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#1 次期年金制度改正の課題を考える①

権丈善一(けんじょう・よしかず)
坂本純一(さかもと・じゅんいち)
司会:年金時代編集部

※この記事は、2018年6月28日の「年金時代」に掲載されたものです。

 4月4日、第1回社会保障審議会年金部会が平成31年財政検証に伴う制度改正の議論を開始した。民主党への政権交代を機に年金部会を去ったが、このたび同部会に復帰した権丈善一氏。そして、厚労省年金局数理課長として平成16年改正財政フレームの設計に関わった坂本純一氏のお二人に、次期年金制度改正を巡ってご対談いただいた。

キャリーオーバー方式導入の平成28年年金改革法の成立過程を振り返る意味

権丈:この対談を始める前に、年金時代編集部に確認しておきたいことがあります。本日の対談のテーマは「次期年金制度改正の課題」とうかがっています。しかも、前回平成26年財政検証結果のオプションⅠ、つまり「マクロ経済スライドの仕組みの見直し」を対談の中心テーマにしたいとのこと(資料①)。オプション試算にはⅠのほかに、Ⅱの「被用者保険の更なる適用拡大」、Ⅲの「保険料拠出期間と受給開始年齢の選択制」がありますが、マクロ経済スライドの仕組みの見直しについては、平成28年年金改革法(「公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律」)において、マクロ経済スライドによる調整にキャリーオーバー方式を導入し、また、賃金・物価スライドにおいて賃金変動を徹底させることになりました(資料②)。そうであれば、普通に考えれば、次回31年財政検証とそれに伴う制度改革のテーマはオプションⅡとⅢになる。それをあえて、オプションⅠを対談の中心テーマにしたいという編集部の意図を聞いておきたい。

資料①平成26年財政検証結果(オプション試算)

出所:第1回社会保障審議会年金部会2018年4月4日資料2-1
「年金制度を巡るこれまでの経緯等について」厚生労働省年金局
(以下、出所等の表記がない場合はこれと同様)

資料②公的年金制度の持続可能性の向上を図るための国民年金法等の一部を改正する法律(平成28年法律第114号)の概要

坂本:確かに、この点は確認しておく必要がありますね。1990年代以降、わが国の人口の高齢化は非常な勢いで顕在化し、年金制度もその対応に追われてきましたが、「三党合意」の社会保障制度改革推進法により設置された社会保障制度改革国民会議の報告書により、その改革の方向性がしっかりと示されました。そして平成26年の財政検証のときにこれらの改革の方向の主な3つの項目について財政効果の試算が要請され、オプション試算が示されましたが、平成28年の改正はオプションⅠに取り組んだものであり、次回はオプションⅡとⅢに取り組むものと思っておられる方も多いのではないかと思います。

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