歯科用貴金属の価格はどのように決まっている? 保険医療材料と『歯科点数表の解釈』/『事例で学ぶ 歯科レセプト作成と点検』
歯科医療機関でう蝕(虫歯)の治療を行うとき、治療の仕上げとして、歯に被せ物や詰め物をされた経験のある方は多いでしょう。
この際に使われる「歯科用貴金属」の価格がどのように決まっているか、また、世界情勢とも密接に関係していることをご存知でしょうか。
この記事では保険診療が適用される歯科用貴金属の価格について解説します。なお、本記事は令和4年4月時点の制度に基づいた内容になっています。
歯科用貴金属とは?
歯科診療の技術やサービスなどを点数化(1点10円)した「歯科点数表」において、被せ物や詰め物は歯冠修復に分類されます。
歯冠修復は、治療後の歯の咀嚼機能や見た目を回復するために、歯の欠けた部分を人工物で補う診療行為のことです。
被せ物はクラウン、詰め物はインレーといいます。
歯冠修復には以下の種類があります。
充填
金属歯冠修復
チタン冠
接着冠
根面被覆
レジン前装金属冠
レジン前装チタン冠
非金属歯冠修復
CAD/CAM冠
CAD/CAMインレー
乳歯冠
小児保隙装置
既製金属冠
〔歯科診療報酬点数表(令和4年厚生労働省告示第54号 別表第二)第2章第12部に基づく〕
歯冠修復に内容が近い診療行為に、欠損補綴(けっそんほてつ)があります。こちらは永久歯が抜歯等で欠損した場合に行われます。
欠損補綴には、欠損した歯の両隣の歯を支えとするブリッジや、歯の土台となる床(しょう)から製作する有床義歯といった入れ歯などで補うものがあります。
欠損補綴には以下の種類があります。
ポンティック
高強度硬質レジンブリッジ
有床義歯
熱可塑性樹脂有床義歯
鋳造鉤
線鉤
コンビネーション鉤
間接支台装置
バー
口蓋補綴,顎補綴
広範囲顎骨支持型補綴
〔歯科診療報酬点数表(令和4年厚生労働省告示第54号 別表第二)第2章第12部に基づく〕
クラウンやインレー、ブリッジ、有床義歯など、歯冠修復及び欠損補綴に使われる材料には、レジン(樹脂)、セラミックス(陶材)、そして金属があります。
この金属のうち、主成分が貴金属(金、銀、パラジウム)であるものを歯科用貴金属といいます。
以下は厚生労働省が定めている歯科用貴金属の一覧です。
歯科鋳造用14カラット金合金インレー用(JIS適合品)
歯科鋳造用14カラット金合金鉤用(JIS適合品)
歯科用14カラット金合金鉤用線(金58.33%以上)
歯科用14カラット合金用金ろう(JIS適合品)
歯科鋳造用金銀パラジウム合金(金12%以上JIS適合品)
歯科用金銀パラジウム合金ろう(金15%以上JIS適合品)
歯科鋳造用銀合金第1種(銀60%以上インジウム5%未満JIS適合品)
歯科鋳造用銀合金第2種(銀60%以上インジウム5%以上JIS適合品)
歯科用銀ろう(JIS適合品)
〔特定保険医療材料の保険償還価格算定の基準について(令和4年2月9日保発0209号)より〕
歯科用貴金属の価格は変動が大きいため、その国際的な価格の変動状況を踏まえて、機能区分ごとに3ヶ月に1回改定されます。
では、歯科用貴金属の価格はどのように決まっているのでしょうか。
特定保険医療材料としての歯科用貴金属と「改定額の計算式」
診療行為に使用される医療材料の中で、保険の対象となり、材料価格が個別に設定されているものを特定保険医療材料といいます。
クラウンやインレーなどに使われる歯科用貴金属は、この特定保険医療材料に含まれます。
保険医療機関で特定保険医療材料が使われると保険給付の対象となり、医療保険者から保険医療機関へお金が支払われますが、その際に支払いの対象となる材料ごとの価格(専門的には「保険償還価格」といいます)を定めたものを基準材料価格といいます。
先に触れましたが、歯科用貴金属の基準材料価格は3ヶ月に1回見直されます。 歯科用貴金属の改定額は次の計算式によって決められます。
歯科用貴金属の基準材料価格改定の計算式
改定額は、基準材料価格が全面的に見直される2年に1度の診療報酬改定時には、次の「1」の計算式によって決められます。この式は、歯科用貴金属の平均的な購入価格を、平均素材価格を用いて補正し、一定幅を加えるものです。
それ以降、3ヶ月ごとの随時改定時には、次の「2」計算式によって決められます。こちらは改定前の基準材料価格を平均素材価格により補正します。
このしくみは、令和4年度診療報酬改定により見直されたものであり、令和4年4月1日から適用されています。
では次に、令和4年度診療報酬改定で、この価格改定のしくみはどこが変わったのか、見てみましょう。
令和4年度改定による歯科用貴金属価格の改定方法の見直し
令和4年度診療報酬改定では、「価格の変動幅に関わらず、平均素材価格に応じて年4回改定を行う」こととする見直しが行われました(下図)。
それまで3ヶ月に1回の随時改定では、平均素材価格が「一定以上変動した場合」にのみ価格改定が行われていたのです。つまり、随時改定では、一定期間に市場の価格があまり変わっていなければ価格改定は行われなかったということです。具体的には、4月・10月の随時改定では±5%、7月・1月の随時改定では±15%を超えなければ、価格改定は行われませんでした。
また、価格改定の基準となる数値については、「前回改定以降、改定3ヶ月前までの平均素材価格」から「前回改定以降、改定2ヶ月前までの平均素材価格」に見直されました。
こうした改定の背景には、歯科医療機関での歯科用貴金属の購入価格が保険償還価格を上回るいわゆる逆ザヤの問題があります。
これらの見直しにより、購入価格と保険償還価格の差が小さくなることが期待されます。
ウクライナ情勢によるパラジウム等の価格急騰を受けた「緊急価格改定」
この制度改正によって、令和4年4月の次の価格改定は令和4年7月に実施される予定でした。
しかし、ロシアのウクライナ侵攻によりパラジウム等の価格が急騰していることを受けて、特例的に令和4年1月~3月の平均素材価格を用い、5月に緊急改定が行われました(下図)。
たとえば、歯科鋳造用金銀パラジウム(金12%以上JIS適合品)の場合、令和4年度診療報酬改定時の3,149円が5月から3,413円となり、1月で1グラムあたり264円の改定がなされました。
世界情勢が「歯科点数表」に大きく影響を与えた一件であり、今後も関係者の注目を集めることになりそうです。
書籍『歯科診療報酬点数表の解釈』と『事例で学ぶ 歯科レセプト作成と点検』
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