対象種目は固定用スロープや単点杖など、福祉用具貸与・販売選択制の方向性案が示される――第8回介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会(2023年8月28日)
厚生労働省は8月28日、第8回介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会を開催した。
主に福祉用具における「貸与と販売の選択制の導入の検討」を深めるとともに、安全な利用促進・サービスの質の向上および給付の適正化に関する対応方針案について議論した。
貸与・販売選択制の種目・種類や具体的運用案を3つの論点で示す
介護保険制度における福祉用具は、制度創設より貸与を原則としつつ、一部種目について例外的に販売としており、仮に貸与種目の購入を希望する場合は保険給付の対象外となる。
しかし、貸与を基本としつつも、販売価格が比較的廉価であり購入により保険給付の適正化が図られる可能性のある種目・種類について、貸与と販売の選択が可能となるしくみの導入に向けた検討が進められている。
今回は、こうした選択制導入を検討するにあたっての論点として次のように示されたほか、それぞれにおいて対応の方向性案が示された。
①選択制の対象とする種目・種類
②選択制の対象者の判断と判断体制・プロセス
③貸与又は販売後のモニタリングやメンテナンス等のあり方
【論点①】候補は固定用スロープのほか歩行器や単点杖など5種類
①選択制の対象とする種目・種類に関し厚生労働省は、スロープ・歩行器・歩行補助つえ・手すりについて、各種目の種類ごとに貸与月数の平均値・中央値・標準偏差を公開。さらに、希望小売価格を1月の平均貸与価格で割った分岐月数を示した。
このうち、「固定用スロープ」「歩行器」「単点杖」「腋窩支持クラッチ(松葉杖)」「多点杖」については、分岐月数と比較し平均の貸与月数が長いもしくは同等であることから、貸与と販売の選択制の対象とすることが考えられるとの方向性案が示された。
これに対し、日本介護支援専門員協会の七種秀樹構成員は、現場において松葉杖は一過性的な扱いが多いとし、「購入に対するメリットはあまり期待できない」と指摘した。
日本医師会の江澤和彦構成員も、松葉杖は長期利用が少なくばらつきが大きい集団であるとも考えられるとし「選択制の選択肢としては不適切ではないか」との見解を示した。また、歩行器についても平均値と標準偏差が等しい値であることから、予見性が難しく慎重な検討が必要と意見した。
一方、日本福祉用具供給協会の小野木孝二構成員は、固定用スロープについて複数の利用が行われる実態に言及。同一年度内同一種目は一度とする特定福祉用具販売においても、固定用スロープだけは複数の利用を認める必要があると訴えた。
【論点②】6月ごとの担当者会議等による貸与・販売検討の例示に「負担増」の声も
②選択制の対象者の判断と判断体制・プロセスについては、まず選択制の対象者について、限定しない方向性が示された。
また、判断・プロセスにあたっては、利用者またはその家族等の意思決定に基づき選択できること、介護支援専門員または福祉用具専門相談員がサービス担当者会議等を通じて提案を行うことなどが、方向性案として示された。
利用者等の意思決定に基づく選択に関しては、日本福祉用具供給協会の小野木孝二構成員が資料を提出。貸与を終了した時点での福祉用具の利用期間が想定通りであったか、利用者に確認したアンケート調査の結果を共有した。
これによると、「想定より短かった」とする利用者は41.3%であり、「想定より長かった」とする利用者の3倍以上となった。これを踏まえ、「利用者や家族による判断だけでは間違った判断をする可能性が高い」とし、サービス担当者会議などを踏まえた判断が必要と訴えた。
また、利用者には初めの一定期間は確認のため貸与を選択してもらい、その後販売を検討していく方がいいのではないかと提案した。
一方、方向性案において「例えば6ヶ月ごとに」とサービス担当者会議の頻度が例示されたことについては、通常の「サービス担当者会議のなかで検討する部分で十分ではないか」との認識を示し、期間については記述の削除を提案した。
この「例えば6ヶ月ごとに」とする記述については、株式会社マロー・サウンズ・カンパニーの田中紘太構成員や国際医療福祉大学大学院の東畠弘子構成員からも、「負担増」を懸念する指摘が寄せられた。
【論点③】販売後は目標達成状況を確認、貸与後は6月1回以上のモニタリング
③貸与又は販売後のモニタリングやメンテナンス等のあり方については、「販売後の確認やメンテナンスのあり方」と「貸与後のモニタリングのあり方」に分けて方向性案が示された。
販売においては、福祉用具専門相談員が福祉用具サービス計画における目標達成状況を確認、また、保証期間を超えた場合であってもメンテナンスに努めることなどが示された。
貸与後のモニタリングについては、福祉用具専門相談員は例えば6月ごとに1回以上のモニタリングを行い、記録を利用者等および介護支援専門員に交付する内容となっている。
全国福祉用具専門相談員協会の岩元文雄構成員は、販売時の福祉用具サービス計画における目標の達成状況の確認について、「実施頻度、時期、回数、内容については特に問わないという理解でよいか」と質問し、頻度・回数については現時点において問わない方向性であることを確認した。
また、貸与時のモニタリングに関して記録を利用者等に交付する記述となっていることに対しては、「利用者自身の目に直接触れていいい内容とそうでない内容がある」として、一律の義務化は避けた方がよいとの見解を示した。
テクノエイド協会の五島清国構成員は貸与時の6月1回以上のモニタリングに関する負担を懸念。形骸化しないよう具体的な実施方法を示すことなどを求めた。
また、日本福祉用具供給協会の小野木孝二構成員は、販売後の保証期間を超えた場合のメンテナンス費用の扱いについて確認。厚生労働省より、事業所ごとの取り決めにより、利用者との契約に基づくものとの回答を受けた。
「現状と課題を踏まえた対応方針案」はおおむね承認へ
このほか、福祉用具貸与・販売に関する安全な利用の促進、サービスの質の向上および給付の適正化について、「現状と課題を対応案」が示された。
これは、前回示された対応案に構成員の意見を踏まえて追記・修正されたものであり、以下の8項目に整理されている。
日本医師会の江澤和彦構成員は、④⑥にかかりつけ医による医学的判断という表記がないことを指摘。また、リハビリテーション専門職の意見も参考にするべきとして、記述の深堀を求めた。
検討会では、おおむねの方針については承認。
厚生労働省では今後個別に意見のある構成員に確認し、記述を具体化。了承された内容が、次回示される。