地域イベントで年金委員として活動して感じたこと——地域の中で‟年金の見える化”を!
埼玉県年金委員会会員より
真夏のような太陽が照りつける9月14日㈯、私たち埼玉県年金委員会が加盟する地域コミュニティー「浦和東部地区元気アップネットワーク」開催の「みんなの健康フェア」(浦和駒場体育館)に参加しました。
このイベントは概ね年2回開かれます。今回のイベントの中で展開された種目はブラインドサッカー、ソフトバレー、ボッチャ、トランポリン、ディスコン、テニス、健康相談・測定、年金相談等で、約400人の親子が楽しんでいました。
年金の課題は地域の中に埋もれているのを実感
参加した8名の年金委員の役割は、日本年金機構が進める「地域年金展開事業」(注)に参加して、住民の方の日頃の年金についての疑問や相談にお答えするとともに、若者に年金知識を広報することです。当日は、会場に年金相談コーナーを開設して、配布チラシを設置しました。
用意したチラシは、「知っておきたい年金の話」(日本年金機構)、「ねんきんネット」(日本年金機構)、「年金セミナーの募集チラシ」(埼玉県年金委員会)等です。
年金相談では、会場での参加者の動きが早い雰囲気の中で、あらかじめ設置した相談コーナーでの対応は少なく、いわゆる「立ち相談」が中心でした。それでも、①老齢年金の受給要件について3件、②老齢年金額について1件、③遺族年金について3件、④厚生年金基金について1件の相談がありました。年金の課題は、地域の中にいろいろと埋もれているのを感じました。
若者に年金の話をしたい、と言う受給者の言葉にホッとする
年金は人生の縮図と言われることがあります。現役や若い時期の勤務や生活は一人ひとり事情が異なりますが、その違いはその人の年金に反映されます。相談等の中には、何故そのような手続きが放置されていたのか不思議に思われることや、時折「生活保護があるから、年金が受けられなくても大丈夫」と対応されることもあります。
特に、若者に対しては長い時間軸を基礎とした、年金の正しい認識を浸透させることが大切です。とりわけ年金制度が無くなるとか、先々年金は貰えなくなるなどのネット上の表現や、まちがった認識をもった専門家の言説は、行政の権限で排除していただきたいものです。
また、「若者への啓蒙」を高齢者の方々に依頼したときには、「私はすでに年金をもらっているから関係ない」と対応されることも多くある一方で、受給者の方から「近くに大学生がいるから年金の話をしてみたい」とのお申し出を聞いたときには、循環する世代間の支え合いである年金制度の良い見本を体験したと、ホッとすることもあります。
年金の地域広報には‟見える化”のため地域の年金データが重要
現在、厚生労働省や日本年金機構が開示している年金関係のデータは、加入者数、保険料額、受給権者数、年金支給額等全国ベースのデータがほとんどです。
年金は、家族や地域の中で、自治会・納付組織・各種コミュニティー・勤務先・行政等の指導・アドバイス・支援等のかかわりの中で育てられてきました。しかし、最近では、これら地域内のコミュニティーとの関係が希薄となり、年金の若者対策が大きな課題となっています。
地域の中で、年金を正しく理解し、浸透させていくためには、年金の地域のデータの見える化すなわち可視化が重要です。具体的な当該地域の年金データに基づいた、地域を挙げての広報や活動が大切です。
特に若者等の保険料未納の状況や免除の状況等は最も気になるところですが、殊に年金事務が地方分権一括法(1999(平成11)年7月16日公布)で国と地方とに区分されて以降、各地域内での年金の課題やデータを目にすることが少なくなり、その一方で正しい年金の知識が身につかないまま制度への不満が蓄積されています。
地域内広報や活動で必要とされる年金データは?
例えば、より身近な地域内の未納率、未納者数、免除率等が分かれば、優先度を決めた上で、特定の地域を対象とした重点的な広報や活動を展開することが可能となります。
さらに、正しい年金知識の広報には、これら年金の「課題データ」の公表だけでなく、年金が持っている個人の生活を支えている力や地域の経済等に大きく貢献している「年金のデータ力」を示していただきたいのです。
かつて、これらのデータが「地域の年金力」として、都道府県単位に開示されたことがあり、さらに身近な地域のデータへと進展することが期待されましたが、廃止されたことは残念です(例えば、現状を拾ってみると令和6年度埼玉県予算(一般)2.1兆円、令和4年度埼玉県内年金支給額2.8兆円)。
また、時折「年金は地域の活性化に貢献・寄与している」などの記事を見かけますが、裏付けされたエビデンス(具体的データ)のないメッセージは、抽象的で上から目線の言葉でもあり、地域住民の方々にはなかなか理解されるものではありません。
地域に明るく貢献する年金のデータの開示を
手元に『全47都道府県幸福度ランキング2022年版』(一般財団法人 日本総合研究所発行)がありますが、このランキング調査は、エビデンスに基づく地域運営や地域創生に向けた資料として、国勢調査や行政の実績統計等から得られるデータを基に、5つの基本指標と5分野の領域の指標により分析されたものです。ちなみに令和4年度調査では、埼玉県総合13位、さいたま市政令指定都市総合3位となっています。
このランキング調査には、年金に近いところでは「健康や生活のデータ」として、地方自治体ごとの健康寿命、健診受診率、生活保護受給率、失業率等が掲載されていますが、残念ながら年金のデータは見当たりません(ただし、企業の利益を含む「県民所得」は調査対象の基礎であり、これに年金は含まれていると思われますが、具体的表示はない)。
巨額な年金が支給され、国民生活の主要な基礎となって寄与している年金(例えば、厚生労働省の『令和5年 国民生活基礎調査』では、公的年金等を受給する高齢者世帯のうち、所得の全てが公的年金等という高齢者世帯は41.7%を占め、また令和3年度の年金支給額は53.4兆円となり、国家予算の約半分を占めています)ではありますが、これら地域の見える化の調査には具体的な指標となっていないのは不思議なことです。
ぜひとも、厚生労働省および日本年金機構には、地域の年金の見える化を示す年金データを公表するようお願いしたい。