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「高負担」が避けられない日本の社会保障(中村秀一)

霞が関と現場の間で

日本は「中福祉中負担」か

日本が目指すべき社会保障の姿は「中福祉中負担」であると言われてきた。北欧のような「高福祉高負担」は無理だし、さりとてアメリカのような「低福祉低負担」でも困る。これらの中間であるのが望ましいというのが国民の多数派であろう。

確かにOECDの統計(社会支出の対GDP比)によると、日本は27.3%であり、アメリカ(18.7%)、イギリス(20.8%)より高く、フランス(31.0%)、ドイツ(28.9%)、スウェーデン(28.5%)よりは低い(日本は2017年、その他は2019年)。まさに中福祉のようだ。

問題は負担である。国民負担率(対国民所得)では、日本は44.3%で、アメリカ(31.8%)より高く、フランス(68.3%)、スウェーデン(58.8%)、ドイツ(54.9%)よりはかなり低く、ほぼイギリス(47.8%)並みである。中負担であるかのように見える(日本は2021年、その他は2018年)。

中福祉でも高負担が必要

日本は多額の赤字公債を発行し、現世代は必要な負担をしていない。本来負担すべきこの財政赤字分を考慮すると(財務省は「潜在的国民負担率」と呼ぶ)、日本の潜在的国民負担率(対国民所得比)は56.5%となり、ほとんどスウェーデンの国民負担率と並び、ドイツよりは高くなる。対GDP比の潜在的国民負担率では日本は39.7%となり、なんとスウェーデンの37.7%を上回る。

現在の日本の社会保障を維持するためだけでも、スウェーデン並みの負担が避けられない。「中福祉」でも「高負担」が必要なのだ。

スウェーデンに何が起きているか

翻って、スウェーデンの社会支出(対GDP比)がフランスだけでなく、最近ではドイツを下回ったことが注目される。スウェーデンに何が起こったのだろうか。

筆者がスウェーデンに駐在していた1980年代前半には、スウェーデンの高齢化率は日本よりはるかに高かった。現在のスウェーデンの高齢化率(20.3%)は当時とあまり変わらず、日本(29.1%)よりはるかに低い。

1人当たりGDPをみると、スウェーデン(約5.4万ドル)はアメリカ(約6.2万ドル)に次いで高い。ドイツ、イギリス、フランスは4万ドル台である。これに対し、日本は約3.9万ドルで最低だ。

実質GDPの成長率(2014~19年の年平均)では、スウェーデンが2.5%で最高である。次いでアメリカ(2.4%)、イギリス(1.8%)、ドイツ・フランス(ともに1.6%)と続く。日本は1.0%で、やはり最低である。分母(GDP)が大きければ、負担(GDP比)は高くならないのだ。

(本コラムは、社会保険旬報2022年1月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長
国際医療福祉大学大学院教授
1973年、厚生省(当時)入省。老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。

 

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