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地域医療における動画配信の活用|第2回:医療系YouTuberになる方法(益田裕介)

今回は自分自身の経験を交えながら、YouTuberないしインフルエンサーになる方法をお伝えしようと思います。そういうと、「確かに動画は作ってみたいと思ったことはあるけれど、インフルエンサーになりたいかと言われると、なんだか身構えてしまうな……」と躊躇してしまう人の方が多数でしょう。しかし、動画制作のやり方についてはごまんと記事があると思いますし、僕自身は動画制作については素人同然の知識しか今もないです。なので、動画制作について興味がある方は、他の記事を読んでもらうのがいいと思います。

そうではなく、益田のように医療系YouTuberになりたい、インフルエンサーとして影響力を持ち、情報発信と共に自分の実現したいことを視聴者の人と一緒に作り上げていきたい、と思っている方には(日本に何人いるか分かりませんが)、とても興味深い記事になるのではないかと思います。そういう記事であれば、僕にしか書くことができないし、意味がある記事だと思うので。


そもそも無限コンテンツ時代において、インフルエンサーとはどんな存在なのか?

家族が食卓を囲み、全員で1台のテレビを見ていた時代と異なり、現代は一人に1台以上のスマホやパソコンがあり、デバイスの中にはテレビ番組とは比較にならない程の大量のチャンネルがあり、チャンネル毎にコンテンツが日々生まれています。しかも、それらのコンテンツはストックされ、いつでも見直すことが可能です。ほぼ無限のコンテンツがあり、昨日より今日、今日より明日とコンテンツは加速度的に増加しています。

こうした無限コンテンツ時代は、我々にとって、情報が溢れる豊かさと、その一方で個々のコンテンツが埋もれていく危険をもたらしています。無尽蔵の知識の海は豊かさをもたらす一方、その海を航行することの困難さも生み出しました。

この時代において、インフルエンサーは重要な航路指標となり得ます。彼らは、視聴者が興味を持つテーマや問題に対する解説者であり、情報の洪水の中で目印となる灯台のような役割を果たします。
この役割はA Iや既存のマスメディアでは代替できないようです。インフルエンサーを中心としたコンテンツやコミュニティは世界中で同時多発的に出現しており、やはり人間は生身の人間に注目するようで、そこには抗い難い本能のようなものが絡んでいるかもしれません。

1.専門家としての信頼性

インフルエンサーは専門家としての立場から、信頼性の高い情報や知識を提供します。特に医療系の情報は専門家でなければ扱いにくいものも多く、非専門家による私利私欲目的の誤った情報も流布しやすいため、専門家がインフルエンサー業務をすることは社会的意義が高いです。

2.視聴者の代弁者

インフルエンサーは視聴者の疑問や関心を代弁し、その声を形にすることができます。時には、主流メディアでは取り上げられにくいトピックや意見に光を当てることで、多様な視点を提供します。医療従事者は問題の最前線におり、誰よりも早く問題に気づき、情報発信することができます。

3.共感の創出

インフルエンサーは人間的な魅力や個人的な経験を通じて、視聴者との共感を築きます。この共感が、視聴者の安心や承認という生理的な欲求さえ満たします。

4.直接的な情報伝達

インフルエンサーはSNSやYouTubeなどのプラットフォームを通じて、視聴者に直接情報を提供します。これにより、時事問題や専門的な話題について、マスメディアや企業スポンサーのバイアスを排除し、迅速かつ専門的な視点で情報を共有することが可能となります。

5.ジャンルの牽引者

インフルエンサーはその分野におけるトレンドや話題を生み出し、ジャンル全体の発展やコミュニティの形成を支援します。いつでも、どこからでも最新の医療情報を届けられるというのは、プラセボ効果も高めるものでもあり、イノベーションとなり得ます。

6.コミュニティおよび視聴者同士のつながりの育成

インフルエンサーはまた、自身が作るコンテンツを通じて、視聴者同士がコメントなどで意見交換する場所を作ることができます。またインフルエンサーによっては、オンラインサロンやイベントなども行い、視聴者が集まれる場も作ります。インフルエンサーを中心としたコミュニティは、共通の価値観と物語(コンテンツと歴史など)を共有しており、職場や家庭とは違う、第三のコミュニティを提供します。

このように無限コンテンツ時代は、個々の視聴者が自分にとっての価値ある情報を見つけ出すことを困難にしていますが、インフルエンサーはそのプロセスを支援し、視聴者にとっての信頼できる指南役となり得ます。
無限コンテンツ時代において、コンテンツは大量に消費されていきますが、インフルエンサーという存在は消費の流れに踏みとどまり、存在感を残し続けることが可能です。

具体的に医療系インフルエンサーは何ができる?

医師の働き方改革が2024年から始まり、医師も余暇の時間がふえます。また2030年からは徐々に医師余りの時代が来るとも言われており、直接的な医療行為以外の働き方をする医師も増えるのではないか、と思われます。

インフルエンサー業は、新たなビジネスや収入になるかもしれません。コンテンツから広告収入を得たり、コンテンツそのものを有料販売できるようになります。また、SNSをきっかけに書籍を販売したり、講演会の仕事を得ることも可能です。まだ日本では始まっていませんが、ライブコマースを始める人もいるでしょう。愛用している家電や嗜好品を紹介することで、利益を得る医師も増えるかもしれません。

インフルエンサー業は個人で行うこともできますが、規模が大きくなるにつれ、チーム制をしくことが多いです。医療現場とは違うチームのあり方が、刺激になりますし、さまざまな学びを得られます。また、分野の違う、さまざまな人と出会うことも増えますので、それらも良い刺激であり、学びになります。

オンラインサロンの形を応用し、患者会や家族会を作ることもできます。また各S N Sに搭載されているアンケート機能を利用して、大多数の人から回答を受け取ることも可能です。何万もの回答を受け取ることも可能であり、研究前の予備調査にも応用できるかもしれません。

医療系インフルエンサーになるには?

僕はもともと、診療時間の中では伝えきれない、疾患や薬、福祉制度を説明するために、YouTubeを始めました。最初から今のような形のインフルエンサー業を想定していたわけではなく、あくまで患者さんへの情報提供およびクリニックの広告として始めました。

次第に、多くの人から感謝の声が届くようになり、僕自身も意識が変わり、使命感が芽生え、どうやったら見てもらえるか? 社会的にも有益なコンテンツを作れるか? など、真剣に考えるようになりました。

YouTubeは動画の再生回数を伸ばすための無料のビデオ講座を準備してくれています。それを視聴し、その教えを忠実に守り、再生回数などのデータ分析を行いつつ、視聴者のコメントを読みながら、何が求められているかを追いかけました。視聴者のコメントには返信はできなくても、ハートマークをつけるようにしています。

投稿頻度は多い方が良いので、毎日、規則正しく、動画を投稿し続けました。やはり動画といえど接触回数が増えると、視聴者からの親密感も増す(増してしまう)ので、その効果も考慮しました。認知行動療法におけるホームワークとしての側面も意識しましたが、何より、休職中など苦しい時には毎日の投稿が嬉しいと思ったので、そうしました。また毎日やっているから、という言い訳を自分にすることができたので、クオリティにこだわらず、出し続けることができました。

3年間はものにならないだろうな、となんとなく思っていました。3年という数字に特に根拠はないのですが、プレゼン能力やマーケティングスキルなど、医学知識以外の要素もインフルエンサー業には求められるのですが、それらが身につくのに、少なくとも3年は必要だろうな、と感じていました。逆にきちんと続けていれば、3年後には人並みの力も身につくのではないか、と思っていました。僕が始めた頃は芸能人などプロの参入はなく、皆素人だったので、自分でもやれるだろう、と思ったのです。今はどうなんでしょうか? もっと時間がかかるかもしれません。

インフルエンサー業は公私を晒すカルチャーがどうしてもあり、自宅の場所までオープンにしろということはないですが、自身のプライバシーを完璧に隠し通すことはできません。別の人格を演じても、視聴者を騙し続けることはできず、動画には漏れ出てしまうものです。隠すことに必死になってしまうと、それでは魅力的なコンテンツにはならないでしょう。再生回数のためではなく、動画それ自体に治癒的な効果を付随させたいのであれば、魅力がある、という部分を追求せざるを得ません。

僕自身、最初からそれが分かっていたわけではありません。色々なキャラを演じてみたり(中田敦彦氏のようなハイテンションな講師キャラや、ひろゆき氏や成田悠輔氏のような毒舌キャラ)、素の自分を解放してみたり、試行錯誤をしてきました。が、あまりうまくいかなかったです。視聴者が求めていたものは、真摯で誠実な医師像であり、人道的な人間のあり方でした。「それはクサすぎないか?」「偽善的に見えないか?」と当初は思いましたが、医師というポジションは、それが許されるようです。ポジショニングを試行錯誤するよりも、ただひたすら真面目にしていればいいだけなので、僕自身も楽でした。そもそも医師とはそういう仕事ですし、普段の延長を続ければいいだけなので。

動画コンテンツやインフルエンサー業は、まだ青春の中

そもそも精神科医は誰でもなれるわけではありません。受験勉強の成績で上位1%に入らねばならず、才能や運が絡むでしょう。僕らも学生時代、喉から手が出るほど、医学部に合格したくて、また不合格になる不安を抱えていたのではないでしょうか。

病院で働き、周りも精神科医ばかりになると、その幸運をついつい忘れがちです。

インフルエンサー業をしていると、若い視聴者からもコメントをもらうのですが、そういう初心を思い出させてくれます。YouTubeやインフルエンサー業はまだ新しい仕事であり、若い人が多く、業界としても成熟した状態ではない、まだ青春の中にあります。こういう青春の中で働くことができるのも、面白いですし、刺激になります。

次回でこの連載は最後です。どんな内容を語ってほしいか、またコメントよろしくお願いします。

(次回は2024年1月掲載を予定しています)
 
  

筆者プロフィール

益田裕介(ますだ・ゆうすけ)/早稲田メンタルクリニック院長
防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て現職。精神保健指定医、精神科専門医・指導医。
YouTube:精神科医がこころの病気を解説するCh


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