介護休暇・介護休業の取得促進を提言─介護離職の防止に向けオンラインセミナーが実施される(9月14日)

日本経済調査協議会と埼玉県経営者協会は9月14日、オンラインセミナー「介護離職を考える集い」を実施した(埼玉県と埼玉労働局が共催)。

セミナーでは、日本経済調査協議会が設置した「介護離職問題調査研究会」(主査=結城康博淑徳大学教授)がこのほどまとめた、『「介護離職」防止のための社会システム構築への提言』の最終報告書について、結城教授が報告した。

最終報告書では、介護離職の防止に向けて、介護休暇・介護休業の取得の促進をめざし、政府の骨太の方針に介護休暇・介護休業取得率を前年度より引き上げる数値目標を盛り込むことなどを提言している。

参考:https://www.nikkeicho.or.jp/info/2281/

さらにセミナーでは、結城教授をコーディネーターに、調査に協力した企業関係者などによるシンポジウムも行われた。

介護休暇・介護休業の取得者がいる企業の方が、介護離職者を把握

介護離職問題調査研究会は2019年6月に、ケアマネジャーに対して調査した結果を中間報告書としてまとめたが、今回は埼玉県経営者協会の協力を得て、企業側の「介護離職」における意識調査を行った。最終報告書では、中間報告書を踏まえ、「介護離職」防止のための論点を分析している。

今回の調査では、埼玉県経営者協会会員企業650社を対象にアンケートを実施。140社から有効回答が得られた。調査対象企業の72・1%で親や親族の介護が必要な従業員がいる(いた)と回答。介護離職の防止が経営管理上でも「重要」との答えが83.6%と高かった。

介護休暇・介護休業の取得状況をみると、「取得者がいる」は43.6%、「いない」が53.6%などとなっていた。他方、介護離職者の把握については「把握している」が69.1%、「していない」が20.9%。

「介護休暇・介護休業の取得者の有無」と「介護離職者の把握」の関係についてみると、介護休暇・介護休業の取得者がいる企業の方が、介護離職者を把握している傾向がみられた。「介護休暇・介護休業取得者がいる」と回答した企業では、「介護離職者を把握している」と回答した企業が多く(85.5%)、逆に「介護休暇・ 介護休業取得者はいない」と回答した企業は「介護離職者を把握していない」(29.9%)が多くなっていた。

報告書では、企業が介護離職者を積極的に把握するようになる背景には、雇用調整や労務管理上の諸手続きが必要になる介護休業・休暇の取得者が社内にいることが大きく影響していると推察している。

また介護離職防止対策の有無では、予定も含めて52.5%が「有り」と回答。介護離職防止対策が有る企業の方が、介護離職者を把握している傾向が示された。さらに介護離職防止対策が有る企業の方が、介護休暇・介護休業取得者がいる傾向が示された。

最終報告書では、「介護休暇・介護休業取得者がいることが結果として介護離職に前向きな企業と判断できる」と指摘。厚労省の2017年8月の資料から介護をしながら働いているもののうち介護休業取得者は3.2%、介護休暇取得者は2.3%に止まることも紹介。

他方、中間報告書を踏まえ、「ケアマネジャーは職場の理解が深まれば、介護者が介護休暇・介護休業を取得しやすくなると考えており、介護現場では課題となっている」と報告。「介護休暇・介護休業制度は法律として整備されてはいるものの、その取得率が低いことが介護離職防止の動きが広がらない要因として理解できる」としている。

そのうえで、これまでの調査研究を踏まえて、①介護休暇・介護休業の取得の促進を目指し、政府の骨太の方針に介護休暇・介護休業取得率を前年度より引き上げる数値目標を盛り込むこと②介護休暇・介護休業を取得しやすくするために企業における普及啓発を促進すること③家族介護者を孤立化させないケアラー支援の充実─の3点を提言した。

このうち①について、介護休暇・介護休業の取得率が毎年引き上がることで、企業(事業主)全体の介護離職に対する意識が高まり、離職防止への社会的コンセンサスが得られるとしている。さらに毎年、取得率が前年を上回る企業には、たとえば補助金などの予算措置も講じるべきとしている。

介護離職の「四つの大罪」を訴える

セミナーでは、結城教授をコーディネーターとして、調査に協力した企業関係者や、介護離職問題調査研究会のメンバーであるケアマネジャーによるシンポジウムも実施した。介護離職問題への対応の実例などが報告された。

助言者として参加した高齢社会をよくする女性の会の樋口恵子氏が総括し、「介護離職の四つの大罪について申し上げたい。個人と社会の未来を食いつぶす大罪だ」と述べた。

第一の大罪は、介護離職者の「未来を食いつぶす」。介護離職者は中高年者が多いが、親の介護が終わった後は一般の定年年齢も過ぎていて再就職もままならない。離職期間中に収める年金保険料が減ることで、将来的に自分自身が受け取る年金が減少する問題があるなどと訴えた。

第二の大罪では、企業は職員教育に費用をかけており、有望な幹部候補である中高年者が離職することで、費用面をはじめ企業に影響を与えることを指摘した。

第三の大罪として、中堅以上の企業の中高年者が納税でも貢献しており、離職することで税収入が減少することに言及。「日本の予算や社会保障の設計も豊かになるはずがない」と述べた。

最後の第四の大罪として、若者への影響を挙げた。中高年の人が離職するとその子供たちの教育費を賄えない問題が生じる可能性がある。また親がその父母の介護で身体を壊したり、親自身の介護が生じたりすると、その子供たちが祖父母や親の介護をすることになる。こうした「ヤングケアラー」の問題があることを提起した。

樋口氏は、「四つの大罪は、経済社会に直結する。介護離職が日本の経済を取り崩していくといっても過言ではない」と強調し、介護離職を防止する必要性をあらためて訴えた。

その後、セミナーの参加者も交えて、意見交換会が行われた。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

社会保険研究所ブックストアでは、診療報酬、介護保険、年金の実務に役立つ本を発売しています。