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#30 本妻のいない事実婚の夫が死亡し、遺族厚生年金を受給できたケース

石渡 登志喜(いしわた・としき)/社会保険労務士・年金アドバイザー

今回は戸籍上の妻が15年前に死亡している、事実婚の妻のケースです。重婚的内縁関係ではないので、亡夫との事実婚関係と生計維持関係が認められれば、遺族年金を受給することができます。今回のケースは、事実婚関係にある夫と住民票上の住所が異なっていました。そうした場合であっても、申立書の記述から、ていねいに事実関係を洗い出すことが肝要です。


【事例概要】
死亡者 A男さん(昭和25年8月15日生まれ:73歳)
・老齢厚生年金の受給権者
・戸籍上の妻は平成20年に死亡
・令和4年3月に病気で入院し、入退院を繰り返す
・令和5年10月3日に病死
 
請求者 B子さん(昭和37年9月10日生まれ:61歳)
・A男さんの事実上の妻と主張
・令和5年10月19日に年金事務所を来所
 
請求者 C子さん(平成4年5月3日生まれ:31歳)
・A男さんと戸籍上の妻(死亡)との子
・令和5年10月19日にB子さんと一緒に年金事務所を来所

遺族厚生年金が支給される死亡者と遺族の条件

内縁の夫、A男さんが病死したとのことで、B子さんはC子さん(A男さんと死亡した元妻の子)と一緒に遺族厚生年金の請求に来所されました。

A男さんは老齢厚生年金を受給中に亡くなりました。老齢厚生年金の受給権者が死亡した場合、国民年金も含めて保険料納付済期間と保険料免除期間の合計が25年以上あれば、その遺族に遺族厚生年金が支給されます(厚生年金保険法第58条第1項第4号)。
A男さんは死亡当時、被保険者期間25年以上の老齢厚生年金の受給権者であったことは明らかです。

次に、遺族厚生年金を受けることができる遺族は、その受給権者の配偶者、子、父母、孫または祖父母であって、その受給権者の死亡当時、その人によって生計を維持していた遺族です。ただし、子については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、20歳未満で障害等級の1級もしくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないことが要件です。(厚年法第59条第1項)。

ここまででC子さんは遺族厚生年金を受給できないことは明らかです。以後、B子さんが遺族厚生年金を受給できるかどうか、見ていきます。

まず、上記の「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者(以下「事実婚関係にある者」という。)を含みます(厚年法第3条第2項)。

次に、受給権者によって生計を維持した配偶者(=生計維持要件)とは、被保険者であった者の死亡の当時、その者と生計を同じくしていた配偶者(=生計同一要件)であって、厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者(=収入要件)とされています(厚年法施行令第3条の10)。
なお、厚生労働大臣の定める金額とは年収で850万円、所得(年額)で655万5千円です(通知:平成6年11月9日庁保発第36号)。
 
A男さんとB子さんの年金記録やB子さんの話、持参された書類等を見ていくと、A男さんの戸籍上の妻は15年程前に亡くなっていること、B子さんには婚姻歴がなく、A男さんとの婚姻の届出をしていなかった事実が認められます。

そこで、B子さんがA男さん死亡当時、同人によって生計を維持した配偶者(事実婚関係にある者)と認めることができるかどうか、検討していきます。

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