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「電子申請・届出システム」による体制等の届出を原則化 介護報酬算定告示の見直しを了承 介護給付費分科会(2月20日)

厚労省は2月20日、第214回社会保障審議会介護給付費分科会を開催し、「電子申請・届出システム」の基本原則化や介護事業経営概況調査結果等について議論した。

この日の主な議題は次のとおり。

議題①:標準様式例及び「電子申請・届出システム」の使用の基本原則化に係る諮問について(指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の一部改正)
議題②:令和4年度介護事業経営概況調査の結果について
議題③:令和5年度介護事業経営実態調査の実施について
議題④:介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会におけるこれまでの議論の整理について(報告)

なお、退任した田中前分科会長にかわり、社会保障審議会の委員である国立社会保障・人口問題研究所所長の田辺国昭委員が、今回から分科会長として就任した。

介護報酬算定告示の見直しは令和5年3月下旬(適用日は令和6年4月1日)

1つ目の議題では、厚生労働大臣から示された諮問書「指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準等の改正について」について議論が行われた。

この改正に関しては、社会保障審議会介護保険部会「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」で令和4年11月7日に公表された「社会保障審議会介護保険部会介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会取りまとめ」において、以下の方向性が示されていたことに由来する。

  • 指定申請・報酬請求・実地指導関連文書の国が定める標準様式例について、国が示している標準様式例の使用を基本原則化するための取組として、介護保険法施行規則と告示に、標準様式について明記すること

  • 「電子申請・届出システム」の使用を基本原則化し、令和7年度までに全ての地方公共団体で利用開始するために、介護保険法施行規則に「電子申請・届出システム」について明記すること

今回諮問が行われたのは、指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第19号)等に関する告示改正。

事業者が都道府県・市町村へ行う介護給付費算定に関する体制等の届出については厚労省の様式により行うこと(届出先等を明記していない加算は届出先を明記する等の整備を実施)、届出はやむを得ない事情がある場合を除き厚労省の「電子申請・届出システム」により行うこと、が規定される。

この規定は令和5年3月下旬に告示され、令和6年4月1日に適用される予定だ。

▲改正内容(案)の具体的なイメージ

議論では、委員からの質問に答える形で、電子押印は求められないこと、システムの整備は国で行うため自治体の運営費用等は生じないこと、指定申請の様式についても介護保険法施行規則にて所用の見直すことが確認された。 なお、告示案については現在パブリックコメントにかけられており、3月4日まで意見が募集されている。

答申に関して反対の意見はないものとし、介護給付費分科会においては諮問のとおり了承する旨が取りまとめられた。

当件については今後、社会保障審議会に向けて報告される。

▲参考:電子申請・届出システム 導入スケジュール

プラス改定後の介護事業経営概況調査結果に健全経営への懸念の声も

続いて、2月1日に介護事業経営調査委員会により了承された、令和4年度介護事業経営概況調査の結果について議論した。

これは、令和4年5月に実施し、令和2年度および令和3年度の決算を調査したもの。

全サービス平均の収支差率では、令和2年度決算では3.9%、令和3年度決算では3.0%と、その差は▲0.9%となった。

収支差率が低下している主な要因として、厚労省は令和2年度から令和3年度にかけて、多くのサービスで収入が増加する一方で、給与費やその他の費用が収入を上回って増加したためと分析した。

健保連の伊藤委員は、2年度に比べやや低下しているものの、コロナ禍前の平成30年度と比べて遜色ない水準になっていると指摘。限界に来ている支える世代の負担を考慮し、制度の安定性・持続性確保を念頭にメリハリある評価と改定率の設定の議論を望んだ。

一方、全老健の東委員は、資料「老健施設の施設類型の推移と経営状況」を提出。在宅強化型等の施設類型の割合が、平成30年の43.5%から令和4年には72.4%まで上昇していることから、老健施設の在宅支援・在宅復帰機能の向上を強調。その上で、3割強の施設が赤字であり、かつ機能の高い類型の施設が赤字施設の増加割合が大きいことを示し、「頑張っている施設が経営的にも報われるような報酬を検討していただきたい」と訴えた。

日医の江澤委員も、令和3年度介護報酬改定が+0.7%の改定であったにも関わらず、前年よりマイナスとなった事業所が多いことに、健全経営の観点から危機的な状況であると認識。東委員の資料から「報酬設定の問題も多分にあるかと思う」との懸念を示した。

調査の観点からは、日慢協の田中委員が人材派遣の増加に関して懸念を表明。紹介会社へどのくらい支払われているのかを調べる必要があると求めた。

また、日本介護福祉士会の及川委員は、訪問介護において収支差があがっている事業所は、サービス付き高齢者向け住宅や住宅型有料老人ホームに多数訪問した事業者が多いのではないかと見解を述べ、訪問先について区分した結果を示す必要性に言及した。

複数の委員が派遣職員の費用を求める/令和5年度介護事業経営実態調査案

3つ目の議題では、令和5年度介護事業経営実態調査の実施について示された。

調査時期は令和5年5月に実施し、令和4年度決算額を調査する。

調査票では、物価高騰対策に関する項目が追加されるほか、特別損益に関する項目について、「本部から事業所への繰入」についての調査項目が追加される案が提示された。

また、有効回答率の確保策として、希望する法人に対する法人本部への調査対象となった施設・事業所名の伝達や調査票の一括送付を行うしくみなどが示された。

認知症の人と家族の会の鎌田委員は、2つ目の議題で田中委員が言及した人材派遣の費用に関し、介護人材不足への懸念から調査を求めた。産業医大の松田委員も、派遣のコストが非常に高くなっていることから、別途調査をした方がよいとの認識を示した。

また、及川議員はヘルパーの確保の困難や事業所の減少により、在宅介護のニーズを満たすことが難しくなっていると言及。改めて、ヘルパーと事業所の課題を明確化するため、訪問先が分かる調査を求めた。

一方、慶應義塾大学院の堀田委員は、今回から法人本部への一括送付のしくみが示されたことを踏まえ、あくまで今後に向けてとの前提で、事業所単位ではない法人での調査の在り方も提案。人材の獲得や間接業務の分担、事業の組み合わせなど、法人全体として検討を深めるための資料となると期待した。

また、松田委員は、海外では異なる事業所がアライアンスを組み、ICTを活用した集中的な給付管理を行っていることなどに言及。事務コストを下げ、サービス提供の時間を上げ、処遇を改善する手段として、今後考えていきたいと述べた。さらに、サンプルとなる施設等が時系列でどうなっていくかを見ていく定点観測のしくみや、税務報告などを活用するしくみなどについて有効であるとの認識も示した。

調査については今回の意見等を踏まえ、どのような対応・工夫が可能か、分科会長に一任することとなった。

福祉用具の在り方検討会報告、複数の委員から利用者の意見を求める声

最後の議題では、「福祉用具の在り方を検討する検討会」において昨年9月に取りまとめられた議論の整理が報告された。

令和3年度介護報酬改定の審議報告において、「現行制度の貸与原則の在り方や福祉用具の適時・適切な利用、利用者の安全性の確保、保険給付の適正化等の観点から、どのような対応が考えられるのか、今後検討していくべき」などの指摘を受けたことから、検討会では令和4年2月から計6回の議論が行われてきた。

検討会での意見をもとに構成した具体的な整理についても示され、①一部の貸与種目において福祉用具貸与・特定福祉用具販売の選択を可能かどうかに対する考え方と、②介護保険における福祉用具の選定の判断基準の見直しについて、さらに検討を促進する見込みだ。

老施協の東委員はパーキンソン病患者の例を挙げ、進行度合いによってその都度状態にあった選択を要することから、福祉用具の選定にあたっては医師やリハビリテーション専門職などの医療職の関与が必要と訴えた。また、日医の江澤委員も、つえやスロープ・手すりについて貸与か販売かを判断するには、医学的な判断が必要であると主張した。

日看協の田母神委員は、看護の役割について言及。選定や評価に関わる看護の役割について、医師やリハビリテーション専門職とあわせて明記することを要望した。

このほか、委員からは検討に当たって当事者の意見を求める声が続いた。

日慢協の田中委員は、利用者への意識調査が欠けていると指摘。福祉用具を使う本人意見の聴取を求めた。また、認知症の人と家族の会の鎌田委員からは当事者意見の取り入れを、高齢社会をよくする女性の会の石田委員からは、当事者ないし本人の立場を代弁できる人の参加を求める声が上がった。

今後も引き続き、こういった整理をもとに検討を行い、検討の状況次第でまた分科会にも報告・相談される。

▲検討会における意見をもとに構成した具体的な整理について①
▲検討会における意見をもとに構成した具体的な整理について②

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