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東京都練馬区における「看取り死」の状況(中村秀一)

霞が関と現場の間で

練馬区在宅療養推進協議会に参加して

2020年から東京都練馬区在宅療養推進協議会の会長を、大学の同僚であった武藤正樹教授から引き継ぐ形で務めている。区内の医療・介護関係者、学識経験者及び区の担当部長(2名)からなる18名の委員で構成され、高齢者等が安心して療養できる体制の構築に向けて協議している。

就任以来、すべてオンラインでの会議を余儀なくされているが、毎回活発な意見交換がなされている。 最近、NHKのテレビのスポットで練馬区の薬剤師の自宅療養中の感染患者に薬を届ける姿が紹介されている。区の薬剤師会に限らず、関係団体及び事業者は在宅療養の推進に非常に前向きであるというのが、新参者である私の印象だ。

「練馬区死亡小票分析」の取り組み

練馬区では、2011年から区民の「看取り死」(死亡診断書が発行された死亡)の状況を厚生労働省が実施する人口動態調査の死亡票を区独自に集計・分析する「練馬区死亡小票分析」を行なっている。

3月の協議会で2020年の結果が報告された。練馬区(人口73.7万人)の2020年の死亡者数は6,384人である(2011年の5,259人から21.4%増)。うち「看取り死」は5,339人、「異常死」(監察医・嘱託医が死体検案書を発行したもの)が1,045人である。84%が看取り死であるが、この比率は2011年以来ほぼ一定している。

看取り死を死亡場所別にみると、医療機関(病院・診療所)が過去最少の3,667人で、68.6%であった(2011年は3,884人、86.9%)。これに対し、自宅は832人、16%(同341人、8%)、老人ホームは677人、13%(同186人、4%)で、いずれも過去最多であった。

832人の自宅での看取りのうち、区内の医療機関の関与分が前年の408人から507人へと約100人増加し、61%を占めていた。

コロナの影響か?

コロナ禍の影響はどうか。死亡数は対前年3.1%増であった(練馬保健所によると新型コロナ感染症による区民の死亡は42名)が、自宅の死亡は664人から832人へと25.3%増で、調査開始以来最大の伸びであった(老人ホームでは9.5%増にとどまっている)。一方、医療機関での死亡は、10年間の平均で年率0.5%減少してきたが、2020年の減少率は4.1%と落込みが大きかった。

このように、2020年の看取り死の状況は、従来の趨勢を超えた変化を示している。今後の在宅療養の推進に向けて更なる検証が求められる。

(WEB版への追記)

3月の協議会で死亡小票分析について、「他の自治体の状況はどうか?」という質問が出た。その後、練馬区の担当が厚生労働省や東京都に問い合わせたが、実施している自治体は少なく、東京都23区のなかでは練馬区以外には実施していないということであった。

コラムにはスペースの関係で書かなかったが、練馬区在宅療養推進協議会では2021年度の事業として新たに「医療・介護・消防連携事業」に取り組み、アンケート調査を実施した。 アンケートの対象は、主に在宅療養にかかわる医療介護関連事業所(1,398か所)の職員と練馬管内消防署の救急隊(10隊、所属91名)であり、医療介護関連従事職員359件と消防署職員91件の回答を得た。

ここで結果の詳細を紹介する余裕はないが、救急要請から、救急車の到着時の利用者(患者)の情報提供、消防隊到着後の搬送拒否などについて質問するとともに、そもそも「体調急変時の対応」についての情報の共有と連絡体制等について尋ねている。

回答結果は、医療介護関連従事職員と消防署職員との間に相当の差異がみられ、在宅療養の推進を図るためには、相互の意見交換が必要であることが示された。この結果を踏まえ、2022年度においても医療・介護・消防連携事業を継続し、さらに論点を深めることとなっている。

消防隊の方からも自分たちの声を聞いてもらえると歓迎されているとのことで、注目に値する取組である。

(本コラムは、社会保険旬報2022年4月1日号に掲載されました)


中村秀一(なかむら・しゅういち)
医療介護福祉政策研究フォーラム理事長 国際医療福祉大学大学院教授
 1973年、厚生省(当時)入省。老人福祉課長、年金課長、保険局企画課長、大臣官房政策課長、厚生労働省大臣官房審議官(医療保険、医政担当)、老健局長、社会・援護局長を経て、2008年から2010年まで社会保険診療報酬支払基金理事長。2010年10月から2014年2月まで内閣官房社会保障改革担当室長として「社会保障と税の一体改革」の事務局を務める。この間、1981年から84年まで在スウェーデン日本国大使館、1987年から89年まで北海道庁に勤務。著書は『平成の社会保障』(社会保険出版社)など。

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