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菅首相の所信表明にみる社会保障考(中村秀一)

霞が関と現場の間で

その目指す社会像とは

菅首相は、就任してから40日が経過した10月26日に臨時国会で所信表明演説を行った。自民党総裁選などでデジタル庁の設置、携帯電話料金の引下げ、不妊治療の保険適用といった首相の政策が断片的に伝えられてはきた。ようやく国会で首相の政策がまさに総合的・俯瞰的に示される機会であり、国民の一人として注目せざるをえない。

これまで菅首相は「自助・共助・公助」と発言されており、その意味するところについて様々な解釈・憶測がなされてきた。今回、所信表明の末尾の部分で「私が目指す社会像は、『自助・共助・公助』そして『絆』です」と述べ、「自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。その上で、政府がセーフティネットでお守りする」と説明した。首相の共助は「互助」に近く、社会保険は公助としているようだ。

薬価の毎年改定に踏み込む

「そうした国民から信頼される政府」のためには、縦割り、既得権、悪しき前例主義の排除・打破が必要で、規制改革を全力で進めるとする。そして「毎年薬価改定の実現」は、「各制度の非効率や不公平は、正していきます」という文脈で語られていることに注目すべきだ。官房長官時代に薬価の毎年改定を主導したとされる菅首相の思想が率直に表現されている。

医療界で論議のあるオンライン診療については、「デジタル化による利便性の向上のため」「恒久化を推進します」と述べ、安倍内閣で7月に出された骨太方針2020よりもさらに踏み込んだ表現になっている。

デジタル化の推進は首相が最も力を入れている政策であるが、マイナンバーカードについて、「今後2年半のうちにほぼ全国民に行き渡ることを目指し、来年3月から保険証とマイナンバーカードの一体化を始め」ることも表明されている。

全世代型社会保障は?

全世代型社会保障検討会議は、安倍内閣では結論が出せず、引き継いだ形である。

全世代型社会保障への転換に関して、所信表明では「安心の社会保障」の部分、まず少子化対策に取り組むことを表明している。そこで一連の少子化対策に触れた後、「共働きで頑張っても、1人分の給料が不妊治療に消えてしまう」という声に応え、「不妊治療への保険適用を早急に実現」すると公約を確認している。

「これまでの方針に基づいて、高齢者医療の見直しを進めます」と年末までの決着を示唆しつつ、「全ての世代の方々が安心できる社会保障制度を構築し、次の世代に引き継いでまいります」。これが首相の「全世代型社会保障」のようだ。 

(本コラムは、社会保険旬報2020年12月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長
国際医療福祉大学大学院教授
1973年、厚生省(当時)入省。 老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。


  


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