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「最終的には生活保護」(中村秀一)

霞が関と現場の間で

「生活保護の申請は国民の権利です」

1月27日の参院予算委員会で新型コロナウイルス感染症拡大の影響で生活に困窮する人たちへの支援をめぐり、菅首相は「最終的には生活保護」と答弁し波紋を呼んだ。

サッカーに例えると生活保護は、社会保障のゴールキーパーだ。コロナとの試合で作戦を問われた監督が、フォワード、センター、バックの動きに触れずに、いきなりゴールキーパーを持ち出した。監督の采配に議論百出は免れない。

しかし、ゴールキーパーも重要であることは論を待たない。厚生労働省もコロナ禍で迎える年末年始を控え、昨年12月にホームページで「生活保護を申請したい方へ」と題したページを掲載し「生活保護の申請は国民の権利です」と呼びかけているのだ。

経済不況と生活保護

この社会保障のゴールキーパーの働き具合はどうであろうか。バブル崩壊後の経済不況下での生活保護の「成績」をチェックしておこう。 1990年代に入った途端にバブルが弾けたので、その直後から生活保護の対象者が増えたと思われるかもしれない。しかし、生活保護の対象者数はバブル期から引き続き下がり続け、1995年に生活保護史上最少に達した(被保護者数88万2229人、保護率0.7%)。

しかし、経済が長期的に低迷する中でその後20年にわたって被保護者数、保護率は増加を続け、2015年3月にピークに達した(217万4331人、1.72%)。この保護者数は史上最多となっている。

この20年間で、被保護者数で約130万人、保護率で約1%増加したわけだが、とりわけ増加が著しかったのが2008年9月のリーマンショックから2011年までの3年間である(被保護者数で46万人増、保護率で0.37%アップ)。この数字は最悪の経済状態における生活保護の対応状況を示している。

コロナ禍の影響は?

3月3日に公表された最新の統計によると、被保護者数は205万391人で対前年同月比で1.0%減少、保護率は1.63%となっている(被保護者調査・昨年12月分)。被保護者数(対前年同月比)は2015年秋から減少に転じており、それが未だ続いているのだ。

だが、申請件数は昨年9月から増加に転じ(12月は6.5%増)、保護開始数も2か月連続で増加してきている。被保護世帯別では、経済状況を最も敏感に反映する「その他世帯」(高齢世帯でも、母子世帯でも、障害・傷病世帯でもない世帯)が昨年5月以降増加してきている。最初の緊急事態宣言等による経済の収縮の影響によるものだろう。今年1月以降の生活保護の動向から目を離してはならない。  

(本コラムは、社会保険旬報2021年4月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長
国際医療福祉大学大学院教授
1973年、厚生省(当時)入省。 老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。



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