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各年金制度の令和4年度財政状況は令和元年財政検証の見通しと大きな乖離なし――第98・99回年金数理部会

厚生労働省の社会保障審議会年金数理部会(部会長=翁百合・(株)日本総合研究所理事長)は昨年12月25日および今年1月11日、厚生年金保険(第1号)、国民年金・基礎年金制度、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、私立学校教職員共済制度の令和4年度財政状況について報告を受けた。

第99回社会保障審議会年金数理部会(前掲写真は第98回)

厚生年金保険(第1号)の令和4年度財政状況は、収入総額が49兆1,517億円、支出総額が48兆4,629億円となり、収支残は6,888億円だった。年度末積立金は114兆7,253億円、積立金運用利回りは時価ベースで1.42%となった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、近年、高齢者や女性の労働参加が進んでいることから、令和4年度の第1号厚生年金被保険者数は実績(4,145万人)が見通し(3,988万人)を上回り、国民年金第3号被保険者数は実績(739万人)が見通し(779万人)を下回ったため、厚生年金財政にプラスの影響となった。保険料収入については、賃金上昇率(累積)は見通しを下回ったものの、第1号厚生年金被保険者数が上回ったため、見通しを上回って推移した。また、給付費については、年金額改定率(累積)が下回ったこと等から、見通しを下回って推移した。この結果、令和4年度の運用収入を除く基礎的な収支差の実績(+0.6兆円)は見通し(△1.2兆円)よりも改善している。さらに、運用収入の累積は、運用利回りの実績が見通しを上回り、運用収入も同様に上回った結果、令和4年度の積立比率も実績(平滑化後5.9)が見通し(5.1)を上回った。したがって、令和4年度までの収支状況や積立水準は、厚生年金の財政にプラスに寄与した。

基礎年金勘定の令和4年度財政状況は、収入総額が27兆5,705億円、支出総額が24兆6,474億円となり、収支残は2兆9,231億円だった。年度末積立金は5兆8,717億円となった。国民年金勘定は、収入総額が3兆8,331億円、支出総額が3兆7,256億円となり、収支残は1,075億円だった。年度末積立金は7兆8,745億円、積立金運用利回りは時価ベースで1.43%となった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、国民年金第1号被保険者数は、実績(1,392万人)が見通し(1,404万人)を下回っているものの、基礎年金の支え手に相当する拠出金算定対象者数は、国民年金の納付率の上昇により第1号の実績(670万人)は見通し(639万人)を上回り、第2号も増加していることから拠出金算定対象数の計も、実績(5,448万人)が見通し(5,354万人)を上回り、国民年金財政にプラスの影響となっている。また、国庫分を除いた基礎年金拠出金単価と国民年金保険料月額の差についての比較では、拠出金単価の実績(1万8,521円)は見通し(1万9,259円)を下回って推移し、保険料月額の実績(1万6,590円)は見通し(1万6,780円)を下回って推移しているものの、両者の差は見通しと比べ小さくなっており、運用収入を除く基礎的な収支にプラスの影響を与えている。この結果、令和4年度の国民年金の運用収入を除く基礎的な収支差の実績(△0.27兆円)は見通し(△0.31兆円)より改善した。また、令和元年度から令和4年度までの累積で運用利回りの実績が見通しを上回り、運用収入も同様に上回っていることから、令和4年度における積立比率は実績(平滑化後7.8)が見通し(7.3)を上回ったことから、令和4年度までの収支状況や積立水準は、国民年金の財政にプラスに寄与した。

国家公務員共済組合の令和4年度財政状況は、収入総額が3兆1,567億円、支出総額が2兆9,095億円となり、収支残は2,471億円だった。年度末積立金は6兆9,602億円、積立金運用利回りは5.42%だった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、被保険者数(108万人)については前年度(109万人)との比較では減少しているものの、見通し(105万人)をやや上回った。収支状況についてはそれほど大きな乖離がなく、積立金運用についても長期的には必要となる実質運用利回りを確保している。

地方公務員共済組合の令和4年度財政状況は、収入総額が9兆86億円、支出総額が8兆3,992億円となり、収支残は6,094億円だった。年度末積立金は21兆378億円、積立金運用利回りは4.75%だった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、被保険者数(299万人)については見通し(280万人)を上回った。収支状況はおおむね例年どおりの状況となっており、大きな乖離はなかった。積立金の運用状況についても長期的に見て年金財政上必要な運用利回りを確保していると評価している。

私立学校教職員共済制度の令和4年度財政状況は、収入総額が1兆1,140億円、支出総額が9,327億円となり、収支残は1,813億円だった。年度末積立金は2兆6,106億円、積立金運用利回りは5.38%だった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、被保険者数(60万人)は、見通しの増加率が年々鈍化していることから、見通し(58万人)を上回っている。収支状況についてはおおむね例年どおりの状況であり、大きな乖離は見られなかった。積立金の運用状況についても年金財政上必要な運用利回りを確保している。

委員からは、令和元年財政検証における見通しとの比較など資料の記載について、内容が簡潔にならないようにして、より充実した情報提供を行うよう求める意見などがあった。

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