見出し画像

「個別サポート加算(Ⅱ)」を算定するには

被虐待児の受け入れを評価

令和3年度より、児童福祉法に基づく障害児通所支援のサービス、具体的には「児童発達支援」「医療型児童発達支援」および「放課後等デイサービス」において、「個別サポート加算(Ⅱ)」が新設されました。

本記事では個別サポート加算(Ⅱ)がどのような加算か、書籍『障害福祉サービス報酬の解釈(令和3年4月版)』(以下「本書」)や厚生労働省資料等からまとめます。


要保護・要支援児童を事業所が受け入れて、関係機関と連携して支援を行う

まず、「個別サポート加算」の創設の趣旨は次のように説明されています。

⑧著しく重度及びケアニーズの高い児童を支援した場合の評価 ・著しく重度及び行動上の課題のあるケアニーズの高い障害児への支援を充実させる観点から、児童発達支援及び医療型児童発達支援は5領域11項目の調査項目によるスコアを、放課後等デイサービスは指標該当児の判定スコアを用いて判定した結果、一定の要件に該当する障害児を受け入れたことを評価する加算を創設する。  ≪個別サポート加算(Ⅰ)【新設】≫100単位/日   ⑨虐待等の要保護・要支援児童を支援した場合の評価 ・虐待等の要保護・要支援児童を受け入れた場合に、家庭との関わりや、心理的に不安定な児童へのケア、支援に必要な関係機関との連携が必要となることを考慮し、児童相談所や子育て世代包括支援センター等の公的機関や、要保護児童対策地域協議会、医師との連携(事業所からの報告に基づく経過観察の依頼を含む)により、児童発達支援等を行う必要のある児童を受け入れて支援することを評価する加算を創設する。  ≪個別サポート加算(Ⅱ)【新設】≫125単位/日 令和3年2月4日「令和3年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」

要約すれば、個別サポート加算(Ⅰ)は、著しく重度だったり、行動上のケアニーズがある障害児を受け入れることへの評価といえます。 一方で個別サポート加算(Ⅱ)は、虐待等の要保護・要支援児童を事業所が受け入れて、関係機関と連携して支援を行うことを評価する加算です。

1日につき125単位が算定可能

次に、個別サポート加算(Ⅱ)の単位数と要件を見てみます。 厚生労働大臣が定める費用算定基準、いわゆる単位数表では次のように規定されています。

第1 児童発達支援 9 個別サポート加算 イ 個別サポート加算(Ⅰ) 100単位 ロ 個別サポート加算(Ⅱ) 125単位 注1 イについては、〔略〕 注2 ロについては、要保護児童(法第6条の3第8項に規定する要保護児童をいう。以下同じ。)又は要支援児童(同条第5項に規定する要支援児童をいう。以下同じ。)であって、その保護者の同意を得て、児童相談所その他の公的機関又は当該児童若しくはその保護者の主治医と連携し、指定児童発達支援等を行う必要があるものに対し、指定児童発達支援事業所等において、指定児童発達支援等を行った場合に、1日につき所定単位数を加算する。
平成24年3月14日厚生労働省告示第122号/改正;令和3年3月23日厚生労働省告示第87号 (本書729ページ)

つまり、要支援児童・要保護児童に対し、児童相談所や主治医と連携して事業所が支援を行った場合に、1日につき125単位が算定可能とされています。

要支援児童・要保護児童という単語がでてきましたが、児童福祉法の定義は次のようになっています。

第6条の3
5 この法律で、養育支援訪問事業とは、厚生労働省令で定めるところにより、乳児家庭全戸訪問事業の実施その他により把握した保護者の養育を支援することが特に必要と認められる児童(第8項に規定する要保護児童に該当するものを除く。以下「要支援児童」という。)若しくは保護者に監護させることが不適当であると認められる児童及びその保護者又は出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦(以下「特定妊婦」という。)(以下「要支援児童等」という。)に対し、その養育が適切に行われるよう、当該要支援児童等の居宅において、養育に関する相談、指導、助言その他必要な支援を行う事業をいう。
8 この法律で、小規模住居型児童養育事業とは、第二十七条第一項第三号の措置に係る児童について、厚生労働省令で定めるところにより、保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童(以下「要保護児童」という。)の養育に関し相当の経験を有する者その他の厚生労働省令で定める者(次条に規定する里親を除く。)の住居において養育を行う事業をいう。
児童福祉法

連携先機関等と障害児への支援の状況等について共有しながら支援

次に、留意事項通知における個別サポート加算(Ⅱ)の取扱いを見てみましょう。

〔9・注2〕個別サポート加算(Ⅱ)の取扱い〔第二・2・(1)・⑫の3〕
通所報酬告示第1の9のロの個別サポート加算(Ⅱ)については、要保護児童又は要支援児童を受け入れた場合において、家庭との関わりや、心理的に不安定な児童へのケア、支援に必要な関係機関との連携が必要となることを考慮し、児童相談所や母子健康包括支援センター等の公的機関、要保護児童対策地域協議会、医師との連携を行う場合に評価を行うものであり、以下のとおり取り扱うこととする。
ただし、これらの支援の必要性について、通所給付決定保護者に説明することが適当ではない場合があることから、本加算の趣旨等について理解した上で、本加算の算定について慎重に検討すること。
(一)児童相談所や母子健康包括支援センター等の公的機関、要保護児童対策地域協議会又は医師(以下「連携先機関等」という。)と、障害児が要保護児童又は要支援児童であるとの認識や、障害児への支援の状況等を共有しつつ支援を行うこと。
(二)連携先機関等との(一)の共有は、年に1回以上行うこととし、その記録を文書で保管すること。なお、ここでいう文書は、連携先機関等が作成した文書又は児童発達支援事業所が作成した文書であって、連携先機関等と共有するなど、児童発達支援事業所と連携先機関等の双方で共有しているものであり、単に児童発達支援事業所において口頭でのやりとりをメモして保管しているだけの文書は対象とならない。
(三)(一)のように、連携先機関等と障害児への支援の状況等について共有しながら支援をしていくことについて、児童発達支援計画に位置づけ、通所給付決定保護者の同意を得ること。
(四)市町村から、連携先機関等との連携や、障害児への支援の状況等について確認があったときは、当該状況等について回答するものとする。

平成24年3月30日障発0330第16号/改正;令和3年3月30日障障発0330第3号 (本書731ページ)

本加算については「慎重に検討すること」という文章がありました。 どのような検討をすればよいのか、また、なぜ慎重に行わなければならないのでしょうか。

障害児や保護者のために慎重な取扱いが必要

慎重に検討すべき理由としては、たとえば次のようなケースが想定されているためといえます。

要支援児童等への支援は、要支援児童等の通所給付決定保護者が、子どもが要支援児童等であることの認識がない中で行われることもあります。このため、加算の取扱いを事業所が十分に把握しないままに算定することで、保護者とのトラブルに繋がり、ひいては要支援児童等の支援に支障が生じることも想定される
令和3年3月31日障害福祉課事務連絡「個別サポート加算(Ⅱ)の取扱いについて」 (本書1260ページ)

また、同事務連絡では「加算の算定要件」を次のように解説しています。 加算の算定要件は、以下の(1)及び(2)のいずれも満たすものである。

(1)連携先機関等と連携して支援を行うこと
① 連携先機関等(※)と、加算を算定する障害児が要支援児童等であるとの認識や、要支援児童等への支援の状況等を共有しつつ支援を行うことを要件とする。
なお、支援の内容は、要支援児童等やその家庭により様々な内容になることが想定されるため、一律の要件は設けない。一方、当該加算の趣旨を踏まえた手厚い支援の内容について、個別支援計画(児童発達支援計画、医療型児童発達支援計画及び放課後等デイサービス計画をいう。以下同じ。)に記載するものとする。
(※)連携先機関等は全ての関係機関と連携することを求めるものではないが、いずれかの機関と連携することとする。

② 連携先機関等との①の共有は、年に1回以上行うこととし、その記録を文書で保管すること。
なお、ここでいう文書は、連携先機関等が作成したものや、事業所が作成し、連携先機関等と共有するなど、事業所と連携先機関等の双方で共有する必要があり、単に事業所において口頭でのやりとりをメモして保管しているだけの文書は対象とならない。 また、日頃の情報共有に係る資料に加え、医師との連携に当たっては、医師による保護者等への支援の必要性について、文書(※1)で把握しておく必要があるものとする(※2)。なお、文書の内容としては、以下のようなものを想定している。
ア 保護者の治療等を行う医師の場合 医師が、保護者への治療等をしており、事業所が保護者を支援していく上で、保護者の精神的な状況や家庭環境等のほか、保護者が適切な養育を行うことができるようになるための留意点についてまとめたもの。
イ 障害児の治療等を行う医師の場合 医師が、障害児の発達に係る治療等をしており、事業所が障害児を支援していく上で、医学的な知見に基づく発達上の課題や、家庭環境の要因等から生じる二次障害への対応に係る留意点についてまとめたもの。
(※1)医師の文書作成に伴う費用が生じる場合、その費用は事業所が負担するものとする。
(※2)医師が患者の情報を事業所に共有する上で、患者の同意が必要となる点に留意すること。
③ 本加算の対象となる要支援児童等について、連携先機関等と連携して支援することの必要性は、一義的には事業所が検討することになるが、連携先機関等が、こうした手厚く連携した支援の必要まではないと考えることも想定される。
連携先機関等と連携した支援の必要性を共有できない場合は、本加算の算定対象としての要支援児童等には該当しないことに留意されたい。

(2)通所給付決定保護者の同意を得ること
① 保護者に同意を求める趣旨 (1)のように、連携先機関等と要支援児童等への支援の状況等について共有しながら支援をすることについて、個別支援計画に位置づけ、通所給付決定保護者の同意を得るものとする。この場合、保護者の心情に十分に留意すること。
報酬は、児童発達支援等の利用契約を締結した保護者に対して請求するものであり、加算も同様である。そのため、本加算の趣旨や事業所が行う手厚い支援について、保護者が事前に承諾することを加算の要件として求めるものである。

② 同意を求める項目
ア 要支援児童等の課題や、課題に対する支援内容
個別支援計画に、養育環境等も含めた要支援児童等の課題や、課題に対する支援内容を記載すること。(1)の①のとおり、支援の内容は、要支援児童等やその家庭により様々な内容になることが想定されるため、明確な要件は設けない。また、要支援児童等かどうかについても、保護者との信頼関係の中で把握した養育環境等から、一義的には事業所において把握し、加算の請求について判断するものとする。 一方で、保護者にとって、事業所の説明に納得がいかない限り、同意は得られないので、事業所においては、保護者の納得が得られるよう加算の算定を行う障害児や、当該障害児にどのような支援を行っているのか、また、どのような支援を行うのかについて、十分に検討する必要があることに留意すること。
イ 市町村やその他連携先関係機関等と要支援児童等の支援状況等の情報共有を行うこと
事業所が連携する連携先機関等と、要支援児童等の支援状況等を情報共有することについて、保護者に同意を得ること。
なお、医師との連携により加算を算定しようとする場合(市町村が関わっていない場合)、保護者が市町村に情報提供をすることを拒否することも想定される。このような場合、まずは、市町村への情報提供により、市町村による支援を受けることが、保護者の身体的・精神的負担を軽減し、養育の支援となり得ることを保護者に説明することが必要となる。
その結果、保護者が市町村への情報提供を拒否する場合は、加算の算定は基本的には行わないものとする。加算を請求することは、保護者にとっては、報酬請求に係る審査を行う市町村の障害福祉担当課が、障害児が要支援児童等であることを把握し得ることになるため、保護者が市町村への情報提供に抵抗感がある場合に加算を請求することで、事業所との信頼関係を損ねることになりかねないためである。
こうした場合、保護者に対して、市町村による支援を受けることが、保護者の身体的・精神的負担を軽減し、養育の支援となり得ることについて、時間をかけて理解を求めることが必要である。 ただし、(3)のとおり、加算を算定しないことと、要支援児童等の通報・情報提供は異なる点に留意すること。

③ 保護者との信頼関係の構築
当該障害児の養育環境等に対する実情や保護者の支援の必要性等を理解しないまま、②の同意を保護者に求めることは、一方的に当該障害児が要支援児童等に該当することや、障害児の養育環境等の問題等について伝えることになり、かえって要支援児童等への支援を困難にすることも想定される。
事業所が、障害児を要支援児童等と認識し、手厚い支援が必要だと感じても、保護者との認識の共有が図られているとは限らないため、こうした場合、まずは、保護者に寄り添い相談援助等を行うなどして、保護者との信頼関係を構築していくことが必要となる。 こうした信頼関係が築けていない場合に加算の算定に係る同意を求めることは、保護者との信頼関係を損ねるのみならず、要支援児童等の養育上も好ましくない影響が生じる恐れがあることから、行わないようにすること。
なお、保護者の同意を得た上で支援に当たるケースについて、どのようなケースが考えられるかは、「7 加算の算定を想定する具体的なケース」を参照すること。

(3)市町村への通報義務等との関係について
(2)の②の取扱いは、あくまで加算の算定に係る取扱いであり、事業所として、要支援児童等を把握したときの、児童福祉法等に基づく市町村への通報や情報提供の取扱いについては従前と変わらない。保護者の同意が得られない場合であっても、要保護児童を発見した場合は市町村等への通報を行う義務があり、要支援児童と思われる者を把握した場合、当該者の情報を市町村に提供するよう努めることが必要となる。 令和3年3月31日障害福祉課事務連絡「個別サポート加算(Ⅱ)の取扱いについて」 (本書1260ページ)

適切な算定で障害児や保護者の福祉増進を

以上は児童発達支援についての取扱いを示しましたが、これらは医療型児童発達支援または放課後等デイサービスを行う事業所にも準用されます。

個別サポート加算(Ⅱ)は、関係機関と連携しながら事業所が要支援児童等を受け入れることを報酬上で評価し、もって要支援児童等の福祉を増進するものです。 一方で、関係者の信頼関係がないまま事業者が一方的に加算を算定するなど、不適切な運用が行われた場合、関係機関や保護者とのトラブルにもつながりかねません。

障害児にとって不幸な事態を避けるためにも、個別サポート加算(Ⅱ)の算定にあたっては、事業所および自治体の双方がこの加算の趣旨をよく理解することが重要だといえそうです。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

社会保険研究所ブックストアでは、診療報酬、介護保険、年金の実務に役立つ本を発売しています。