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診療報酬改定の基本方針から令和6年度調剤報酬・薬価改定の方向性をイメージする(萩原雄二郎)

薬剤師5分間トピックス

令和6年度診療報酬改定は、主として中央社会保険医療協議会(以下「中医協」という)で年初来、議論が続けられてきました。その議論を踏まえ、令和5年12月には診療報酬改定の「基本方針」が決定しました。同月には財務省と厚生労働省の折衝により「改定率」も決定され、基本方針と改定率にしたがって中医協は具体的な診療報酬点数の設定を2月上旬ごろに答申、3月上旬には診療報酬改定の告示・通知が発出されます。その中の薬価改定については中医協の薬価専門部会がまとめる薬価制度改革の「骨子」にしたがい、改定が進められます。具体的な点数は3月までに確定しますが、基本方針や骨子は、令和6年度以降の調剤報酬や薬価の方向性を示しているといえます。


令和6年度改定の特徴

令和6年度は診療報酬のほかにも介護報酬、障害福祉サービス等報酬の改定も同時に行われます。同時改定においては、「地域包括ケアシステム推進に向けての医療・介護・障害サービスの連携」といった各分野で共有できる目標が重視されます。診療報酬については、各分野との連携に関係してくる、医療機関の機能分化や強化、連携、在宅医療の充実、医療DXの推進等の項目が診療報酬点数において評価されやすくなると見られます。

さらに令和6年度診療報酬改定は、従来の改定とは異なるスケジュールで施行されるのが特徴です。従来は診療報酬の「本体」と「薬価」の改定が4月1日に同時施行されていましたが、令和6年度改定では図表1のとおり、薬価改定は4月1日施行ですが、本体(調剤報酬含む)の改定は6月1日施行となります。

図表1:令和6年度診療報酬改定時期を2ヶ月後ろ倒しした場合のスケジュール
(資料出所)第551回中医協総会(令和5年8月2日)総-3

3月の告示から施行まで1か月の短期間で改定に対応するには、ベンダや医療機関におけるソフトウェア改修等の業務負荷が大きすぎることへの対策です。また、システムが多機能化、多分野・多機関と連携するために複雑化し、準備期間を長く取る必要が生じているのです。

改定全体の方向性をイメージする

図表2は診療報酬改定の基本方針をサマライズしたものです。内容は調剤報酬や薬価などの薬事関係だけではありませんが、診療報酬改定の全体像を把握するのに役立ちます。全体像がわかれば、薬事関係の改定がどのような背景で行われているのかがわかり、薬事関係改定の方向性もイメージしやすくなります。いわば森を見て木を見れば、木のことも理解しやすくなるというわけです。

図表2:令和6年度診療報酬改定の基本方針の概要
(資料出所)第572回中医協総会(令和5年12月13日)総-9-1

図表2の中の「改定に当たっての基本認識」には、改定によって解決すべき課題や目標が記されています。これは、改定の方向をイメージしやすくします。それら課題や目標を解決したり実現したりするのに役立つと見られる診療報酬は評価され、点数が上がる可能性は高いといえます。

薬事関係の改定をイメージする

図表3は、図表2の中の「改定の基本的視点と具体的方向性」から特に調剤報酬や薬価(薬事関係)との関係が深いと見られる項目だけを抽出して表にしたものです。

図表3:令和6年度診療報酬改定の基本方針・調剤報酬・薬価改定に関する基本的視点と具体的方向性
(資料出所)第572回中医協総会(令和5年12月13日)総-9-1より抜粋編集

図表3の(1)「現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進(重点課題)」に個別項目を抽出しなかったのは、図表2の(1)の個別項目の中に薬事関係に該当するものがまったくないという意味ではありません。逆にすべての項目が薬局でも求められ、人材確保・働き方改革等の推進に貢献する診療報酬項目は評価される可能性を示唆しています。

(2)については、医療DXの一環としてICTを活用した服薬指導や在宅訪問の効率化、かかりつけ薬剤師機能強化などが評価を上げていくことが想定できます。

(3)については、前回改定から患者さんとのコミュニケーションを重視する対人業務の強化が図られており、この傾向は当分続くのかもしれません。医薬品供給拠点としての役割の評価、イノベーションの適切な評価や医薬品の安定供給の確保への評価は、この数年来喫緊の課題と目されている医薬品供給の不安解消のための施策ともいえます。

(4)については、医薬品供給体制の安定化を目指した薬価制度改革に関連する項目ばかりであり、政府がいかにこの課題を重視しているかがうかがわれます。(3)の項目とともに、医薬品供給体制の安定化に関連する具体的項目の評価は当面上がり続けると見てもよさそうです。

薬価改定の方向性をイメージする

中医協の薬価専門部会では、令和6年度の薬価改定に向けて、主に薬価制度改革の視点から幅広な議論を重ねてきました。その議論のテーマと過程は図表4のスケジュールで俯瞰できます。現時点は、スケジュールの最終段階の「令和6年度薬価制度改革の骨子(たたき台)」が公表された段階です。この後、「骨子」に沿い、閣議決定された改定率の範囲で薬価が定められていくことになります。

図表4:令和6年度薬価改定に向けた検討(全体スケジュール)
(資料出所)第220回中医協薬価専門部会(令和5年12月13日)薬-1より抜粋編集

薬価改定の基本的な考え方は、「経済財政運営と改革の基本方針2023」で示された、

  • 創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等のために、保険収載時を始めとするイノベーションの適切な評価などの更なる薬価上の措置推進

  • ドラッグラグ・ドラッグロスの問題に対応する

  • 医療上の必要性を踏まえた後発品を始めとする医薬品の安定供給確保を図る

といった課題に対し、図表4に見るような議論を重ねてきた結果として、薬価専門部会は令和6年度薬価制度改革において、以下の点に基づいて対応することを求めています。

  • 我が国の創薬力強化とともに、ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消を実現するため、革新的新薬のイノベーションの適切な評価を推進するための薬価上の措置を行う

  • 後発品を中心とした安定供給の課題を解消するため、後発品企業の産業構造の転換を促すとともに、医療上必要性の高い品目の安定供給の確保につなげるための薬価上の措置を行う

  • これらの薬価上の措置を行うとともに、長期収載品から後発医薬品へのさらなる置換えを従来とは異なる方法で進めることにより、我が国の製薬産業について長期収載品に依存するモデルから高い創薬力を持つ研究開発型のビジネスモデルへの転換を進めていく

改定によって薬事関係がどのような方向に進むのかをイメージする

令和6年度診療報酬改定によって調剤報酬や薬価(薬事関係)は変化します。最終的に診療報酬の点数が以前と比べてプラス・マイナスになるのかは気になります。しかし、それよりも重要なことは、改定によって変化する薬事関係がどのような方向に動いていくのかです。特に政府が目指す方向をイメージしておくことは、薬局経営や薬剤師の業務を考えていく上で常に留意しておきたいところです。

令和6年度の調剤報酬改定については、方向をイメージするキーワードとして「人材確保・働き方改革等の推進」「医療DX」「かかりつけ薬剤師」「対人中心」「医薬品の安定供給」があげられるかもしれません。薬価改定については、「ドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスの解消」「後発品を中心とした安定供給」「医療上必要性の高い品目の安定供給」をあげてよいかもしれません。それらキーワードから想起されるイメージが、当面の薬事関係が目指している方向であるなら、そのイメージにプラスに作用する診療報酬項目は、令和6年度診療報酬改定によって評価が高くなる可能性が高いと見てよさそうです。

(次回は2月に掲載予定です)

筆者:萩原雄二郎(株式会社エルシーシー代表)
編集協力:社会保険旬報Web医療と介護編集部


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