
運用収入の実績が見通しより改善する傾向に――令和5年度財政状況
厚生労働省の社会保障審議会年金数理部会(部会長=翁百合・(株)日本総合研究所理事長)は昨年12月23日と今年1月14日、厚生年金保険(第1号)、国民年金・基礎年金制度、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、私立学校教職員共済制度の令和5年度財政状況について各実施機関から報告を受けた。いずれの制度でも実質運用利回り(スプレッド)が見通しを上回る結果が示された。
厚生年金保険(第1号)の収入総額は49兆701億円、支出総額が46兆7,084億円となり、収支残は2兆3,617億円だった。年度末積立金は117兆1,309億円、積立金運用利回りは時価ベースで21.69%となった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、近年高齢者や女性の労働参加が進んでいることから、令和5年度の第1号厚生年金被保険者数は実績(4,221万人)が見通し(3,983万人)を上回り、国民年金第3号被保険者数は実績が見通しを下回ったため、厚生年金財政にプラスの影響となった。保険料収入については、賃金上昇率(累積)は下回ったが、第1号厚生年金被保険者数が上回ったため、保険料収入は上回って推移。給付費については、年金額改定率(累積)が下回ったこと等から、給付費は下回って推移した。この結果、令和5年度の運用収入を除く基礎的な収支差の実績は見通しよりも改善している。さらに運用収入は年度により変動はあるものの、令和元年度から令和5年度までの累積でみると、運用利回りの実績が見通しを上回っており、運用収入も同様に上回った。この結果、令和5年度の積立比率も実績が見通しを上回っている。したがって、令和5年度までの収支状況や積立水準は、厚生年金の財政にプラスに寄与した。
基礎年金勘定の令和5年度財政状況は、収入総額が25兆5,565億円、支出総額が25兆633億円となり、収支残は4,932億円だった。年度末積立金は3兆8,804億円となった。国民年金勘定は、収入総額が3兆7,389億円、支出総額が3兆5,011億円となり、収支残は2,378億円だった。年度末積立金は8兆1,232億円、積立金運用利回りは時価ベースで21.79%となった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、国民年金第1号被保険者数は、実績が見通しを下回っているものの、基礎年金の支え手に相当する拠出金算定対象者数は、国民年金の納付率の上昇により第1号の実績が見通しを上回り、第2号も増加していることから拠出金算定対象数の計も、実績が見通しを上回り、国民年金財政にプラスの影響となっている。また、国庫分を除いた基礎年金拠出金単価と国民年金保険料月額の差についての比較では、拠出金単価の実績は見通しを下回り、保険料月額の実績も見通しを下回って推移した。この結果、令和5年度の国民年金の運用収入を除く基礎的な収支差の実績は見通しと同程度となっている。ただし、令和元年度から令和5年度までの累積で運用利回りの実績は見通しを上回っており、運用収入も同様に上回っていることから、令和5年度における積立比率は実績が見通しを上回る結果となっている。したがって、令和5年度までの収支状況や積立水準は、国民年金の財政にプラスに寄与している。
国家公務員共済組合の令和5年度財政状況は、収入総額が3兆3,296億円、支出総額が2兆9,764億円となり、収支残は3,532億円だった。年度末積立金は7兆3,134億円、積立金運用利回りは8.44%だった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、被保険者数は見通しを上回っているものの、賃金上昇率が下回ったことなどから、保険料収入は将来見通しを下回っている。運用収入については、年金積立金の運用実績が好調であったことから将来見通しを大幅に上回り、「収入」は将来見通しを上回っている一方、受給者数が見通しを下回っていることなどから給付費は将来見通しを下回り、「支出」は将来見通しを下回っている。収支残が大幅に改善したため、年度末積立金も将来見通しを大きく上回る結果となった。年金積立金の運用については、令和元年度から令和5年度までの累積でみると、運用利回りの実績が見通しを上回っており、長期的に必要となる実質運用利回り(スプレッド(対賃金))を確保する結果となった。
地方公務員共済組合の令和5年度財政状況は、収入総額が9兆9,519億円、支出総額が8兆1,324億円となり、収支残は1兆8,194億円だった。年度末積立金は22兆8,572億円、積立金運用利回りは9.02%だった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、保険料収入については、将来見通しを下回っているものの、運用収入が将来見通しを大幅に上回ったため、「収入」は将来見通しを大幅に上回っている。一方、受給者数が見通しを下回っていることなどから給付費は将来見通しを下回り、「支出」は将来見通しを下回っている。この結果、収支状況については財政検証との比較で大幅に改善した。年度末積立金は、将来見通しを大幅に上回る結果となったほか、年金積立金の運用実績は年度によりばらつきがあるものの、令和5年度までの累積でみると、運用利回りの実績が見通しを上回り、長期的に必要となる実質運用利回りを確保する結果となった。
私立学校教職員共済制度の令和5年度財政状況は、収入総額が1兆2,393億円、支出総額が9,052億円となり、収支残は3,341億円だった。年度末積立金は2兆9,447億円、積立金運用利回りは9.29%だった。令和元年財政検証における見通しと比較すると、収支状況については見通しを大幅に上回った運用収入を除いておおむね例年通りとなり、大きな乖離はみられなかった。被保険者数の実績は見通しを上回った一方で、賃金上昇率は令和元年度以降いずれも実績が見通しを下回っている。積立金の運用状況については、年金財政上必要な運用利回りを大きく上回る結果となった。