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【詳解】第82回社会保障審議会介護保険部会(9月27日)

介護保険部会が保険者機能の強化について議論 調整交付金の活用には反対・慎重な意見が相次ぐ

社会保障審議会介護保険部会(遠藤久夫部会長)は9月27日、介護保険における保険者機能の強化について議論を深めた。その観点からの調整交付金の活用も論点として示されたが、全国町村会や全国市長会をはじめとして複数の委員から反対・慎重な意見が相次ぎ、積極的に支持する意見は出なかった。

また保険者機能強化推進交付金についても論点にあがり、その評価指標について、アウトカム指標の充実を求める意見が健保連や協会けんぽ、日商などの複数の委員から出された。


アウトカム評価の追加など評価指標の精査を指摘

今回の議題として、厚労省は「自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化」を示すとともに、保険者機能強化推進交付金と調整交付金の活用に関して意見を求めた。

前回2017年の介護保険制度改正では、全市町村が保険者機能を発揮して、PDCAサイクルにより、高齢者の自立支援・重度化防止に取り組むように、①データに基づく課題分析と対応(取り組み内容・目標の介護保険事業(支援)計画への記載)②適切な指標による実績評価③保険者への財政的なインセンティブの付与─について法律により制度化した(図表1)。

図表1 2017年の介護保険制度改正(保険者機能の抜本強化)

高齢化が進展する中で、地域包括ケアシステムを推進するとともに、制度の持続可能性を維持するためには、保険者が地域の課題を分析して高齢者が自分の能力に応じた自立した生活を送るための取り組みを進める必要があるという認識からだ(図表2)。

図表2 自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化①

他方、厚労省は、自治体がデータに基づく地域分析を進めて計画作成ができることなどを狙いに、「地域包括ケア『見える化』システム」の整備を進めてきている。これは、都道府県・市町村における介護保険事業(支援)計画等の策定・実行を総合的に支援するための情報システムだ。介護保険に関連する情報をはじめ、地域包括ケアシステムの構築に関する様々な情報が一元化され、かつグラフ等を用いた見やすい形で提供されている。自治体職員が自分の自治体の状況について全国での位置づけなどを把握・分析する上で役立つ。

さらに厚労省は2017年6月には「地域包括ケア『見える化』システム等を活用した地域分析の手引き」を作成。2018年7月には「介護保険事業(支援)計画の進捗管理の手引き」も作成した(図表3)。

図表3 自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化②

保険者機能強化のインセンティブとして「保険者機能強化推進交付金」が導入され、2018年度から都道府県・市町村による取り組みの評価及びその結果に基づき、交付されている。

評価指標に基づく自治体の全般的な取り組みについて厚労省は、「見える化システム」等を活用した地域分析の実施や課題の把握、都道府県・市町村間での共有などが進捗していることを報告した。

一方、都道府県の指標では、市町村へのアドバイザー派遣などの支援の実施について得点率のバラつきがあり、「水準アップが必要」と述べた。市町村の評価結果では項目ごとの得点率のバラつきがあるとした(図表4-7)。

図表4 自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化③
図表5 保険者機能強化推進交付金(都道府県) Ⅰ指標の得点率
図表6 保険者機能強化推進交付金(都道府県) Ⅱ(1)指標の得点率
図表7 保険者機能強化推進交付金(市町村) Ⅰ指標の得点率

その上で都道府県・市町村で共同して底上げを図るとともに、都道府県の支援内容が効果的であるか検討することを指摘した。さらに保険者機能を強化する上で、アウトカム評価の追加等も含め、評価指標を精査する必要も強調した(図表8)。

図表8 自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化④


骨太方針2019を踏まえ調整交付金の活用の検討を求める

さらに厚労省は、「保険者機能強化交付金」をめぐる詳細な状況も報告。

交付金は、全額国費で賄われ、都道府県分・市町村分の合計で200億円。2019年度の評価指標では、都道府県については、「地域課題の把握と支援計画」「自立支援・重度化防止等、保険給付の適正化事業等に係る保険者支援事業」「管内市町村の評価指標の達成状況」について評価(予算額は10億円程度)。また市町村については、「PDCAサイクル体制等の構築」「自立支援、重度化防止等に資する施策の推進」「介護保険運営の安定化に資する施策の推進」について評価している(予算額は190億円程度)(図表9・10)。

図表9 保険者機能推進交付金①
図表10 保険者機能強化推進交付金の概要

2019年度には評価指標の一部を見直した。評価結果の概況としては2018年度よりも全般的に取り組みの底上げが図られた。個別指標の状況は、アウトカム指標である要介護状態の維持・改善の度合いの配点を、20点から60点に引き上げたことで、アウトカム指標で高得点をとった上位10位中の9県で合計点の順位があがった。

またいずれのアウトプット指標でも実績に改善が見られた。たとえば地域ケア会議での個別ケースの検討率は2018年度の評価で0.8%であったのが、2019年度では1.3%と5ポイント上昇した(図表11)。

図表11 2019年度評価指標の見直し・評価結果の概要

他方、6月21日に閣議決定された「成長戦略フォローアップ」や骨太方針2019等で、保険者機能強化推進交付金について、自治体による先進的な介護予防の取り組みが横展開され、健康寿命の地域格差の縮小にも資するよう、財源を含めた予算措置を検討し、2020年度に「抜本的な強化」を図る方針が示されている。

各評価指標や配点について、成果指標の導入拡大や配分基準のメリハリを強化するなどの見直しを行う。「通いの場」を拡充するとともに、介護予防と保健事業との一体的な実施を推進。その際、運動などの高齢者の心身の活性化につながる民間サービスも活用する。

「介護助手」など介護施設における高齢者就労・ボランティアを推進するとともに、個人へのインセンティブとして、ポイントの活用等を図るとしている(図表12)。

図表12 保険者機能推進交付金②

こうした点も踏まえ、交付金の枠組みの構築や評価指標の見直しについて厚労省は議論を要請した(図表13)。

図表13 保険者機能推進交付金③

調整交付金については、骨太方針2019では、保険者機能の強化の観点から、第8期介護保険事業計画期間における活用方策について、自治体関係者の意見も踏まえつつ、関係審議会等で検討し所要の措置を講ずることが指示されている。そのため厚労省は調整交付金の活用についても意見を求めた。

調整交付金は、保険者の責めによらない要因である、後期高齢者の加入割合や高齢者の所得状況による第1号保険料の水準格差を、給付費全体の5%に相当する国庫負担金を活用して全国ベースで平準化するために市町村に交付される(図表14)。

図表14 調整交付金


中長期的な事業展開も念頭に評価指標の設定を求める

意見交換で、全国町村会顧問の藤原忠彦委員は、保険者機能強化推進交付金の評価指標の追加等だけで地域差を解消することに疑問を提示。地域差が生じている要因を分析するとともに、市町村の努力で解決できないものについては、「国や都道府県による支援体制が必須」として検討を求めた。
体制の整備や専門職の確保が前提となる評価指標では、「都市部と山間僻地・離島では条件が大きく異なる」と指摘し、たとえば市町村の人口規模別に評価を行うなど配慮を訴えた。
また保険者機能の強化のために調整交付金を活用することについては「反対」を明言。「交付金は保険者の責めによらない保険料水準の格差を是正するためのもの。その趣旨に反する」と主張した。

この点について全国市長会介護保険対策特別委員会委員長の大西秀人委員も同調し、反対した。
さらに大西委員は、保険者機能強化推進交付金について安定的な財源確保を要望。「評価指標の見直しが行われ、交付額が増減することになると、保険者が交付金を見込んで安定的に事業を展開できない。中長期的な観点に立って一定期間事業運営ができるような指標設定をお願いしたい」と訴えた。
加えて、「評価指標は主観的なものが多い」とし、客観的な評価の設定や評価をきちんとできるような研修の実施なども求めた。


2号代表からアウトカム指標の充実を求める意見が出される

健保連常務理事の河本滋史委員は、保険者機能強化交付金について、「給付費の適正化や認定率の地域差の是正に向け、アウトカム指標や定量的な評価をさらに導入するなど実効性のある取り組みをお願いしたい」と強く求めた。
また「自立支援・重度化予防への取り組みは本来、保険者として当然のこと。将来的には、事業を実施して改善が見られた保険者に加点する一方で、そういう取り組みがされていない保険者にペナルティをつけることも必要」と述べた。

協会けんぽ理事長の安藤伸樹委員も自立支援・重度化防止の保険者機能の強化について、「保険者機能強化推進交付金については要介護度の維持・改善といったアウトカム指標を重点的に評価すべき。現行のアウトカム指標への配点は総得点に占める割合はまだまだ低い」と主張した。

日本商工会議所社会保障専門委員会委員の岡良廣委員は、認定率の地域差と保険者機能強化推進交付金について発言。都道府県ごとの認定率について最高の大阪府と最低の山梨県で約1.6倍の差が生じていると指摘(図表15)。

図表15 認定率の地域差(2017,2018速報値)

このうち山梨県は2014~2018年度に全国で認定率が最も低い一方、2018年版高齢社会白書によれば、健康寿命も男性で全国1位、女性で3位と紹介。「認定率の低さと健康寿命の長さの因果関係について分析し、介護予防につながる取り組みがあれば全国に展開していただきたい」と求めた。
さらに河本委員に同調し、「自立支援・重度化防止は本来保険者が担う業務の一つに過ぎない。交付金について保険者の取り組みが自立支援・重度化防止にどれほど効果があったか検証していただき、無駄がないようにしていただきたい」とした。

一方、全国知事会の黒岩祐治委員(神奈川県知事)の代理で出席した神奈川県の柏崎克夫参考人は、アウトカム指標の設定の重要性を認めつつも、指標の設定について「たとえば改善率ではこれまで取り組みが進んでいる保険者では発射台が高くなる事も考えられる」とし、保険者間の格差が生じる点を指摘し、「適切に評価できる指標を設定する必要がある」と主張。市町村・都道府県の意見を聞く機会の設定を求めた。
また調整交付金について「本来の趣旨を踏まえた形での議論をすべき」とし、保険者機能強化の観点から活用に慎重な対応を求めた。

連合生活福祉局長の伊藤彰久委員も調整交付金について「保険者機能の強化のための活用ではなく、本来の目的を果たすべき」と述べた。
保険者による自立支援・重度化予防の重要性を認めつつも、そこにインセンティブとなる保険者機能強化推進交付金の交付が関与することを懸念し、「地域差の縮小そのものが自己目的化していないか、心配と違和感がある」と指摘。介護費用の伸びと地域差などの要因分析をきちんと行い、保険者が具体的に取り組むべきことを示すように求めた。
さらにアウトカム指標の充実の重要性も認めながらも「有病者を悪とするようなスティグマにつながるようなことは絶対によくない。適切なプロセス評価との組み合わせは欠かせない」とした。

あいち健康の森健康科学総合センターセンター長の津下一代委員は、都道府県の支援が市町村に行き届いていないケースに関して言及。保険者機能推進交付金の都道府県の評価指標について、「都道府県全体だけでなく、二次医療圏や保健所管内で小規模市町村を集めてきめ細かい支援体制ができているのかという観点で検討していただきたい」と求めた。

一橋大学大学院教授の佐藤主光委員は、自治体が地域課題を把握・分析し計画に記載した実際の取り組みについて「アクションが本当にアクションになっているか。対応策もPDCAが必要」と指摘するとともに、上手くいった優良事例の横展開を求めた。保険者機能推進交付金の評価指標もPDCAが必要とし、「現場に合わない評価指標は適宜見直していくべき」と述べた。
また交付金の効果について保険料との関係の検証を求めた。


「地域医療構想を踏まえた追加需要への対応」は41.1%

日本医師会常任理事の江澤和彦委員は2019年度の保険者機推進交付金(市町村分)の指標の得点率で「地域医療構想を踏まえた介護施設・在宅医療等の追加需要への対応に係る実績把握・進捗管理」で41.1%と低調(図表7)であったことに触れ、「地域医療構想は医療だけで完結する話しではない」と指摘。
2025年には、療養病床等からの総計30万人の追加需要について在宅・介護施設で対応することが見込まれているにもかかわらず、地域医療構想調整会議には市町村の介護担当部局や介護関係団体などの参加が「ほんとないことが実情」と問題提起。「行政の縦割りが大きく影響している。地域医療構想を<地域医療介護構想>として市町村と医療行政を結びつけることをお願いしたい」と求めた。

全国老人保健施設協会会長の東憲太郎委員は保険者機能推進交付金の評価項目が全般的に「アバウト」であることを指摘。特に、江澤委員の提起に言及。「地域医療構想を踏まえた介護施設・在宅医療等の追加需要への対応に係る実績把握・進捗管理」に関して、市町村が「できている」「できていない」と判断している基準が曖昧であることを批判し、より具体的にするように提案した。


介護納付金の予算額の不足への対応状況を公表

厚労省は参考資料として「介護納付金算定に関する事務誤り事案に関する対応状況調査結果」を公表した。

健保組合・共済組合等が今年度納付する「介護納付金」の算定で活用される、年末に参考として示された諸係数に誤りがあり、それに基づいて今年度の予算を立てた健保組合等では3月29日に公布された確定値に基づいた場合、予算不足が生じる可能性が指摘されていた。

厚労省は不足が生じる健保組合等の納付金への対応策として、①納付猶予により翌年度に納付する②介護勘定の予備費の充当や準備金の活用により今年度に納付する③①と②の組み合わせも可能とする──を示していた。

今般、厚労省は健保組合等(1477保険者)に対して対応状況についてアンケートを実施した(回答は95.1%)。
予算不足が生じたのは959保険者(回答保険者全体の68.3%)に上った。うち予備費と準備金のみの活用は848保険者(同60.4%)。納付猶予を活用するのは63保険者(同4.5%)などとなった(図表16)。

図表16 介護納付金算定に関する事務誤り事案に関する対応状況調査結果

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