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介護給付費分科会が地域包括ケアシステムの推進をテーマに議論(6月1日)

社会保障審議会介護給付費分科会(田中滋分科会長)は1日、令和3年度介護報酬改定に向けた議論を再開し、横断的なテーマの一つである「地域包括ケアシステムの推進」を中心に議論した。新型コロナウイルス感染症の拡大や緊急事態宣言により、4月・5月は会合の開催を見合わせていた。今回もオンラインにより開催された。

横断的なテーマとしては他に、①自立支援・重度化防止の推進②介護人材の確保・介護現場の革新③制度の安定性・持続可能性の確保─の3つが示されており、今後、個別サービスの論点と合わせて議論していく予定だ。

特定施設入居者生活介護事業所で訪問看護・訪問リハの提供を可能にすべき

厚労省は「地域包括ケアシステム」の論点として、▽在宅限界を高めるための在宅サービス等の在り方▽介護保険施設に加え、高齢者向け住まい(有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など)における更なる対応の在り方▽認知症施策推進大綱の取りまとめを踏まえた認知症への対応力を向上するための取組─を示し、意見を求めた。

合わせて新型コロナウイルス感染症を受けた、この間の介護報酬・基準における柔軟な取り扱いや補正予算での対応について報告した。

日本医師会の江澤和彦常任理事は、「在宅至上主義でもなく、施設偏重主義でもなく、本人の願いを実現するうえでどうすべきかを、支える側でしっかりと考えて行動すべき」と主張。また高齢者住まいについては、「地域に開かれた住まいとして透明性を高めていく運営が推奨される」と指摘。看取りが進むことを想定し、特定施設入居者生活介護事業所での訪問看護や訪問リハビリテーションが利用できるように見直すことを求めた。

新型コロナウイルス感染症対策については、事業所の自助努力を高める上で、感染症対策の実践研修の導入の義務化を主張した。

民間事業者推進委員会の今井準幸委員は、後期高齢者の状態の変化にきめ細かく対応していく重要性を指摘。「これまでのような在宅サービスの単独の形態には限界がある。地域密着型サービスのような利用者の立場に立った複合型で包括報酬のサービスの拡大について議論すべきではないか」と提案した。

新型コロナウイルス感染症への対応における要望として、民間事業者の金融支援策の手続き簡素化と周知の徹底を上げた。

日本経団連の間利子晃一代理人は、高齢者住まいの活用を主張。また「財源や人材に限りがある。報酬体系全体の中で効率化・重点化、効率的なサービス提供を意識しながら議論していく必要がある。中重度の人への取組を重視するのであれば、他方で軽度の方々の給付をどう適正化していくのか」と指摘し、「給付全体の中でのバランスをとる視点」が重要とした。

健保連常務理事の河本滋史委員は、「在宅限界を高める上で、リハビリや社会参加の観点が重要になると思う。生産年齢人口が減少する中で、制度の安定性・持続可能性を財政面・人材面で担保することが地域包括ケアシステムを推進するうえでも極めて重要だ。サービスの適正化・効率化、質の確保も含めて検討していく必要がある」と主張した。

他方、日本介護福祉士会副会長の藤野裕子委員は、各職種に導入されている認知症の研修について、「その資格をもっている人の必須とするオフィシャルな研修とすべき」と指摘。さらに内容的に他の研修と重複する場合は読み替えを可能にすることも提案した。

福祉用具貸与価格の上限設定の見直しは3年に一度

また厚労省は、福祉用具貸与価格の上限設定について、事業所負担などを考慮して他のサービス同様にと3年に一度に全体を見直す一方、令和元年度に引き続き、2年度も新商品に係る全国平均貸与価格の公表及び貸与価格の上限設定を行うことを提案。分科会は了承した。

今後、全体の見直しは令和3年度に行われるとともに、3年に一度見直すことになるが、新商品については3年度以降も随時、各年度内に上限を設定していく予定だ。

福祉用具については貸与価格の適正化を図る観点から、平成30年10月から商品ごとの全国平均貸与価格の公表や貸与価格の上限(全国平均貸与価格+1標準偏差)を設けるとともに、施行後の実態を踏まえ、概ね1年に一度の頻度で見直すこととされていた。

30年度の調査によると、見直し前の上限の超過額が3.4億円であった一方、見直し後は上限設定により高額な保険請求自体が排除され、上限を超える貸与は0%になっていた。

その一方、貸与価格総額に占める削減率の割合のシミュレーション結果によると、見直し初年度は▲2.0%と計算されたが、翌年度以降は▲0.7%の削減にとどまった。

福祉用具貸与事業所は、74%で収益が減少した(する見込み)と回答するとともに、事務・経費負担増が見込まれた。

こうしたことを踏まえ、令和元年度は、新商品の上限設定だけを行うこととし、継続的に貸与価格の実態や経営への影響等の実態把握を行い、必要な検討を行うこととしていた。

令和元年度の調査では、全体として適正化が図られていることや事業所の負担増が確認されるとともに、上限設定以後も9割の事業所でメンテナンスの頻度などを「特に変更していない」との回答が寄せられた。

今年度の30年度改定効果検証調査は9~10月に速報値を報告

その他、厚労省は、3月26日に介護報酬改定検証・研究委員会で概ね了承されていた、7本の平成30年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和元年度調査)結果が報告され、了承された。

令和2年度調査のスケジュールが示された。今後、委員の意見を踏まえて調査票を決定し調査を実施。9~10月には速報値を検証・研究委員会及び分科会に報告する予定だ。令和3年度の介護報酬改定の検討で活用される。調査は1月の分科会で報告・了承されていた「医療提供を目的とした介護保険施設等のサービス提供実態及び介護医療院等への移行に関する調査研究事業」など5本を実施する予定だ。

また令和3年度改定における地域区分の対応について、市町村に対して意向調査を実施していることが報告された。

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