ。専修大学法学部法律学科卒業。国際医療福祉大学大学院修士課程保健医療学看護管理専攻看護管理学修士。夫を在宅で看取ったことをきっかけに、出家。高野山での修行を経て、高野山真言宗阿闍梨となる。
現在は非営利一般社団法人「大慈学苑」を設立し、終末期、ひきこもり、不登校、子育て、希死念慮、遺族の喪失悲嘆まで、幅広いスピリチュアルケアを実践している。また、スピリチュアルケア実践者の育成を目的とした「スピリチュアルケア実践講座」「スピリチュアルケアトレーニング」を開催。さらに、講演会やシンポジウムなどで、幅広くスピリチュアルケアの啓発に努めている。

【著書】
『まずは、あなたのコップを満たしましょう』(飛鳥新社)
『困ったら、やめる。迷ったら、離れる。』(大和出版)
『死にゆく人の心に寄りそう 医療と宗教の間のケア 』(光文社新書)、他多数。
ラジオニッポン放送「テレフォン人生相談」パーソナリティ。
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