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#14 AIは「神」になってしまうのか

 AIが、ひとがやっている仕事の多くを、ひとに代わってやってくれるようになるという。私の代わりに、AIが原稿を書いてくれたら、楽だし、編集部の人手不足も解消できるんだがなあ。そんなことを考えていたら、「グーグルが記事作成AI 報道機関向け開発」という記事が新聞に載っていた(日本経済新聞2023年7月21日(夕刊))。とはいえ、その記事にあったが、報道機関は記事作成AIの導入には慎重のようだ。

「AIに仕事を奪われる職業」って何ですか、とAI(Google検索)に聞いてみた。すると、「10年後AIによってなくなる可能性がある仕事12選」として、一般事務員/銀行員/警備員/建設作業員/スーパー・コンビニ店員/タクシー運転手/電車運転士/ライター/集金人/ホテル客室係・ホテルのフロントマン/工場勤務者/薬剤師――との答が返ってきた。この原稿を書いている私もライターにほかならないから、仕事を失ってしまうわけだ。

 さきほどの新聞報道にもあった、報道機関がAIの導入に慎重になるのはなぜだろうか。AIが作成した記事に対して、「精度への不安」も導入に慎重になる理由にあげられていたが、すさまじい早さで進化をとげるAIに、精度に対する不安など、解消するのに時間の問題にもならないことかもしれない。

 報道機関の端くれとして思うのは、「原稿書きという仕事を取られたくない」という「思い」なんじゃないかと思う。原稿書きを仕事とするものとして、その仕事に、少なからず「誇り」を持っているからかもしれない。

 ライターだけじゃない。さまざまな仕事のプロ(職業人)は自分の仕事(労働)に対して誇りであったり、労働の尊さであったり、人によっては「労働を通じての自己実現」とか、そうなってくると、信念とか、生き方とか、労働ということにかなり強い思い込みや意味を与えられている。だから、AIがひとに代わって、その仕事をやるからといって、「はい、そうですか」とは、簡単に手放せないのではないかと思う。

 ただ、その仕事(労働)が、どういう世の中の経済のしくみ(生産とか交換のしかた)のなかで、取り組まれているかで、事情は変わってくる。資本主義経済においては、会社がひとの労働に代わって、機械やAIを導入するのは、仕事の効率性を高めることによって、利益(利潤)を上げるためであって、労働者に楽をさせるためではない。会社(資本)は、利益(利潤)を上げることが会社(資本)の目的で、そのために事業(経済活動)を行っている。それが資本主義経済のあり方だ。

 だから、資本主義経済において、労働者は利益を目的に働かされているのだから、AIがひとに代わって仕事をするということは、ひとよりも効率的に利益を上げることができるから、会社はAIを導入し、仕事を失った労働者は、ほかの利益を目的とする仕事を探して、賃金を得るため、働くことになる。

 仮に、ひとの経済活動の目的を「利益のため」とするのではなく、「ひとが生きていくため」としたら、どうだろう。そうした経済社会においてAIを導入して、ひとが生きていくための財やサービスをAIが効率的に生産したり、提供したりしてくれるのであれば、AIに仕事を代わってもらった人は、その仕事をしなくてもいいし、その仕事に従事する時間が短縮されたり、ほかにひとが生きるために必要とする仕事についたりできるようになり、少なくとも「利益」ということのために働かされなくてもすむはずだ。

 そして、いまAIの進化に対する規制が問題になっているが、それはどうやら、AIがひとの代わりに仕事をしてくれる、仕事内容によっては、「ひとの代わりに考えてくれる」というひとの「知」の領域に「道具」として入り込み、ものすごい進化を遂げていることに対して、これってなに?って、ひとが考えなければならなくなってきていることの表れなんだろう。

 しかも、ひとがつくったもの(AI)が、ひとよりも、高い計算力、高い記憶力(量的な進化)、そして高次元での思考(質的な進化、人とは異次元の思考のしかた)によって、ひとの知のあり方を超えようとしている。そうなると「道具」(ひとが使いこなすもの)ではなくなってしまおうとしている。

 ひとは、知を超えたなにものかを説明できないし、認識できない。それは自然であったり、世の中の摂理であったりするのかもしれないが、そういうものに対しては、畏れたり、信じたりするしかなかった。しかも、AIはひと自身がつくったもの(認識の対象であったもの)が、有限なひとの知を超え、無限のなにものかになろうとしている。そういうものは「神」という言い方をされるが、ひとの知を超えた、ひとの知が認識しようのない「神」なら、ハナっから相互承認など成り立ちえないし、折り合いなんかつかないのだから、ついにAIは「神」になってしまうということなのだろうか。 

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