見出し画像

#1 繰上げ受給の改正と注意点(令和4年4月実施)

      望月 厚子(もちづき あつこ)/望月FP社会保険労務士事務所 所長

この記事は社会保険研究所刊「くらしとねんきん」2022年夏号に掲載したものです。 

老齢年金(老齢基礎年金と老齢厚生年金)は、希望すれば、本来の支給開始年齢である65歳よりも早い時期に受け取り始めることができます。これを「繰上げ受給」といいます。
ただし、繰上げ受給の請求をした時点で、将来にわたって年金額が減額されます。令和4年4月1日から老齢年金の繰上げ受給の減額率が緩和され、1ヵ月当たり0.5%から0.4%に引き下げられました。
改正の内容や繰上げ受給を利用する際の注意点について見ていきましょう。

繰上げ減額率は1ヵ月当たり0.4%に

繰上げ受給をすると、受け取れる年金額は減額されます。令和4年3月31日までは、1ヵ月早めるごとに0.5%ずつ減額され、最大60歳までの5年間(60ヵ月)早めると30%減額されました。
今回の改正により、この減額率が0.4%(60歳まで繰り上げると24%減)になりました。

新しい減額率が適用される人、されない人

改正後の減額率0.4%が適用されるのは、昭和37年4月2日以降生まれの人(令和4年4月1日以降に60歳となる人)です。
なお、昭和37年4月1日以前生まれの人(令和4年3月31日に60歳以上となっている人)は、令和4年4月1日以降に繰上げ請求した場合であっても、適用される減額率は改正後の0.4%ではなく、改正前の0.5%になります。

繰上げ受給の注意点

 繰上げ受給には、請求に当たって、次のような注意点があります。

  • 繰上げする期間に応じて年金額が減額され、減額された年金は、生涯にわたり続きます。

  • 繰上げ請求した後は、繰上げ請求を取り消しすることはできません。

  • 障害の程度が重くなった場合に、障害基礎年金を受け取ることはできません。

  • 老齢基礎年金と老齢厚生年金は、同時に繰上げ受給の請求をする必要があります。また、共済組合加入期間がある場合、共済組合から支給される老齢年金も、原則として同時に繰上げ請求する必要があります。

  • 国民年金に任意加入することや、保険料を追納することができなくなります。

  • 65歳になるまでは、遺族厚生年金と繰り上げた老齢基礎年金を同時に受け取ることはできません。

60歳で退職予定。実りあるシニアライフのための繰上げ受給の活用法とは?

50歳代前半の会社員Kさんのケースを見てみましょう。

「60歳で退職して自分で新しい仕事をしたいと考えています。年金の繰上げ受給を利用して、退職後の収入をある程度確保したいと思っているのですが、繰上げ受給の注意点や上手な活用法が知りたいです。」

●Kさん(53歳、勤続年数30年、老齢基礎年金77万円、老齢厚生年金103万円。妻50歳:老齢基礎年金73万円、老齢厚生年金10万円。夫婦ともに受給開始年齢は65歳)
※夫婦ともに年金額はねんきん定期便により確認。

ここから先は

1,260字

¥ 100

社会保険研究所ブックストアでは、診療報酬、介護保険、年金の実務に役立つ本を発売しています。