時々刻々|#10 「いい人」と「人がいい人」とでは「人がいい人」のほうが善良な人だと素直に思いたい
「いい人」を手元の『広辞苑』(第五版)で引くと、「いい-ひと【好い人】①善良な人。ときに、好人物。②情人。恋人。」とあった。わたしがここで言っている「いい人」はもちろん①のほうだ。一方、わたしは国語学者ではないので、正確な理解ではないかもしれないが、「人がいい人」というのは、「あまりに善良すぎて、人にあなどられやすいこと。また、そのような人物。好人物。「根っからの―」「―につけこまれる」」と同じ広辞苑で説明している「おひと-よし【御人好し】」という言葉とほぼ同義だと思う。
そうすると、「いい人」よりも「人がいい人」のほうが「より善良な人」になるが、こういう説明をわたしたちは素直に受け入れ、そのとおりだと納得するだろうか。広辞苑が説明するように、より善良な人である「御人好し」の意味には、「善良すぎて、人にあなどられやすいこと。また、そのような人物」とあるように、本人のこの善良すぎる性格を「あなどられやすい」性格と、「間抜け」と言わんばかりの意味を込めて説明している。
本人に非はないにもかかわらず、世の中からはあまり評価されないような烙印を押されてしまうとなると、「世の中」の人の評価のしかたのほうに、「?」と疑問を投げかけないといけないのではないか。
企業において、「人事評価」はつきものだが、その評価に基づき、昇給・昇進(またはその逆も)という報酬のあり方にかかわってくる。つまり、利益を目的とする企業にとって、その人材はどの程度の利益を生み出す能力であるかを評価するわけだが、「企業」という言葉を、広辞苑は、「生産・営利の目的で、生産要素を総合し、継続的に事業を経営すること。また、その経営の主体。」と説明している。また、漢字に即して言うと、「企業」は「業を企てる」と書く。これも手元にある『岩波 漢語辞典』で引くと、「業」は「暮らしのためのしごと。……」、「企」は「くわだてる」のほか「たくらむ」という意味も載っている。「企業」とは「しごとをくわだてる(たくらむ)」組織・主体ということだ。
「たくらむ」は言うに及ばず、「くわだてる」にしても、ダーティーなニュアンスがある。そんな意味を持つ企業(世の中=資本主義)が、「人がいい人=御人好し=善良すぎる人」をくわだてやたくらみによって、あなどったり、カモにしたりしているという説明もできなくはない。
人がいい人=善良すぎる人が、悪く言われるような価値観は、その世の中のあり方(価値観)のほうに「?」と素直に疑問を付さなければいけない。