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介護人材「異業種へ流出」に懸念、改定中間年での賃金・物価スライド導入の意見も――第223回介護給付費分科会(2023年9月8日)

厚生労働省は9月8日、第223回社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。

令和6年度介護報酬改定に向けて「介護人材の確保と介護現場の生産性の向上」を議題とし、次の【1】【4】について議論した。

「介護人材の確保と介護現場の生産性の向上」
【1】介護人材の処遇改善等
【2】人員配置基準等
【3】介護現場の生産性向上の推進/経営の協働化・大規模化
【4】外国人介護人材に係る人員配置基準上の取扱いについて

以下、【1】~【4】の内容にそって議論をみていく。


【1】加算の一本化・基本報酬引き上げ・報酬外での財源確保――処遇改善にそれぞれの意見

【1】介護人材の処遇改善等に関しては、従来の介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算に加えて、令和4年10月に介護職員等ベースアップ等支援加算が新設され、3つの加算が存在している。

しかし、介護サービス事業所の従業員の不足感は上昇しており、他産業と比較して賃金の面でも依然として低い状況となっている。

処遇改善関係の加算を取得しない理由としては事務作業が煩雑であることなどが指摘されている。

このため、介護職員処遇改善加算等の取得促進事業を行うとともに、令和5年には加算の申請様式について大幅な簡素化を行い、事業所の負担軽減が図られた。

一方、職場環境等改善の取り組みについては、実施している職場環境等改善の取組みが職員に認知されることで適切に効果が得られることや、特定の取組に注力するよりも様々な取り組みを幅広く実施することが重要と示唆されている。

こうした現状や課題を踏まえ、厚生労働省では次のような論点が示された。

(論点:介護人材の処遇改善等)
介護の現場で働く方の確保に向けて、どのような方策が考えられるか。
特に、
〇処遇改善のための措置をできるだけ多くの事業所に活用いただき、現場で働く方に届くようにする観点
〇新規人材の確保、適切な業務分担の推進、やりがいの醸成・キャリアアップを含めた離職防止や、職場環境等要件に基づく取組について、より実効性のあるものとしていく観点
から、どのような方策が考えられるか。

処遇改善にあたっては、日本介護支援専門員協会の濵田和則委員より、現在加算の対象外である介護支援専門員に関して「なんとか含めていただけないか」との要望が上がった。

介護労働安定センターによる介護労働実態調査によると、訪問介護事業所と居宅介護支援事業所の賃金月給がほぼ横並びであるというデータを示し、対応の必要性を訴えた。

また、こうした処遇改善の方策について、委員からはさまざまな意見が寄せられた。

民間介護事業推進委員会の稲葉雅之委員はさらなる手続きの簡素化を図るため、「加算を一本化するなどの思い切った効率化」を求めた。

一方、日本医師会の江澤和彦委員は、すべての医療・介護・障害福祉サービス等事業所の従業員が他の業界に遜色ない賃上げができるには、「基本サービス費のアップが不可欠」との認識を示した。

全国老人福祉施設協議会の古谷忠之委員も、基本報酬の引き上げが必要と主張。

さらに、3年に一度の介護報酬改定では「全産業平均との格差がいっそう広がり、介護人材の異業種への流出に歯止めがかからない」とし、改定サイクルの中間年における賃金スライド・物価スライドの導入について検討を求めた。

全国老人クラブ連合会の正立斉委員は、「利用者負担が発生するため」加算を取得しない事業所が全体の理由の2割を占める現状を踏まえ、事務手続きの簡素化などとは「まったく異なる理由」と危惧。

すべての施設・事業所において躊躇することがないよう、賃金引き上げの財源を「介護報酬以外の方法で確保できないか」と言及した。

【2】実態把握とできる限りの標準化を――ローカルルールの扱いに指摘

続いて、【2】人員配置基準等について議論が行われた。

介護報酬では、サービスの機能・役割に応じて専門職の配置の有無や形態(常勤・専従)、必要数等の人員配置基準等が定められている。

一方、兼務可能な範囲などは自治体ごとに異なる解釈や取り扱いが、いわゆるローカルルールとして実施されている。

さらに、人員配置基準上のテレワークの取り扱いの明確化が令和5年度中に行われることとされており、管理者のテレワーク等の取り扱いに関しては、9月5日に事務連絡が発出された。

【参考記事】

(論点:人員配置基準等)
今後も高齢化の進展による介護サービス需要の増大、現役世代の減少に伴う担い手不足が見込まれる中で、提供する介護サービスの質の担保に留意しつつ、柔軟な働き方を可能としていくため、また、デジタル原則への適合性の観点から、どのような方策が考えられるか。
あわせて、いわゆるローカルルールへの対応について、実態の把握を含めどのような方策が考えられるか。

日本慢性期医療協会の田中志子委員は、人員配置基準等に関する兼務の扱いについて、業務効率化・人材不足解消の観点から議論を進める必要があるとし、現在の限定された事業所同士以外の事業所間における規制緩和を求めた。

兼務によるケアの質の低下を心配される傾向もあるが、「必ずしも介護者数が質を担保するものではなく、質の向上は別問題」であると訴えた。

ローカルルールへの対応に関しては、日本労働組合総連合会の小林司委員が条例やガイドライン・手引きによって具体的な数値を設定している自治体が少ないことに対し懸念。

人材不足によりさらに兼務が進めば業務負担増・離職の増加といった悪循環に陥るとして、ローカルルールの運用実態の把握・現場実態を考慮した慎重な検討が必要であるとした。

一方、全国健康保険協会の𠮷森俊和委員は、次に議論される経営の共同化・大規模化を視野に「ローカルルールの存在が複数の都道府県をまたがった介護事業者の経営を難しくする」と言及。

現場の対応実態を具体的に把握し、できる限り標準化し、より柔軟な運用に寄せていく必要があると指摘した。

【3】ICT・介護助手など「ポジティブなエビデンス」へ評価を、生産性向上=業務改善はさらなる周知が必要か

【3】では、「介護現場の生産性向上の推進」と「経営の協働化・大規模化」について議論が行われた。

介護現場の生産性向上とは、介護ロボット等のテクノロジーの活用やいわゆる介護助手の活躍により、業務の改善や効率化等を進めることにある。

これにより、職員の業務負担の軽減を図るとともに、生み出した時間を直接的な介護ケアの業務に充て、利用者と職員が接する時間を増やすなど、介護サービスの質の向上にも繋げていく。

生産性向上の取り組みに関しては効果測定事業として、「見守り機器等を活用した夜間見守り」、「見守り機器以外の介護ロボットの活用」、「いわゆる介護助手の活用」、などに関する実証が行われ、

  • 見守り機器の導入割合に応じた「直接介護」と「巡回・移動」の合計時間の削減や、適時的な利用者へのケアの提供による、ケアの質の確保

  • 介護現場の課題やニーズに合わせた介護ロボットの活用による適切なタイミングでの利用者へのケアの提供や、介護職員の負担軽減

  • テクノロジーの活用および介護助手が間接業務を担うことによる介護職員の業務時間の削減とケアの質向上に資する時間の増加

等の結果が確認された。

なお、現在、介護助手等を導入(雇用)している介護施設・事業所は全体の約51%と介護助手等の活用は進んできており、女性や60歳以上の方などが介護助手等として活躍されていた。

一方、介護人材不足への対応や生産性の向上、安定的なサービス提供を可能とする観点からは、介護の経営の協働化・大規模化により人材や資源を効果的・効率的に活用することが重要であり、実態把握の事業が実施された。

協働化(法人間連携)を実施したきっかけは、「職員の確保、教育体制の強化のため」が最も多く、「多様化する地域のニーズへの対応のため」、「サービスの質の向上のため」が続いた。取り組んだ内容は、「研修等、職員教育の合同実施」が最も多く、次いで「地域貢献の拡充」となった。

また、事業展開・法人間連携を実施した目的は、「地域のニーズへの対応」が最も多く、「職員の採用強化」、「ITツール等の導入」、「災害時非常時の対応」、「財務面の強化」が続いている。

(論点:介護現場における生産性向上の推進)
今後、介護サービスの需要が更に高まる一方、生産年齢人口が急激に減少していくことが見込まれ、介護人材の確保は喫緊の課題となっている。
こうした状況を踏まえ、
〇利用者のQOLや安全等の確保を図りつつ、介護職員の業務負担軽減や介護サービスの質の向上を図り、
〇多様な人材がやりがいをもって働くことができる介護現場となるように、
更なるテクノロジーの活用やいわゆる介護助手の活躍を推進するに当たって、どのような方策が考えられるか。

(論点:経営の協働化・大規模化)
地域の実情等を踏まえた経営の協働化・大規模化の推進について、どのような方策が考えられるか。

健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員は、「ICT等テクノロジーの活用やタスクシェア・タスクシフティングの促進は生産性向上の重要なツール」という認識を示し、さらに推進していくべきとの考えを示した。

これに当たり、地域医療介護総合確保基金による介護ロボットや見守りシステム等の導入費用に対する財政支援の強化や、具体的な活用方法・好事例の横展開、研修会の実施などの導入支援の充実が必要だと訴えた。

一方、全国老人保健施設協会の東憲太郎委員は、効果測定事業の結果に着目。

ICTによる介護業務支援や介護助手の活用については導入効果が高かった一方、移乗支援の装着型・非装着型などの「メカ」については導入後に業務時間が増加したことに触れ、「ポジティブなエビデンスが出ているものをサポートし推進していくようにするべきではないか」と指摘した。

また、高齢社会をよくする女性の会の石田路子委員は、「生産性向上」という文言が誤解を招きやすく、現場のモチベーション低下につながることを危惧。

生産性向上とは「業務改善」であるという4文字があるだけでも「ずいぶん違ってくる」として、周知を進めていくことを求めた。

【4】就労6月未満のEPA候補者や技能実習生の人員基準参入に賛否、人材確保に「国際的競争」の指摘も

【4】外国人介護人材に係る人員配置基準上の取り扱いでは、人材受け入れのしくみの全体像と人員配置基準上の現状の取り扱いが示された。

具体的には、外国人介護人材にはEPA(経済連携協定)、在留資格「介護」、技能実習、特定技能1号とあり、特定技能1号と在留資格「介護」に係る人材については、就労開始後すぐに配置基準に算定できる。

一方で、EPAや介護技能実習に係る人材については、研修後6月の期間をおかなければ算定できない(日本語能力試験N2を取得している場合は就労開始から算定)。

調査によると、就労開始後6月未満の外国人介護職員による介護サービスについて、利用者が「十分満足している」「おおむね満足している」と回答した割合の合計は、EPA介護福祉士候補者で50%、技能実習生で約83%、特定技能外国人で約78%。

また、外国人介護職員の働きぶりについて、「大変仕事熱心であり、高く評価できる」「足りない部分はあるが、おおむね満足している」と回答した割合の合計は、EPA介護福祉士候補者で約68%、技能実習生で約76%、特定技能外国人で78%であった。

さらに、日本語での意思疎通の程度について、利用者が「問題なく伝わる」「話が伝わりにくいときはあるが、ゆっくり話せばおおむね伝わる」と回答した割合の合計は、EPA介護福祉士候補者では約63%、技能実習生では約81%、特定技能外国人では約81%となっている。

なお、技能実習生1人につき、入国前から就労開始までに監理団体に支払う費用の総額の平均は約55万円、就労開始後に監理団体に支払う費用の月平均の額の平均は約4万4千円であった。

また、特定技能1人を雇用するに当たって登録支援機関に支払う費用の総額の平均は約39万6千円であった。

(論点:外国人介護人材に係る人員配置基準上の取扱いについて)
EPA介護福祉士候補者及び技能実習生について、介護サービスの質の確保等に十分に配慮した上で、就労開始直後から人員配置基準に算入することについてどう考えるか。

民間介護事業推進委員会の稲葉雅之委員は、「事業者の立場からはどの在留資格であれ雇用を前提している」とし、当初から人員配置基準上1人とする取り扱いを求めた。

一方、日本労働組合総連合会の小林司委員は、就労開始から6月未満のEPA候補者や技能実習生を人員配置基準の対象とすることで、他の職員の負担増やケアの質の低下等を懸念。「安易に配置基準算定要件を緩和するべきではない」と訴えた。

日本看護協会の田母神裕美委員は、外国人介護人材の受け入れに評価にあたっては受け入れ目的に照らして非常に丁寧な指導がされているとの考えを示し、施設の管理者以外に指導にあたる職員の評価が欠かせないと主張。

アンケートで示された「日本語での意思疎通の程度」においても「問題なく伝わる」「話が伝わりにくいときはあるが、ゆっくり話せばおおむね伝わる」には幅広い状況を包括している可能性があり、「現に指導に当たっている職員の評価というものを検討することが不可欠」とした。

また、産業医科大学の松田晋哉委員は、外国人介護人材確保について、国際的な競争のもとにあるという理解が日本は足りないのではないかと言及。

ドイツやフランスでは「老年看護師」とし、資格教育に積極的に投資を行っており、技能を受けた人たちがそれぞれの国に永住できるようにしているとの事例を挙げ、外国人労働者の受け入れを国全体で考え「選ばれる市場」にならなければとの認識を示した。


次回第224回介護給付費分科会は、9月15日(金)の14時開催を予定。
議題は調整中となっている。

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