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遺族年金のしくみと手続~詳細版|#5 夫の死亡当時に生活保護受給中の妻は遺族厚生年金を受給できるか

石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー

一見すると単純に見える遺族年金請求でも、添付書類をよく確認すると問題点が見えてくることがあります。今回は、そのような事例を取り上げるとともに、添付書類等について私の経験上、確認すべきポイントを具体的にお伝えします。

【事例概要】
死亡者:A男さん (昭和32年7月25日生まれ:64歳)
・令和3年8月10日に死亡
・死亡時は厚生年金被保険者・老齢厚生年金の受給者(厚生年金被保険者期間約38年間)
請求者:B子さん(昭和37年6月5日生まれ:59歳)
・令和3年9月3日に年金事務所に来所

夫婦の実態があったか疑問が残るケース

A男さんは厚生年金被保険者であり、老齢厚生年金の受給者でしたが、2年間の闘病の末に肝臓がんにより亡くなりました。翌月に妻であるB子さんが遺族厚生年金の請求で年金事務所に来所されました。

B子さんが持参した戸籍謄本、住民票、除票、所得証明等の記載事項を確認すると、遺族年金の受給要件において問題がある案件ではないかと思われました。そこで、B子さんにいろいろと質問をしました。

まず、戸籍謄本によれば、B子さんはA男さんの死亡日の3カ月前に入籍しており、死亡時において確かにA男さんの妻となっています。また、B子さんの所得証明書によれば、収入も少額のパート収入のみで、A男さんに生計を維持されていた配偶者であるかに見えました。

しかし、住民票と除票をよく見ると、同一の住所地に住民票はありましたが、A男さんとB子さんは、それぞれが世帯主となっており、世帯は分離となっていました。また、A男さんの住民票の除票の「住民となった年月日」欄を見直すと、B子さんが以前から居住していた家に、A男さんが婚姻届提出日に住所を移動し、それぞれが「世帯主」となっていることがわかりました。

なお、B子さんは単身者であった平成29年5月から生活保護を受給しています。

すなわち、短期間ではありますが、A男さんの死亡時において、B子さんは同一住所に居住していることとなっていますが、経済的なつながりがない一人世帯の世帯主として、生活保護を受給していました。

さらに、話を進めていくと、A男さんは在職中に勤務先で社会保険に加入しており、妻であるB子さんは被扶養配偶者の生計維持の認定基準(昭和61年3月31日庁保発第13号)を満たしているにもかかわらず、被扶養者となっていませんでした。

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