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【医科】看護職員処遇改善評価料を新設 令和4年10月からの看護職員の処遇改善

地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、令和4年10月以降の収入を3%(月額平均12,000円相当)引き上げる処遇改善のために、診療報酬に「看護職員処遇改善評価料」が新設されます。

算定にあたっては施設基準を満たした上で届出が必要になりますが、令和4年10月20日までに届出書の提出があり、同月末日までに要件審査を終え届出の受理が行われたものについては、同月1日に遡って算定することができます。

ここでは、「看護職員処遇改善評価料」の新設に関する議論の経緯や概要についてまとめていきます。


1 看護職員の処遇改善に係る議論の経緯

「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)において、

  • 地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、段階的に収入を3%程度引き上げる

  • 収入を1%程度(月額平均4,000円相当)引き上げるための措置を令和4年2月から前倒しで実施する

ことなどが示されました。

令和4年3月23日 中央社会保険医療協議会 総会(第518回)

令和4年2月から実施された看護職員の収入を1%程度(月額平均4,000円相当)引き上げるための措置(看護職員等処遇改善事業補助金(令和4年2月~9月))については、令和3年度補正予算で215.6億円が当該措置に充てられました。

また、令和3年12月22日には厚生労働大臣と財務大臣との間で令和4年10月以降は看護職員の収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための診療報酬上の対応を行うことが合意され、その制度設計のために中央社会保険医療協議会とその下部組織で活発な議論が行われました。

<これまでに行われた主な議論等>

  1. コロナ克服・新時代開拓のための経済対策(令和3年11月19日閣議決定)

  2. 令和3年度補正予算案閣議決定(令和3年11月26日)

  3. 令和3年度補正予算成立(令和3年12月20日)

  4. 公的価格評価検討委員会中間整理(令和3年12月21日)

  5. 診療報酬改定についての大臣折衝事項(令和3年12月22日)

  6. 中央社会保険医療協議会(総会)(令和4年3月23日)

  7. 入院・外来医療等の調査・評価分科会(令和4年4月13日)

  8. 中央社会保険医療協議会(診療報酬基本問題小委員会・総会)(令和4年4月27日)

  9. 入院・外来医療等の調査・評価分科会(令和4年5月19日)

  10. 中央社会保険医療協議会(診療報酬基本問題小委員会・総会)(令和4年6月1日)

  11. 入院・外来医療等の調査・評価分科会(令和4年6月10日)

  12. 中央社会保険医療協議会(診療報酬基本問題小委員会・総会)(令和4年6月15日)

  13. 入院・外来医療等の調査・評価分科会(令和4年7月20日)

  14. 中央社会保険医療協議会(診療報酬基本問題小委員会・総会)(令和4年7月27日)

  15. 諮問(令和4年7月27日)

  16. 中央社会保険医療協議会(総会)(令和4年8月3日)

  17. 中央社会保険医療協議会(総会)(令和4年8月10日)

  18. 答申(令和4年8月10日)

  19. 告示(令和4年9月5日)

2 令和4年10月からの処遇改善(看護職員処遇改善評価料)

地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員を対象に、令和4年10月以降の収入を3%(月額平均12,000円相当)引き上げる処遇改善の仕組みとして、診療報酬に「看護職員処遇改善評価料」が新設されます。

各保険医療機関で状況が違うため、処遇改善に必要な収入を過不足なく得られるように、所定点数をどのように設定していくか議論されてきました。算定対象(入院患者だけか外来患者も含めるか)や処遇改善に必要な金額が極めて高額になる保険医療機関の取扱いについては、最終的には算定対象とするのは入院患者のみで、必要額が高額な保険医療機関にも考慮した点数設定となっています。必要額が高額になる保険医療機関(看護職員を手厚く配置しているが、入院患者が少ない保険医療機関)には三次救急医療施設、こども病院、周産期母子医療センターなどが該当していることが配慮されました。

① 算定要件

165区分の点数が設定されており、それぞれの保険医療機関の状況に応じて算定する点数が変わってきますが、算定に当たっては施設基準の届出が必要となります。

算定の対象となるのは、当該届出を行った保険医療機関に入院している患者であり、入院基本料(特別入院基本料等を含む)、特定入院料又は短期滞在手術等基本料(短期滞在手術等基本料1を除く)を算定している患者に「看護職員処遇改善評価料」を算定します。

② 施設基準の主な内容

⑴ 対象となる保険医療機関

次のいずれかに該当している必要があります。

 A205救急医療管理加算に係る届出を行っていて、救急搬送実績が年間200件以上
 「救急医療対策事業実施要綱」(昭和52年7月6日医発第692号)に定める「救急救命センター」、「高度救命救急センター」又は「小児救命救急センター」を設置

の救急搬送件数は、原則は賃金改善実施年度の前々年度1年間における実績に基づく件数となります。ただし、新規届出を行う保険医療機関は、新規届出を行った年度に限り、賃金改善実施年度の前年度1年間の実績とします。また、令和4年度中に新規届出を行う「令和4年度(令和3年度からの繰越分)看護職員等処遇改善事業補助金」が交付された保険医療機関については、令和2年度の実績とします。

しかし、社会状況の変化の影響を受けることなども考えられるため、現に看護職員処遇改善評価料を算定している保険医療機関については、賃金改善年度の前々年度1年間における実績で基準を満たせなくなった場合でも、賃金改善実施年度の前年度のうち連続する6か月間において、100件以上の救急搬送実績があれば、基準をみたすものとみなすことができます(この規定を適用した年度の翌年度については、この規定は適用されません)。

⑵ 賃金改善の実施

保険医療機関に勤務する看護職員等(保健師、助産師、看護師及び准看護師(非常勤職員を含む)に対して、賃金(基本給、手当、賞与等(退職手当を除く)を含む)のうち、賃金改善の対象とする賃金項目を特定した上で、賃金改善を実施する必要があります。この場合、特定した賃金項目以外の賃金項目の水準を低下させてはいけませんが、業績等に応じて変動するものは除かれます。

また、安定的な賃金改善を確保するために、賃金改善の合計額の3分の2以上は、基本給又は決まって毎月支払われる手当の引き上げ(ベア等)を行うことが必要となります。ただし、「令和4年度(令和3年度からの繰越分)看護職員等処遇改善事業補助金」が交付された保険医療機関については、令和4年度中においては、同補助金に基づくベア等水準を維持することで足りるものとします。

⑶ 賃金改善措置の対象者

対象となる保険医療機関に勤務する看護職員等が対象となります。ただし、当該保険医療機関の実情に応じて、コメディカルである職員(非常勤職員を含む)についても、対象者に加えることができます。「コメディカル」には以下の職種が該当します。

(※)「その他医療サービスを患者に直接提供している職種」として、診療エックス線技師、衛生検査技師、メディカルソーシャルワーカー、医療社会事業従事者、介護支援専門員、医師事務作業補助者等が想定されています。

⑷ 届出を行う区分

165種類の区分の中から、適切な区分を選んで届出を行う必要があり、決められた計算式によって算出した数【A】に基づいて、別表に従って届け出る区分を選択します。

計算式

別表

1度届出を行った後も、看護職員数等の変動があり得るため、毎年3月、6月、9月、12月に算定式を用いて新たに【A】を算出し、区分に変更があれば地方厚生局長等に届け出て、翌月(毎年4月、7月、10月、1月)から変更後の区分に基づく点数を算定します。

ただし、前回の届出と比較して直近3か月の「看護職員等の数」、「延べ入院患者数」及び【A】のいずれの変化も1割以内である場合は区分変更は必要ありません。

⑸ 賃金改善計画書

毎年4月に「賃金改善計画書」を作成し、毎年7月に地方厚生局長等に提出する必要があります(新規届出時にも提出は必要)。

賃金改善計画書には、
a 看護職員処遇改善評価料の見込額
b 賃金改善の見込額
c 賃金改善実施期間
d 賃金改善を行う賃金項目及び方法
等を記載します。

⑹ 賃金改善実績報告書

毎年7月に前年度における取組状況を評価するため、「賃金改善実績報告書」を作成し、地方厚生局長等への報告が必要となります。

⑺ 特別事情届出書

事業の継続を図るため、職員の賃金水準(看護職員処遇改善評価料による賃金改善分を除く)を引き下げた上で、賃金改善を行う場合には、当該保険医療機関の収支状況、賃金水準の引下げの内容等について記載した「特別事情届出書」を作成して届け出る必要があります。

看護職員処遇改善評価料に関連する告示・通知・事務連絡等は、小社ウェブサイト「追補・訂正表」ページの「診療報酬・薬剤」に掲載しています。

参考 令和4年2月から9月までの処遇改善(看護職員等処遇改善事業補助金)

① 概要

新型コロナウイルス感染症への対応と少子高齢化への対応が重なる最前線において働く看護職員の収入の引上げを図ることを目的とし、「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)に基づいて、一定の役割を担う医療機関に勤務する看護職員の収入を1%程度(月額平均4,000円相当)引き上げるために必要な経費を交付するものです。

実施主体は都道府県であり、対象となる医療機関は都道府県に補助金交付の申請を行いますが、必要となる費用は国から都道府県に全額が交付(令和3年度補正予算で215.6億円)されます。

② 対象期間

令和4年2月から9月までの賃金引上げ分が対象となります(令和4年10月以降は診療報酬において別途対応)。

③ 対象となる医療機関

以下のいずれかの要件を満たす医療機関が対象となります。

  • 令和4年2月1日時点において、診療報酬における救急医療管理加算の算定対象となっており、かつ、令和2年度1年間における救急搬送件数が200件以上であること

  • 令和4年2月1日時点において、三次救急を担う医療機関(救命救急センター)であること

④ 対象者となる範囲

看護職員処遇改善評価料の対象者と同様です。

⑤ 賃金改善等の要件

  1. 令和4年2月・3月分(令和3年度中)から実際に賃金改善を行い、賃金改善を開始した月に都道府県に対して賃金改善を実施した旨の用紙の提出をしていること(令和4年2月分の支給に間に合わない場合は、同年3月に一時金等による支給も可能)。

  2. 補助金による賃金改善に係る計画書を作成し、計画の具体的な内容を対象看護職員等に周知すること。

  3. 交付された補助金は、対象看護職員等の賃金改善及び当該賃金改善に伴い増加する法定福利費等の事業者負担分(※)に全額充てること。 ※ 以下の算式で算定した金額を標準とする。 「前事業年度(令和4年4月が属する事業年度の前の事業年度)における法定福利費等の事業主負担分の総額」÷「前事業年度における賃金の総額」×「賃金改善額」

  4. 令和4年4月分以降の賃金改善は、賃金改善の合計額の3分の2以上は基本給又は決まって毎月支払われる手当の引上げにより改善を図ること(令和4年2月・3月分は一時金等による支給が可能)。

  5. 補助金により改善を行う賃金項目以外の賃金項目(業績等に応じて変動するものを除く)の水準を低下させていないこと。

  6. 人事院勧告を踏まえて賃金を決定する対象医療機関においては、人事院勧告を踏まえた期末手当(賞与)等の変動の影響を除去して、賃金改善額を算定すること。

⑥ 補助金の申請

⑴ 補助金の申請から交付まで

賃金改善を開始した月(令和4年2月又は3月)に、都道府県に対して賃金改善を実施した旨の用紙を提出した上で、令和4年4月中に、看護職員・その他職員の月額の賃金改善額の総額(対象とする職員全体の額)を記載した計画書を提出します。補助金の交付は、同年6月からとなっています。

⑵ 補助金の交付

令和4年6月から交付される補助金の額は、以下の計算式に基づいて算定された金額が支給されます(概算支給)。

<算式>
賃金改善実施期間の各月初日時点における当該医療機関の看護職員の常勤換算数の平均値(見込み)×8(賃金改善実施期間の月数)×4,660円(4,000円に法定福利費に係る事業負担率に相当する率を乗じて得た額を加えて得た額)

⑶ 補助金の精算

賃金改善実施期間の終了後は、
a 賃金改善実施期間の各月初日時点における当該医療機関の看護職員の常勤換算数の総数(実績値)×4,660円(4,000円に法定福利費に係る事業負担率に相当する率を乗じて得た額を加えて得た額)
b 賃金改善実施期間において、実際に対象看護職員等の賃金改善及び当該賃金改善に伴い増加する法定福利費等の事業主負担に充てられた経費
を計算し、いずれか低い方の金額(賃金改善実績額)と⑵で計算した概算支給額を比較し、賃金改善実績額が概算支給額以上となった場合は、概算支給額が補助額として確定します。逆に賃金改善実績額が概算支給額を下回った場合は、賃金改善実績額が補助額となります。その場合は、概算支給額と賃金改善実績額の差額を返還する必要があります。

⑦ 都道府県への報告

賃金改善実施期間終了後、看護職員・その他職員の月額の賃金改善額の総額(対象とする職員全体の額)を記載した実績報告書を提出します。余剰金が生じた場合の取扱いは、⑥⑶の通りですが、実施された賃金改善の内容が要件を満たさないことが確認された場合は、特段の理由がある場合を除いて補助額の全額又は一部について返還することになります。

なお、実績報告の根拠となる資料(給与明細や勤務記録等)を補助額の確定する日の属する年度の終了後5年間保管する必要があります。

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