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#16 AIは、当面、再分配政策支援に活用を制限したらどうか

 AIを使って、長時間労働が問題となっている教員の事務作業を削減していくという。この場合、AIが教員に代わって、教員の仕事をとってしまうというわけではない。人に代わってAIが仕事をする場合、普通いままで、その仕事をしていた人は、仕事を奪われ、それでも引き続き働かなければ生活できないから、ほかの仕事を見つけて、転職するなどしなければならない。しかし、教員事務をAIが代わってやるといっても、この場合は、長時間労働の是正が目的だから、働き方改革の方向で、AIが活用されることになる。

 仮に、長時間労働の部分ではなく、所定労働時間の部分における仕事を、AIがとって代わるとなると、話は違ってくる。所定労働時間が削減されると、一般的には、給料も減らされることになる。たとえば、従来、1日8時間であった所定労働時間を1日4時間として、給料も変わらないのであれば、働く人たちにとってAI導入のメリットを享受できるが、それは会社にとってのAI導入の目的にはならない。利益を目的に事業を行う会社は、利益を上げるためにAIを導入するからだ。

 教員の仕事のうち、長時間労働の業務についてAIが活用しやすいのは、教員の仕事というのは、商品経済における利益を目的とする仕事ではなく、公共性の高い仕事だからということもある。しかし、教員の仕事といっても、商品経済における教育産業ということになると、労働時間の短縮は利益を低下させることになるから、AIが教員の仕事にとって代わると、時短の部分は給料の減少につながるわけだ。

 だから、商品経済が中心の資本主義経済において、AIが人の仕事にとって代わるということは、仕事を奪われた人は、いままでどおり1日8時間の仕事をして得られた収入を得たいのであれば、AIにとって代わられていない分野の仕事に就くしかない。言い換えれば、資本主義経済では、商品になりにくい生産物やサービスを供給する仕事(分野)については、会社(資本)はAIを導入するメリット(利益を得ること)を享受しにくいから、積極的には導入しない。

 商品を取り扱わない、利益を目的としない分野に対して、会社(資本)がAI導入に消極的なのに対して、商品を扱わない公共性の高い分野においては、AIの導入によって、労働に伴う負担が軽減されるというメリットがある。仕事には、面白い一面もあるが、労苦が伴う部分もある。労苦の解消ということにおいて、AI活用の余地は十分にあるように思う。

 公共性の高い部門の仕事というのは、人の生活にとって必要性が高い。一方で、商品交換で成り立つ部門は、必要性はもちろんあるが、必要以上のより豊かさを求める欲求に基づく部分の生産物やサービスが中心となる。余剰(過剰)物が売買され、そこから利益が発生する。商品経済は、買い手にとっては必要なものを手に入れる一方で、売り手にとっては余剰分を売ることによって利益を生む。

 そこで、今回言いたいことは、商品経済の外部(公共部門)では、利益を目的としないし、必要性の供給と需要がその目的であるから、必要性の達成という目的において、AIの活用は働く人にとっては、働くことに対する労苦を解消することにつながる活用方法ではないかということだ。

 世の中には、社会を支える人たちと社会に支えられる人たちがいる。経済は、人が生きていくため、社会にあって生活をしていくためのしくみではあるが、その経済のあり方が、商品経済というやり方であったり、再分配政策というやり方であったりするわけだが、いろいろなやり方が組み合わされて、人を支えたり、支えられたりしている。

 今の世の中、資本主義経済と社会保障とからなる経済システムによって、人の生活や社会が成り立っているが、こういった社会のなかで、支える立場の人と支えられる立場の人がいる。もちろん、状況によって、支える立場であったり、支えられる立場であったりするわけだが。

 進化を続けているAIを導入する部門もどんどん広がり、人の仕事にとって代わる分野も広がってきている。資本主義経済においては、先ほど言ったように、とって代わられた分野の労働者はとって代わられていない分野の仕事に転職しなければならないが、資本が参入していない分野(商品経済が一般的でない分野、利益を目的としない分野)の仕事なら、AIの導入は、人の仕事に伴う労苦の解消につながり、利益を目的としない仕事だから、労働時間を短縮しても、給料をカットされることにもならないはずだ。

 人が社会を支えてきた分野をAIが支える。必要以上の生産物やサービスを供給する必要がなくなれば、必要以上に働く必要はなくなり、AIと一部の社会を支える人とそれ以外の社会から支えられる人(もちろん、支える側と支えられる側は固定的な関係でなく、場面や状況において入れ替わるのだが。)という再分配政策が実現するようにAIを使っていくというのも、人にとっては幸せな働き方、生き方を実現するAIの活用のしかただと思う。なかなか実現するのは難しいかもしれないが、当面、AIは公共部門(再分配政策)にその活用を制限するということにしてはどうだろうか。

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