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#32|特別障害給付金


 現在、日本に住所を有する20歳以上60歳未満の者で、かつ、厚生年金に加入していなければ、原則、国民年金に加入しなければなりません。加入するかしないかを任意で選ぶことができる人は、日本国籍を有しながら海外に居住している人、または、60歳以上65歳未満で厚生年金に加入していない人に限られます。

 しかし、一昔前は、国民年金の加入を任意で選ぶことができる人がもっと多くいました。

 例えば、昭和61年3月以前は、配偶者が厚生年金等の被用者年金に加入していれば、国民年金の加入は任意でした。

 また、平成3年3月までの学生であった期間(主に学校法人法に定める学校の学生。ただし、夜間や通信の学生は除く。)も任意加入でした。

 このような期間において、任意加入すれば国民年金の加入者となり保険料を納付しますが、任意加入しなかった場合は合算対象期間となり、保険料を納付しなくとも、将来、老齢年金を受給するために必要な月数には算入します。ただし、受給する年金額には反映しません。従って、任意加入しなくとも、老齢年金の受給権発生に関しては、不利に働くことはありません。

 しかし、障害年金は、初診日において年金制度に加入していることが原則(※)ですので、任意加入していなかったことにより、重たい障害状態にも関わらず障害年金の請求ができないという不利益が生じる場合があります。(※ ただし、初診日において年金制度に未加入であっても、20歳前若しくは60歳から65歳までの間の日であり、かつ、所定の要件を満たせば、障害基礎年金の請求はできます。)

 こうした不利益の認知度は、当時、一般的には低いものでした。そこで、学生の任意加入しなかった期間中に初診日がある障害者の方々が、任意加入しない場合の不利益に対する説明が不十分なのは行政の瑕疵として訴訟を起こしました。(学生無年金訴訟)

 その結果、平成16年12月に「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」が参議院で可決され成立、平成17年4月より施行されました。いわゆる「特別障害給付金」の始まりです。

 この給付金の支給要件は次の通りです。

① 平成3年3月以前に学生であったことにより、国民年金に加入していなかった期間。
② 昭和61年3月以前に配偶者が被用者年金に加入していたことにより、国民年金に加入していなかった期間。

 上記①または②の期間内に初診日があり、現在、障害基礎年金の1級または2級程度の障害状態にある人が請求できます。なお、障害基礎年金や障害厚生(共済)年金を受給することができる人は除かれます。

 以上の要件を満たす必要があるので、特別障害給付金を請求できる人は、多くはないのです。

 今回は、そんな希少事例である特別障害給付金の請求について検証していきたいと思います。

1.初診日の特定

 相談者は人工透析を受けていますので、腎臓疾患があることが分かります。その腎臓の病歴を見てみると、現在は慢性腎不全、その前が糸球体腎炎とのことですが、それ以前に一度IgA腎症と診断されたことがありますので、これらの腎疾患に相当因果関係があるかを見ていかなければなりません。

 まず、糸球体とは、微細な血管で構成された球状の腎臓組織であり、血液をろ過する機能を持っています。この組織が炎症を起こしてしまうと、血液のろ過ができず、腎不全へと移行します。従って、慢性腎不全と糸球体腎炎は相当因果関係があります。

 次に、糸球体腎炎とIgA腎症との関係です。IgA腎症とは、本来なら身体を守る免疫物質であるIgAというタンパク質が、何らかの理由で腎臓の糸球体にへばりついて炎症を引き起こします。早期発見で適切に対処すれば治る病気であるとは言われていますが、放置すれば腎不全になる可能性もあります。傷病名は異なりますが、糸球体に炎症を引き起こすという点では糸球体腎炎と同じですから双方の病気には相当因果関係があるということになります。

 ゆえに、初診日はIgA腎症で初めて医療機関を受診した日となりますから、平成2年5月の健康診断後にTK病院を受診した日となります。

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