社会福祉法等一部改正法案が衆院厚労委員会で可決(5月22日)
「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案」は22日、衆議院厚生労働委員会において、安倍晋三総理大臣や加藤勝信厚生労働大臣が参加して審議された後、採決が行われた。自民党・公明党・日本維新の会の賛成多数で可決された。立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム(立国社)及び共産党は反対した。同法案には9項目の附帯決議が付された。
附帯決議では、▽重層的支援体制整備事業の実施状況によっては、できる限り速やかに必要な見直しに向けた検討を開始する▽新たな重層的支援体制整備事業に充てる交付金について必要な予算の確保に努める▽介護福祉士養成施設卒業者への国家試験の義務付けに係る経過措置の終了に向けてできる限り速やかに検討する─などを求めた。
なお、立国社や共産が提出した「介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案」など3法案は採決が行われなかった。
相談支援は既存分野で支援を担う社会福祉士や保健師等による対応がベース
木村哲也議員(自民党)は、今般の社会福祉法等一部改正法案で創設する「重層的支援体制整備事業」による市町村の相談支援体制の構築について加藤厚労大臣の所見を尋ねた。
加藤厚労大臣は、「市町村全体で包括的に相談を受け、支援していく体制をつくっていくことが必要だ。今回の事業では、窓口を一括化してワンストップの窓口を作る例や、複数の相談窓口が連携して対応するなど、市町村の規模や状況によっていろいろあっていい。役所はどうしても縦割りになる。自分たちの地域でどういう形で総合的に相談を受けていくのか。調整を重ねて作り上げていくことが大事だ」と述べた。
令和3年4月の施行に向けて、指針やマニュアルをつくり、「市町村の実情に応じて円滑な相談支援体制を構築していただけるように努力していきたい」と意欲を示した。
さらに木村議員は、「全体に渡り網羅した人がコーディネート役に入らなければならない。どういう資格者が必要なのか」と質した。
厚労省社会・援護局の谷内繁局長は、「属性・世代を問わない相談を受け止めるため、対応する支援員の資質の確保及び向上は非常に重要だ。具体的には、現在、介護・障害・子ども・生活困窮の分野で支援を行っている社会福祉士、保健師等の専門職による対応がベースになると思う。さらに市町村全体でチーム支援を行うために、関係多機関とのつなぎ役を担う人材については、たとえば社会福祉等の相談援助に関わっている有資格者の方や福祉分野における相談支援機関で実務経験を有する者などが想定されるが、そういう方を新たに配置していくことになると思う」と答えた。
さらに、支援員の資質の確保のため、研修カリキュラムを作成し研修を行うことを説明。
加えて「都道府県には、市町村における体制構築に向けた支援や広域での人材育成やネットワークづくりなどの役割が期待されている」とし、国として都道府県とも連携して支援員の資質の確保や向上に向けた支援を進めていく考えを示した。
参加支援やアウトリーチ支援、多機関協働などは必要な予算を別途確保
宮本徹議員(共産党)は、重層的支援体制整備事業について、「自治体格差が生じないように全額国費で財源を確保し、必須事業とすべき」と指摘した。
谷内局長は次のように答えた。
「新たな事業は4分野の既存事業を一体的に実施することに加え、参加支援やアウトリーチ支援、多機関協働など既存の事業を支え、体制構築に資する新たな機能を追加することを通じて、包括的な支援体制を整備することを目的としている。この新たな事業の実施にあたっては、市町村によって高齢化の状況等、直面する課題等が多様であること、地域の関係者間での十分な事前の議論により、事業実施の考え方を共有するプロセスが重要であることから必須事業とはせず、準備が整った市町村から取り組むこととして、市町村の手上げに基づく任意事業としている。
財政措置については、4分野の各法の実施義務に基づき、人員配置基準・配置・人員の資格要件等を維持しながら必要な支援を提供するとともに、その実施に係る国・都道府県・市町村の費用負担は各法に規定する負担割合と同様として必要な予算を確保する。加えて新たな機能についても必要な予算を令和3年度に向けて要求していく」
経過措置の延長は介護の専門職の軽視であり、国家資格の軽視
審議の後、立国社を代表して阿部知子議員(立憲民主党)と宮本議員(共産党)が反対討論に立った。両氏とも、介護福祉士養成施設卒業者への国家試験義務付けに係る経過措置の延長等を問題視。
加えて、阿部議員は、「審議の前提が整っていない。新型コロナ禍に見舞われているさなか、黒川検事長辞任問題で総理の責任問題が問われるような中で審議・採決されるような事態ではない」とし、審議の延期を求め、採決そのものを批判した。
宮本議員は、平成28年改正を振り返り、「介護職員の社会的地位の向上のため養成施設ルートの国家試験義務付けを確実に進めるとした衆参両院の附帯決議を真っ向から踏みにじるもの」と批判。さらに「介護福祉士は介護の現場で中核的な役割を果たす指導的専門職。経過措置の延長は介護の専門職の軽視であり、国家資格の軽視だ。介護福祉士の専門性の向上を目指した法の趣旨にも反する。介護福祉士をきちんとした国家資格として確立し、社会的評価を高めてこそ、介護の質の確保と人材の確保の両立を図る道だ」と訴えた。
その後、社会福祉法等一部改正法案の採決を行い、自民・公明・維新の賛成多数で原案のとおり、可決すべきものとして決した。
さらに、9項目の附帯決議を付すことを採決し、全会一致で決した。
地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議