#21 公務員職域年金の給付設計の行方
被用者年金制度を一元化する際に課題となるのが、公務員共済年金に存在している職域年金部分の取り扱いである。
昭和60年の年金改正で厚生年金と共済年金の給付額算定方式を揃えたときに、共済年金には厚生年金相当額の2割に相当する額を職域年金部分として上乗せすることとされた。それまでの共済年金は公務員制度の一環としての側面をもつとともに、また民間の企業年金の性格ももっていることからこのような措置が取られたのである。
当時国会に提出された被用者年金一元化法案は、附則において職域年金部分を廃止し、別に法律で新たな公務員制度としての年金給付の制度を創設することを定めていた。この新たな職域年金制度がどのような仕組みになるかは不明であったが、これが実現すれば社会保障年金としての給付と職域年金としての給付が分離整理されることになり、社会保障給付については公務員も民間被用者も同じ制度の適用を受け、公務員制度としての給付は新たな職域年金制度で実施するという、考え方が整理された枠組みができ上がることになる。
この新しい枠組みが実現した場合、公務員に対する退職給付は、基礎年金、厚生年金と新たな職域年金、そして退職手当から構成される。新たな職域年金の仕組みは不明であったが、それを設計するにあたって留意すべき点があるように思われた。それは終身年金部分をこれ以上小さくするのは問題が多いのではないか、という点であった。
できれば、一時金の財源を終身部分に回すことや、現役時の給与の一部を削ってでも終身年金の財源に回すなどして、基礎年金、厚生年金のほかに一定の終身年金を確保することを検討する必要があるのではないかと思われた。
それは公務員に対する退職給付の水準を上げるべきであるということではない。平成18年4月の閣議決定にあるように、人事院が実施した諸外国の公務員年金や民間の企業年金及び退職金の実態についての調査に基づいた水準によるのであるが、その中の終身年金のウェートを高める必要があるのではないかという問題意識であった。
終身年金の水準が十分でない場合、貯蓄が相当程度あったとしても、さらに蓄財に励むのが一般的な行動パターンではないだろうか。公務員も終身年金の水準が低ければ同じ行動をとることになると思われるが、この蓄財しなければならないという気持ちが公正な公務の妨げになったり、長期的なビジョンの形成を阻害する要因になったりするのではないだろうか。
給与がそれほど高くない水準でも、その範囲で生活していれば蓄財しなくても老後も安心して暮らせるという枠組みがあれば、利害関係から独立した長期的な視点で企画立案でき、また公正な判断が可能な環境が作られていることになるのではないかと思う。
諸外国を見ても、米・英・独・仏すべて公務員(独は官吏)の退職給付に占める終身年金のウェートは高い。そうした環境を整えた後は、公務員本人が自覚と自制をもって経済生活を送ることが重要となる。
[初出『月刊 年金時代』2009年2月号(社会保険研究所発行)]
【今の著者・坂本純一さんが一言コメント】
今回は被用者年金制度の一元化にまつわる「陰」の部分について考えてみよう。この「陰」の部分は、一元化の過程において顔を出した官僚バッシングの風潮であり、霞が関の地盤沈下をもたらしたと観察される因子のことである。
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