遺族年金のしくみと手続~詳細版|#19請求者の前年所得が基準額を超過している場合
今回の相談は、夫が死亡して遺族厚生年金を請求しようとしたA子さんが、自宅近くの年金事務所で「請求者の受給要件を満たさない」と言われ、A子さんの知人2人を経由して私に依頼が来たものです。
A子さんの前年収入は高額で、一見すると受給要件を満たしていません。しかし、A子さんは数年前から適応障害を発症し、夫の死亡後は休職せざるを得ないほど、病状が悪化していました。A子さんが無収入となることを、夫の死亡日に推認されるかどうかが本事例のポイントです。
A子さんに令和4年8月15日にお会いし、状況をお聞きしました。夫のB男さんは、令和4年7月20日に敗血症で亡くなったとのことで、厚生年金保険の被保険者期間は330月ありました。A子さんにはB男さんとの間に高校2年生の子どもがいるとのことで、前年の収入は960万円でした。
請求者の前年収入が基準額を超過
ここまで聞いて、遺族基礎年金及び遺族厚生年金の受給要件に照らしてみると、A子さんとB男さんは戸籍上の夫婦で18歳年度末前の子がおり、住民票上同一世帯なので生計同一要件を満たしています。しかし、A子さんの前年収入が高額で、受給要件を満たしていません。
遺族厚生年金を受給できるのは、厚年法施行令第3条の10において「①被保険者又は被保険者であった者によって生計を維持していた配偶者、子、父母、孫又は祖父母であって、②被保険者又は被保険者であった者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって、③厚生労働大臣の定める金額(年収850万円または所得655.5万円)以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者」と規定されています。
なお、公的年金制度では、保険事故が発生した時点における生活実態に着目した上で、将来における収入を保障することを目的としています。遺族年金は、被保険者又は被保険者であった者の死亡を保険事故と捉え、死亡日における生計維持関係に着目した上で、残された遺族に対して支給されるものです。
したがって、死亡日において、残された遺族に一定以上の収入がある場合には、生計を維持されなくても生活が可能である遺族として、遺族年金の受給権者となることはありません。
また、仮に死亡日において予測不可能である事故が事後に発生し、将来において収入が減少するに至った場合でも、遺族年金の受給権者となることはありません。
ここから先は
¥ 100