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#6 国家・社会の発展段階と社会保障【後編】

香取 照幸(かとり てるゆき)/上智大学総合人間科学部教授、一般社団法人未来研究所臥龍代表理事

※この記事は、2017年8月18日に「Web年金時代」に掲載されたものです。

みなさんこんにちは。今回は前回の続き、「国家・社会の発展段階と社会保障」(後編)です。例によって本稿は外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係がありません。全て筆者個人の意見です。

モノカルチャー経済のネガティヴスパイラル

産油国を典型として、いわゆる「モノカルチャー経済」といわれるような、生産性の高い産業が数少ない国の場合、そこに国中の優良資源(人材・資本)が集中し、他の産業分野が成長せず生産性も上昇しないため、総体としての経済発展が遅れてしまうという現象が起こりがちです。

また、社会的厚生という視点から見ても、石油価格が順調な(高騰している)時は、社会政策が不十分で民生部門への付加価値配分が少なくても一定の「恩恵」がそれなりに社会全体に均霑(きんてん)していきますが、前回お話ししたように、社会全体としての長期的な経済の発展(まさに「均衡ある発展」)の基盤が構造的に形成されないので、石油価格が下がるとあっというまに経済は不安定化し、それに伴って社会も政治も混乱に陥ります。

多くの場合、悪性のインフレに見舞われ、民生分野(社会政策)が未発達・未整備なことと相俟って経済の混乱が国民生活を破壊し、社会の不安定化を招いて治安が悪化し、それを政治で抑え込むために強権的な政治体制が形成される、という、典型的な「発展途上国型独裁政治体制」になります。

多くの発展途上国で見られる、 おなじみのネガティヴスパイラルです。

この点でも、戦後日本のように、経済成長の過程で「フルセットの産業構造」の構築に成功し、民生部門への付加価値配分を行って社会の安定を図りつつ持続的な成長を維持できた、という例は極めて少なく、いったん灰燼に帰した日本を見事に再興させた戦後の日本の産業政策・社会経済政策は歴史的に評価されてしかるべきでしょう。

さて。話をアゼルバイジャンに戻します。

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