マイナ保険証の現在と利用促進策 医療DX推進に向けた新たな体制への移行(萩原雄二郎)
令和6年度診療報酬改定は、医療DXの推進という観点から、マイナンバーカードと健康保険証を一体とする「マイナ保険証」の利用の体制を評価しました。さらに、マイナ保険証の利用推進に対する支援金の交付も行うといった促進策も打ち出されました。この特例的な措置は、今年12月2日に健康保険証の発行を終了し、マイナ保険証を基本とする体制へと刷新するために講じられた措置です。薬局・薬剤師としては、マイナ保険証の利用状況を把握し、利用促進策を活用して今秋までにマイナ保険証利用を基本とする体制へ移行したいところです。
マイナ保険証とオンライン資格確認等システムの仕組みを再確認する
マイナンバーカード(以下「カード」という)は、ICチップに組み込まれた電子証明書や表面に印刷されている顔写真によって本人確認を行うために使われます。
電子証明書は、氏名や住所、性別、生年月日などのデジタル情報で構成されています。その情報がインターネット上の、いわば「カギ」となり、さまざまな電子的システムの「扉」を開き、各システムが提供するサービスを受けられるようにします。「扉」は年金、ハローワーク、税金、災害対策、医療、介護、福祉などに関する行政サービスを担うデータベースやシステムにつながっており、医療に関しては特に「オンライン資格確認等システム」を開くカギとなります。
図表1は、政府によるオンライン資格確認等システムの説明でよく使われるイメージです。図中の医療機関・薬局は、顔認証付きカードリーダーで患者さんのカードの電子証明書を読み取り、自動的にネットを介してオンライン資格確認等システムの扉を開き、医療保険者等が提供している資格情報にアクセス・照合して被保険者本人であることを確認します。この一連の流れが、カードの保険証としての利用(マイナ保険証)を実現します。
なお、カードを取得していなかったり、不携帯だったりした場合など、カードリーダーを利用したマイナ保険証による資格確認ができない時は、医療機関・薬局が患者さんの健康保険証の番号などを端末に入力してオンライン資格確認等システムにアクセスして本人確認する場合もあります(現在はこのパターンも多い)。
ちなみに、図表1の下段にあるように、カードを使ってマイナポータルにログインすれば、オンライン資格確認等システムが保持している自分の医療情報を閲覧することは可能です。
カード普及の状況
総務省の調査によれば、カードの保有者は、令和6年1月31日時点で9,168万人、人口に対する保有率は73.1%(令和5年1月1日時点の人口12,542万人が分母)です。
令和5年11月~12月に実施されたデジタル庁のWebアンケート調査(対象者20,000人)によれば、「カードを取得している。また、常に持ち歩いている」と回答した人の割合、つまりカードの携行率は43.1%。この割合を令和5年1月1日時点の人口に当てはめると、カードを常に持ち歩いている人は5,405万人になります。
また、令和6年2月上旬に厚労省がカード保有者に対して行ったWebアンケート調査(対象者3,000人)でも、「財布などに入れて、いつも持ち歩いている」が42.7%、「必要に応じてのみ、持ち歩いている(役所に行くとき等)」が27.5%。つまり、「約4割がマイナンバーカードを常に携行。必要に応じて持ち歩いている方も含めれば7割が携行」していることになります。ちなみに、先の令和6年1月31日時点のカード保有者9,168万人に当てはめて計算すると「財布などに入れて、いつも持ち歩いている」が3,915万人、「必要に応じてのみ、持ち歩いている(役所に行くとき等)」が2,521万人。両者を合わせると、6,436万人です。
マイナ保険証の利用率
マイナ保険証の利用率は、「マイナ保険証利用件数÷オンライン資格確認利用件数」で計算されます。分母のオンライン資格確認利用件数には、カードリーダーを使ったマイナ保険証の利用件数だけでなく、医療機関・薬局が患者さんの健康保険証の番号などを端末に入力してオンライン資格確認等システムにアクセスして本人確認した件数も含まれます。
図表2の左のグラフ(オンライン資格確認の利用件数)は、医療機関・薬局からのオンライン資格確認等システムへのアクセスをカウントしたものです。令和5年4月にオンライン資格確認等システムの医療機関・薬局への導入が義務化されたことにともない、オンライン資格確認の利用件数は大幅に伸びています。しかし、右のグラフ(マイナ保険証の利用件数)では、義務化された令和5年4月をピークにして減少傾向に転じているのは、同年5月に健康保険証情報とマイナンバーの紐づけの誤りが発覚したことが影響しています。幸い、大規模なデータの照合等を実施するなどの対策が功を奏したのか、今年1月には利用率が上向き始めています。とはいえ、利用率はまだ5%前後です。
マイナ保険証の薬局における利用率
図表3は、マイナ保険証の利用率ごとの施設数を示しています(図中の注釈の「MNC」はマイナンバーカードの略称、「オン資」はオンライン資格確認の略称)。
左の全体(医療機関・薬局)のグラフでは、利用率が3%未満の施設が占める割合は(36,589+34,962)÷142,970≒0.500、つまり50.0%です。言い換えれば、医療機関・薬局合わせた142,970施設の半分は、マイナ保険証の利用率がまだ3%に達していないわけです。
さらに、右の薬局だけの利用率と施設数のグラフによれば、3%未満の施設が占める割合は72.4%に達しています。この数字が意味しているのは、カードの携行率は4割から7割に達しているにもかかわらず、薬局におけるマイナ保険証の利用率は3%未満という施設が大多数ということです。医療機関に比べて薬局の利用率が低いのは、薬局では処方箋だけで資格確認ができるために、マイナ保険証の利用が進まなかったためと見られます。
マイナ保険証利用促進策・マイナ保険証の利用勧奨等
「約4割の人がカードを常に携行、必要に応じて持ち歩いている人も含めれば7割が携行」しているのであれば、来局する患者さんにカード(マイナ保険証)の使用を促すだけで、マイナ保険証の利用率の4割を達成できるかもしれません。
厚労省は、マイナ保険証の利用率の向上のために、マイナ保険証の認知度を高めることを優先した、次の取り組みを求めています。
窓口にきた患者の方々に対して、「保険証をお持ちですか」ではなく、「マイナンバーカード(マイナ保険証)をお持ちですか」とお声をかけていただく
マイナ保険証利用促進のための患者向けリーフレットなどによる周知、健康保険証の利用申込み(カードを健康保険証として利用する、つまりマイナ保険証として利用するには、最初に申込みが必要)に関する掲示等による案内
各薬局のHPにおいて、持参するものとして「保険証」のみを案内している事例がみられるが、「マイ ナンバーカード」をご案内いただく
利用率の目標設定、担当者の配置やマイナ保険証利用者のための専用レーンの設定
カードリーダーの操作に慣れない患者へのご説明(支援金による支援)
診察券・こども医療費助成などの受給者証のマイナンバーカードへの一体化
なお、利用率の目標を設定したり、「支援金」の見込額を把握したりするのに利用できるように、令和6年1月からは、社会保険診療報酬支払基金より各薬局のマイナ保険証の利用実績が毎月通知されています。
マイナ保険証利用促進策・マイナ保険証利用等に関する診療報酬上の評価と支援金
図表4は、令和6年度診療報酬改定におけるマイナ保険証利用等に関する評価についての考え方です。
医療情報取得に対する加算は、現行では「マイナ保険証の利用あり」よりも「マイナ保険証の利用なし」のほうが評価されている状態ですが、これについては改定が施行される6月以降も継続です。
マイナ保険証利用の促進策としては、カードリーダーの操作に慣れない患者さんへの説明など、マイナ保険証の利用勧奨に取り組んで一定の実績を上げている薬局に対し、令和6年1月から支援金による支援を開始しています。
また、診療報酬においても、6月からマイナ保険証や電子処方箋などによる医療DX推進を評価する医療DX 推進体制整備加算が新設され、調剤で4点が算定できます。その施設要件としては次のような項目があります。
マイナ保険証での取得情報を活用して調剤できる体制【2024.6~】
マイナ保険証の利用勧奨の掲示【2024.6~】
電子的な調剤録・薬剤服用歴の管理体制【2024.6~】
マイナ保険証利用実績が一定程度(●%)以上であること【2024.10~】
電子処方箋を受け付ける体制【2025.4~】
電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制【2025.10~】
「4」の●部分は、10月から適用される要件であり、図表4の(令和6年度診療報酬改定)答申書付帯意見に見られる「今後のマイナンバーカードの利用実態及びその活用状況を把握し、適切な要件設定に向けた検討」によって決められます。
マイナ保険証利用促進に取り組む薬局への支援金
マイナ保険証利用の促進策として、マイナ保険証の利用勧奨に取り組んで一定の実績を上げている薬局に対しては、次の条件で支援金が交付されます。
対象:マイナ保険証の利用率が、令和5年10月から5%ポイント以上増加した薬局
期間:令和6年1月~11月
前半期:令和6年1月~5月(5ヶ月間)
後半期: 令和6年6月~11月(6ヶ月間)
支援内容::前半期(又は後半期)のマイナ保険証平均利用率と、令和5年10月の利用率を比較し、図表5 の増加量に応じた支援単価を、前半期(又は後半期)のマイナ保険証総利用件数に乗じた額を支援金として交付
支援金計算におけるマイナ保険証の利用率は、図表2や図表3における利用率とは計算式が異なるので注意が必要です。
基準とされる令和5年10月(2023.10)の利用率は、「令和5年10月のマイナ保険証利用人数(名寄せ処理後)÷令和5年11月請求分 レセプト枚数(外来レセプトのみ)」の計算式で算出します。利用率の算定にマイナ保険証利用人数(名寄せ処理後)を使用するのは、マイナ保険証の利用者数を増やすことを目的とする支援策だからと見られます。
しかし、支援金を交付する際は、カードによるのべ利用件数(名寄せ処理前のマイナ保険証利用件数)に支援単価を乗じた金額とされています。たとえば、令和6年2月の利用率が令和5年10月の利用率より20%増加したとすれば支援単価は60円/件、2月のマイナ保険証利用件数が1万件であれば、60円/件×1万件=60万円が交付される計算になります。
促進策を活用して健康保険証からマイナ保険証の新しい体制へ
マイナ保険証の普及は、医療DX推進の要と見られているため、診療報酬だけでなく支援金まで駆使して利用促進が図られています。政府がなにゆえ医療DXにそれほど注力するのかといえば、日本の医療DXが他国に比して遅れているからです。医療DXが遅々としたままでは、いずれ医療の質の向上を図れなくなるという危機感が政府の医療DX推進の原動力になっている以上、この波は大きくなることはあっても小さくなることはないでしょう。
薬局経営の視点に立てば、医療DX推進の波に乗るのが得策なのはいうまでもありません。薬剤師の業務という面でも、医療DXによって効率化されていく業務に適応していくことが将来を拓くことでしょう。であれば、積極的に政府のマイナ保険証利用促進策を活用することを考えたほうがよさそうです。
(次回は5月に掲載予定です)