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パンデミックが変えた社会(中村秀一)

霞が関と現場の間で

コロナ後への移行

マスク着用が任意となった3月13日に地下鉄に乗ったが、マスクを外している人はほとんど見かけなかった。来月には感染症法上の位置付けも見直されるが、3年間のコロナ禍が社会に与えた影響は甚大だ。コロナ後の社会は、コロナ前の状態に完全に戻ることは不可能である。

人口増加が止まった世田谷区

筆者の住む東京・世田谷区では、コロナ前(2017年)には当時89.2万人の人口が、「右肩上がり」で増加し、22年に95.1万人、32年に103.0万人、42年に108.7万人と見込まれていた(区の将来人口推計)。しかし、人口増加は2020年に急ブレーキがかかり、2022年には前年の92.0万人から91.6万人と減少に転じてしまった。

そこで区では昨年7月に新推計を行った。これによると区の人口は、ピークでも92.2万人(39年)であり、48年の人口は91.4万人で現在の91.6万人とほとんど変わらない「静止人口」の世界だ。人口の流入が人口流出を上回り、人口が増えることを当然のように考えてきた世田谷区にとっては、政策の根本的な転換が必要になる。

区の最上位の計画である基本計画(10カ年計画)が2023年度で終了するので、2024年度以降の新基本計画の検討が行われている。「住みたくなり、住み続けられる区」としていくことが課題となる。24年4月からの次期介護保険事業計画も、新計画が描くポストコロナ社会のデザインに沿うことが求められる。

自宅での看取りが増加

1年前のこのコラムで紹介した練馬区の「看取り死」のその後はどうであろうか。2021年の調査結果が得られた。

2021年の同区の死亡者数は6593人、そのうち「異常死」を除く「看取り死」は5555人で、前年から218人増(+4.0%)で過去9年間の年平均伸び率(2.2%)を上回った。

「自宅での死亡」は1066人(234人増、+28.1%)と大幅に増加した。次いで増えたのが「老人ホームでの死亡」で749人(72人増、+10.6%)あった。「病院での死亡」は、3540人で53人減(▲1.5%)であった。20年では142人減(▲3.8%)であったので、減少スピードはやや鈍化した。

コロナ禍での2年間を総括すると、「看取り死」は約300人増えたが、自宅・老人ホームでの看取りが約500人増、病院・診療所での看取りが約200人減であった。病院・診療所での看取り割合は73%から65%へと低下し、自宅・老人ホームの看取り割合は25%から32%と増加した。

超高齢者の増加とともに、在宅療養のニーズが増えることは従来から指摘されてきた。コロナの蔓延がその傾向を加速させたことを示す調査結果である。

(本コラムは社会保険旬報2023年4月1日号に掲載されました)

中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム 理事長
国際医療福祉大学大学院教授。1973年、厚生省(当時)入省。老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。

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