見出し画像

2021年を迎えて(中村秀一)

霞が関と現場の間で

「ひどい年」だった2020年

かつて英国女王エリザベス2世は、1992年を英王室にとってスキャンダルが多く、ラテン語でannus horribilis「ひどい年」であったと述べた。

昨年は、年初から新型コロナウイルス感染症に振り回され、緊急事態宣言で落ち着いたかに見えたのも束の間で、年末にかけて第三波に見舞われた。本来であれば1964年以来の2度目の東京オリンピック・パラリンピック開催で明るく盛り上がるはずだった。それだけに期待と現実の落差が一層身にしみた。まさにこの言葉がぴったりの1年であった。

大きく変わった日常

日常生活も大きく変容が迫られた。マスクなしでは道も歩けない。「3密」が流行語大賞なのだ。社会的距離を意識しないではいられない。イベントも軒並み延期や中止に追い込まれた。対面は避け、オンラインの活用が求められる。筆者の大学での講義も遠隔が主となり、頼まれている地方の大学での講義も虎ノ門からの遠隔講義である。

これでも内幸町のプレスセンターのホールで月例社会保障研究会を主催する「興行主」でもある。昨年3月以降、開催するかどうか大いに迷った。世の中の動向を見ながらと思っていたが、大相撲の夏場所、甲子園の夏の大会中止などの決定が相次ぎ、中止を余儀なくされた。オンライン形式で再開したのは7月からだ。

当フォーラムでさえこのような有様だ。事業者の苦境は如何許りであろうか。医療・介護分野での患者・利用者数の落ち込み、収益減の統計からも経営状況の悪化が伝わってくる。

2021年をどのような年にするのか

忘年会・新年会も軒並み「自粛」である。「静かな年末年始」としなければならない。医療崩壊を避け、経済活動を維持することとの両立を図るため、我慢が必要だ。

日本のコロナ対策の規模は対GDP比で42%で主要7カ国(G7)で最高だそうだ。感染者数1200万人超の米国が15%、100万人超の独、伊が30%とのことだ(12月1日朝日新聞「経済気象台」)。感染者数15万人のわが国は多額の資金をつぎ込んでいる。特定業種に偏るなどの問題がないのだろうか。

一方、少子高齢化・人口減少は確実に進んでいく。2022年からの後期高齢者の急増を控え、社会保障にとって今年は重要な1年となる。賢明な舵取りが求められる。

まだまだ続くと思われていた安倍首相から菅首相への交代があった。アメリカではトランプ大統領の再選が阻止された。国内外で大きな変化の年となるのだろうか。そういえば10月には衆議院議員の任期が切れる。今年は国民の選択の年でもある。 

(本コラムは、社会保険旬報2021年1月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長
国際医療福祉大学大学院教授
1973年、厚生省(当時)入省。 老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。


  


社会保険研究所ブックストアでは、診療報酬、介護保険、年金の実務に役立つ本を発売しています。