#29 繰下げ待機中に夫が死亡、未支給年金を離婚後内縁の妻は請求できるか
今回は、夫が老齢基礎年金及び老齢厚生年金の繰下げ待機期間中に死亡したケースです。妻は年収が1000万円あり、その夫といったん離婚し、離婚後も同居していた「離婚後内縁」の妻です。夫が繰下げていた年金を妻は未支給年金として請求できますが、年収1000万円の離婚後内縁の妻が未支給年金を請求できるかどうか、見ていきます。
繰下げ待機中の老齢年金は未支給年金として扱われる
内縁の夫であるA男さんが死亡したとのことで、B子さんが年金事務所に来されました。A男さんは老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給権者で、その繰下げ待機期間中に亡くなったとのことです。B子さんは、A男さんの未支給分(以下「未支給年金」という。)の老齢年金を請求に来所されたとのことでした。
繰下げ待機期間中の人が亡くなった場合、本来請求していれば、亡くなるまでに受け取れるはずだった年金を、未支給年金として遺族が請求することができます。ただし、繰下げによる年金額の増額はありません。
そこで、基礎年金番号等で確認すると、A男さんは65歳時点で老齢基礎年金及び老齢厚生年金ともに繰下げ請求を予定し、65歳の裁定請求をしていませんでした。また、B子さん持参の年金証書等でも、A男さんが老齢基礎年金及び老齢厚生年金の受給権者で、繰下げ待機期間中であったことは明らかです。
なお、B子さんは、親族の経営している会社の役員をしていて年収が1000万円を超えており、遺族厚生年金の収入要件を満たしていません。そこで、A男さんが繰下げ待機中だった「未支給年金」の請求に来所されたのです。
未支給年金を請求できる配偶者とは
厚生年金保険法では、「老齢給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付または年金給付で、まだその者に支給しなかったものがあるときは、その配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹またはこれらの者以外の三親等内の親族であって、死亡当時その者と生計を同じくしていた者は、自己の名で未支給給付の支給を請求できる」とされています(第37条第1項、国民年金法第19条第1項)。
遺族年金とは異なり、問われているのは「生計維持要件」ではなく「生計同一要件」です。つまり、「収入要件」は問われません。
また、ここで言われている「配偶者」には、婚姻はしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者(以下「事実婚関係にある者」という。)を含む(厚年法第3条第2項、国年法第5条第8項)とされています。
本事例の場合、B子さん持参の戸籍謄本等によると、A男さんの死亡時点において戸籍上の妻はいません。B子さんとA男さんは婚姻の届出を行った夫婦でしたが、夫婦げんかをした勢いで離婚しました。しかし、両者の住所は従来のままとなっており、A男さん死亡の当時、「離婚後内縁関係」の状態であることがわかりました。
問題は、請求人であるB子さんがA男さんが死亡当時、同人と生計を同じくする配偶者(事実婚関係にある者)と認められるかどうか、です。
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