【詳解】第76回社会保障審議会介護保険部会(3月20日)
介護保険部会が介護予防・健康づくりと保険者機能の強化について議論
社会保障審議会介護保険部会(遠藤久夫部会長)は20日、次期介護保険制度改正に向け、高齢者の介護予防・健康づくりと保険者機能の強化について議論した。また一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会の構成員が報告された。
厚労省は、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)を含めた地域支援事業により、機能回復訓練のような高齢者本人へのアプローチとともに、地域で暮らし続けるための社会参加を軸に全ての高齢者を視野に入れた取り組みを推進していくことを提示した。
さらに今年度から導入している保険者機能強化推進交付金(インセンティブ交付金)について、こうした取り組みをさらに実効的なものにする仕組みづくりを検討することを示した。こうした方向性には概ね賛同が得られた。
またインセンティブ交付金の評価指標についてアウトカムを重視する声が複数の委員から上がった。地域支援事業の主たる担い手である地域包括支援センター(包括)の負担増の状況を複数の委員が指摘し、人員増などを求めた。
インセンティブ交付金の指標やメリハリ付けも示す
厚労省は、具体的な論点について、地域支援事業の更なる推進に関連して①地域包括支援センター②ケアマネジメント③総合事業等─について、現状・実施状況の評価や課題、改善点などの意見を求めた(図表1-4)。
また総合事業の一般介護予防事業等に関して、住民主体の通いの場という点は維持しつつ、効果的な取り組みを進めるため、専門職の関与の方策や事業等のPDCAサイクルに沿った更なる推進方策について考えを尋ねた(図表5-7)。
さらに、こうした介護予防等の推進を図るため、保険者機能推進交付金のインセンティブ機能の強化に向け、指標の見直しやメリハリ付け等について意見を求めた。
厚労省はインセンティブ交付金の評価指標の2018年度の評価結果を踏まえ、2019年度の評価指標を見直す方針も紹介した。
たとえば、▽達成状況の高い指標等は配点を減らしメリハリをつける。▽都道府県の評価指標には、管内市町村で得点が著しく低い市町村がある場合は減点とする指標を新たに導入する。▽アウトカム指標(要介護状態の維持・改善度合い)について対象に要支援者を追加するなど精緻化を図る(図表8・9)。
介護予防等をポピュレーションアプローチとして実施することに賛意
意見交換では、日本医師会の江澤和彦委員は、地域支援事業について「ハイリスクアプローチが必ずしも上手くいかなかったと思う」と述べ、ポピュレーションアプローチを進めていく方向を支持した。また一般介護予防事業の「通いの場」(参考1)について「質が重要ではないか。専門職との連携に期待している」と述べた。
また認知症の人への支援にも言及。「薬の開発も厳しい状況。地域共生ということで足元を重点化することが重要ではないか」と指摘した。他方、国の認知症施策推進関係閣僚会議で「発症予防」を強化する方向が出ていることにも期待を寄せた。
全国市長会の大西秀人委員も健康づくり・介護予防の取り組みをポピュレーションアプローチとして介護保険の事業に関連させて実施していく方向に賛意を示した。
また大西委員は、市町村の財政状況が厳しいことから保険者自体の持続可能性の観点から「広域化も真剣に検討すべき時にきているのではないか。都道府県との連携、役割分担に基づいたより強固なシステムを構築していく必要があるのではないか」と提起した。他方で「地域のつながりの強化」では市町村が基本であり、「市町村を基本としながらいかに保険者機能を強化していくか」と述べた。
健保連の河本滋史委員は、総合事業の多様なサービスの利用が進んでいない原因の分析と対応を求めた。また「一般介護予防事業についてエビデンスをとって費用対効果など効果を検証すべき」と訴えた。
「通いの場」の推進に賛意を示しつつ、2号被保険者の保険料が使われること(参考2)に疑問を提示。地域支援事業で2号保険料が投入される事業とそうではない事業があることから、その「線引き」も今後再検討を要望した。
日本介護福祉士会の石本淳也委員は、総合事業など地域支援事業をより推進していくには「住民の理解」が重要であることを強調。介護保険が複雑になっている中で、自助・互助や介護予防への理解を得られるように分かりやすくメッセージを投げかけることが課題とした。
桜美林大大学院教授の鈴木隆雄委員は、健康づくり・介護予防の推進に関連して、「前期高齢者と後期高齢者では全く違う集団」と指摘。「後期高齢者が増加している中で健康寿命を一斉に延ばすことが現実に可能なのか。前期高齢者では可能であり、疾病予防が大きな意味をもつが、後期高齢者は老化そのものがリスクとなる」と述べた。
さらに「後期高齢者が非常に多い市町村と前期高齢者が非常に多い市町村では、良くなる伸びしろが全く違う。そうした部分を調整しなければならない。後期高齢者が多い市町村ではインセンティブがつきにくい。高齢者の特性に応じた制度のありようを考えていく必要がある」と訴えた。
評価指標にアウトカムの重視を求める
インセンティブ交付金やその評価指標についても複数から意見が出された(参考3・4)。
健保連の河本委員は、インセンティブ交付金について、「状態の維持・改善などアウトカムの評価指標を重点的に評価すべき。取り組みが革新的な保険者には大きく加点すると同時に、本来やるべきことができていない保険者からはペナルティをとることも将来考えていくべき」と述べた。
協会けんぽの安藤伸樹委員も、介護予防について、アウトカムの評価指標をつくることを提案。またインセンティブ交付金そのものの効果も示すように要望した。
市長会の大西委員は、2019年度にも見直される評価指標について「中長期的な観点に立った、目標が分かりやすい指標」の設定と、交付金の安定的な財源の確保を求めた。
全老健の東憲太郎委員もインセンティブ交付金の評価指標としてアウトカム指標を重視することを支持。医療・介護連携のアウトカム指標などを検討するよう求めた。
地域包括支援センターの業務負担軽減や人員増を求める
連合の伊藤彰久委員は、包括で相談件数など業務負担が増加している状況(参考5)を踏まえ、「人員は十分ではない。増員が必要」とし、財源の手当も求めた。また介護予防支援について居宅介護支援事業所に移行していく方向で考えるように訴えた。
介護福祉士会の石本委員も包括については「現状はハード。ますますニーズも複雑化していくと思われる」と指摘。「暮らしにくさ、生活支援のニーズに向き合うためには介護の視点に特化した専門職の配置が今後、必要ではないか」と検討を求めた。
日医の江澤委員も包括の介護予防ケアマネジメント業務の負担増を指摘し、包括で担う場合は人員増を考えていくこと求めた。そうではない場合は「業務から外していく」ことも考えるように求めた。
全老健の東委員は、包括の業務負担増に触れ、「新たな財源の投入よりも今ある社会資源を上手く利用すべき」として、老健施設を運営している法人で包括を受託する場合、老健施設と別々に運営することになるが、一体的に実施できるよう見直すように求めた。
また老健施設には2018年度介護報酬改定で基準において地域貢献が義務付けられたことに触れ、「フレイル対策など介護予防事業を担うことを義務付ける」ことを提案した。
一般介護予防事業の検討会の構成員が示される
厚労省は、前回設置を説明していた「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の構成員を部会に示した。座長は遠藤久夫部会長が務める予定だ。また団体からの構成員は現在、選定中である。
検討会の初会合は4月に開催する予定であり、夏頃に中間とりまとめを行い、部会に報告する。年内に検討結果をとりまとめ部会に報告する予定だ。
部会では民間介護事業推進委員会の山際淳委員が、検討会の構成員について、総合事業のサービス提供の担い手の中心となっている民間介護事業者の意見も反映できるような構成とするように求めた。介護福祉士会の石本委員、全老健の東委員なども同調した。
◎一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会 構成員
▽荒井秀典(国立長寿医療研究センター病院長)▽遠藤久夫(国立社会保障・人口問題研究所所長)▽近藤克則(千葉大教授)▽近藤尚己(東大大学院准教授)▽田中和美(神奈川県立保健福祉大教授)▽辻一郎(東北大教授)▽津下一代(あいち健康の森健康科学総合センターセンター長)▽藤原佳典(東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム研究部長)▽堀田聰子(慶大教授)▽山田実(筑波大教授)▽日本医師会▽日本歯科医師会▽日本薬剤師会▽日本看護協会▽日本介護支援専門員協会▽全国知事会▽全国市長会▽全国町村会▽協会けんぽ▽健保連▽高齢社会をよくする女性の会▽全国老人クラブ連合会