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介護保険3施設それぞれが担う医療的役割に注目が集まる――第221回介護給付費分科会(2023年8月7日)<前編>

厚生労働省は8月7日、第221回社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。

今回は、令和6年度介護報酬改定に向けて、施設サービス(介護老人福祉施設、介護老人保健施設、介護医療院)および特定施設入居者生活介護、そして高齢者施設と医療機関の連携強化・感染対応力の向上について議論を実施した。

また、今後の検討の一環として実施される関係団体等へのヒアリングに関し、実施要領案が示された。

本記事は、第221回介護給付費分科会における議論の<前編>として、【介護老人福祉施設】【介護老人保健施設】【介護医療院】に関する内容を掲載する。


【介護老人福祉施設】配置医師と調整し医療アクセスの向上を、小規模特養へは支援を


介護老人福祉施設の請求事業所数は10,823施設、サービス受給者数は約63.2万人。

請求事業所数、受給者数、費用額は年々増加しており、介護保険給付に係る総費用のうち約21%を占めている。

平成27年より新規入所者を原則要介護3以上と見直されたこともあり、入所者の要介護度は約4.0。重度の高齢者が多数生活することから、看取りを含めた医療ニーズへの対応の強化が求められている。

令和3年度の収支差率は1.3%であるが、定員規模別で見ていくと定員100人以上の施設の場合は2.7%である一方、地域密着型の施設(定員29人以下)の収支差率は1.2%、定員31~50人の広域型の施設は-0.5%となっている。

配置医師については全体で「1人」が約67%と最も多く、その平均年齢は62.6歳。約8割の配置医師は主たる勤務先が特養以外だった。

医師に不在時の急変等対応では「配置医師によるオンコール対応」が最も多く(平日・日中で約63%、平日・日中以外で約38%)、次に多いのは「原則、救急搬送」となっている(平日・日中で約26%、平日・日中以外で約38%)。

約93%の特養が配置医師緊急時対応加算を申請しておらず、その理由としては、「配置医師が必ずしも駆けつけ対応ができない」、「緊急の場合はすべて救急搬送している」があげられた。

なお、夜間の看護体制は、「通常、施設の看護職員がオンコールで対応」が約88%と大半を占めている。

こうした状況などを踏まえ、厚生労働省では次のような論点が示された。

(論点:介護老人福祉施設)
■介護老人福祉施設について、今後も中重度の高齢者が増加することが見込まれる中、入所者のニーズにこたえ、安定的にサービスを提供するために、どのような方策が考えられるか。
■小規模介護福祉施設等の基本報酬に関し、通常の基本報酬との統合に向けて引き続き検討していくべきとされていることについて、どのように対応することが適切か。

議論にあたり、全国老人福祉施設協議会の古谷忠之委員は資料として要望書を提出。インフレ経済下における報酬の在り方や介護従事者の処遇改善など、6つの重点要望を挙げた。

このうち、医療ニーズの高まりや配置医師のほとんどが非常勤であることなどを踏まえ、特別養護老人ホームが行うべき範囲を明確にした上で、協力病院等の役割の再整理を要望。訪問診療を含む協力医療機関との体制強化、オンライン診療との組み合わせも含めた、医療アクセスの向上に関して必要性を訴えた。

日本医師会の江澤和彦委員も、配置医師1人で対応するシステムとはなっていないことを前提に、「中小病院や在宅療養支援病院との平素から顔の見える良好な関係の構築が重要」との考えを示し、配置医師が対応困難な場合に連携する中小病院がカバーを行い、バックサポート体制を構築する必要があるとの考えを示した。

また、古谷委員は、要望書の重点要望である「小規模特別養護老人ホーム(定員30人)の存続について」において、法人運営が厳しい状態におかれていることが明らかとし、①小規模特養基本報酬の引き上げ、②地域加算の創設、③特殊地域や個別事情に対応する自治体独自の支援という三階建てのしくみについて検討を求めた。

日本介護支援専門員協会の濵田和則委員も、定員規模が小さい施設ほど常勤専従要件が設けられている加算の算定率が低い傾向があることから、同一類型の併設施設等においては合計定員により専従と見なすなどの安定確保策を提案した。

また、日本看護協会の田母神裕美委員からは、介護老人福祉施設における看護職員の役割と配置状況に関する資料が提出された。

看護職員数が多い場合には看取りに関する加算の算定割合が高かったこと、夜間緊急時のオンコールを含めた看護職員体制をとり重度化に対応している施設があることなどを挙げ、「看護体制の加算の上位区分を設けるなど看護体制の評価が必要ではないか」と考えを示した。

【介護老人保健施設】ポリファーマシー対策に入所時の「かかりつけ医連携薬剤調整加算」が有効か

介護老人保健施設の請求事業所数、受給者数はわずかに減少傾向にあり費用額は横ばい、令和3年の収支差率1.9%。

施設類型では超強化型の割合が約3割と増加しており、超強化型・在宅強化型・加算型の3類型で全体の7割を占めている。

医療提供機能の評価には、肺炎等に対する治療管理を評価する報酬として、所定疾患施設療養費があり、医療ニーズへの対応力強化を図ってきた。一方で、酸素療法(酸素吸入)を行うことが可能な施設が約66%、喀痰吸引(1日8回以上)が約50%、経鼻経管栄養が約42%であるなど、施設間で提供可能な医療については差があるという報告がある。

また、かかりつけ医と連携し、薬剤を減らす取組を評価する「かかりつけ医連携加算」の算定率は1.6%~5.8%と低く、また、薬剤調整の必要性は高いと考えるが、実際に薬剤調整にあまり取り組めていないと答える施設は43.5%であった。

さらに、薬剤費が高額であることが理由で、老健の入所に困難を生じている場合がある。

看取りについては、近年ターミナルケア加算の算定回数が増加傾向となっている。

(論点:介護老人保健施設)
■介護老人保健施設の在宅復帰・在宅療養支援機能の促進に向け、医療ニーズへの対応力の強化、看取りへの対応の充実、リハビリテーションの充実、適切な薬剤調整の推進等の観点からどのような方策が考えられるか。

全国老人保健施設協会の東憲太郎委員は、機能の高い超強化型等の3類型が全体の7割を占める状況に触れ、「在宅復帰・在宅支援機能を高めるよう頑張っている結果が出ている」とする一方、1.9%という収支差率を「厳しい状況」と評価。報酬上きちんと評価されるよう、基本療養費の増額を求めた。

また、所定疾患施設療養費の対象疾患を拡大することで医療機関に搬送しなくて良くなるケースが増えるとし、心不全等を加えることについて検討を求めた。

さらに、施設における薬剤調整の取り組みについては、算定率が低く退所時の算定となる「かかりつけ医連携薬剤調整加算」について、本来は入所時がポリファーマシー対策の絶好の機会であるとし、(Ⅰ)だけでも入所時に算定ができるよう制度の変更を求めた。

高額薬剤の影響により入所困難が生じる事例については、公費負担である指定難病の治療が施設に入所すると利用できなくなることについて、「難病は明らかに(施設が担う)日常的な医療ではない」との認識を示し、公費負担医療が継続できるよう求めた。

高額な薬剤に関しては、日本医師会の江澤和彦委員も、しっかりと薬剤費を算定できるような見直しが必要であるとの認識を示した。

また、施設入所者に対して算定できる医薬品等については、日本薬剤師会荻野構一委員より、高額薬剤の処方箋を交付した場合技術料や指導料等の取扱いが明確でない部分があるとし、一定の整理が必要であるとの考えが示された。

このほか、東委員は看取りへの対応について、老健施設は特養とは異なり短い期間で亡くなる入所者が少なくないこと、医療費が基本報酬に含まれている事などを挙げ、特養とは異なる特有のターミナルケア加算の評価を求めた。

なお、ターミナルケア加算に関しては、日本慢性期医療協会の田中志子委員より「現在はターミナルケアではなくエンド・オブ・ライフケアの名称の方が使われている」として、名称の見直しが必要との認識が示された。

【介護医療院】長期療養への加算の廃止や治療に対するインセンティブを求める声

介護医療院は、移行元の割合は介護療養病床が67.3%・医療療養病床が15.3%となっており、請求事業所数が年々増加し、令和5年3月末時点で764施設。

令和3年の収支差率は5.8%となっている。

入所者32.4%が喀痰吸引、24.7%が経鼻経管栄養、17.7%が胃ろう・腸ろうによる栄養管理を行うなど、一定の医療が必要な者へサービスを提供している。

また、退所者の約5割が死亡退所であることから看取りまで対応を行う場の一つとしての機能を果たしている。

一方で、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に沿った取り組みを行った割合は約5割に留まった。

(論点:介護医療院)
■長期療養が必要な方に対する医療提供機能と生活施設としての機能を兼ね備えた施設である介護医療院について、看取りを含め、引き続き必要な医療及び介護を提供するためにどのような方策が考えられるか。

健康保険組合連合会の伊藤悦郎委員は、令和5年度末に経過措置が期限となる介護療養型医療施設に関しては、これ以上「期限を延長することがあってはならない」との認識を示し、すべての移行が完了するよう対応を求めた。

また、令和3年度の改定により新設された長期療養生活移行加算について、介護医療院はそもそも長期療養が必要な入所者のための施設であること、加算の算定率が低い状況(事業所ベースで8.2%等)であることなどから、廃止するべきではないかとの見解を述べた。

日本医師会の江澤和彦委員は、治療目的で介護医療院に入所する入所者がいることから、介護老人保健施設の所定疾患施設療養費と同様のインセンティブが必要との考えを示した。

日本慢性期医療協会の田中志子委員は、「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に基づく対応は、意思疎通が困難になった段階で行う必要があると言及。最終的な話し合いを行う際の日本版ガイドラインの作成を求めた。

なお、江澤委員は介護保険施設に関する総括的意見として、その医療的役割について言及。

特に地方の多くの地域では、少ない訪問診療などの在宅医療を、介護保険施設がカバーしており、経営危機に陥る施設への、基本サービス費の増額を要望した。


以降、【特定施設入居者生活介護】、【連携強化・感染対応】、【関係団体等へのヒアリング】に関する議論については、「第221回介護給付費分科会(2023年8月7日)<後編>」にて紹介する。

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