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8割女性・4割60歳以上の訪問介護へ負担軽減を、訪問看護では「連携」に注目――第220回介護給付費分科会(2023年7月24日)

厚生労働省は7月24日、第220回社会保障審議会介護給付費分科会を開催した。

今回は、居宅サービスの訪問系サービス(訪問介護・訪問入浴介護・訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅療養管理指導)および居宅介護支援・介護予防支援、そして福祉用具・住宅改修について議論を実施した。


【訪問介護】「自宅訪問と併設事業所とは別」、地方での類型見直しを求める声も

訪問介護事業所数については横ばいの傾向が続いており、人手不足の影響などがうかがえたが、令和3年以降は微増傾向となっている。これは、新型コロナウイルス感染症の影響などにより、通所介護などから訪問介護へと移行したためと見られている。

利用者については、令和5年度では123万人とされる一方、令和22(2040)年度には152万人まで増大することが推計されている。

また、介護職員の男女比率を見ていくと、施設等も含めた場合の女性比率は68.4%なのに対し、訪問介護員では77.7%となっている。

さらに訪問介護員の平均年齢は54.4歳、65歳以上の構成割合は24.4%と高齢化が危惧される状況となっている。

こうした状況などを踏まえ、厚生労働省では次のような論点が示された。

(論点:訪問介護)
■訪問介護について、介護サービスの需要が増加する一方で、訪問介護員の不足感が強い状況である中、利用者の状態に応じて必要となるサービスを安定的に提供するために、どのような方策が考えられるか。

委員からは、人員確保や事業所の負担軽減に関する意見が相次いだ。

全国老人福祉施設協議会の古谷委員は、人員確保のために賃金アップは不可欠であるとし、基本報酬の増額を求めた。

認知症の人と家族の会の鎌田委員は、訪問介護員の8割が女性であり4割が60歳以上であるという現状を受け、若手を育てるための出産や子育てを支援する労働環境整備の必要性に言及した。また、「ヘルパーの平均年齢は54.4歳だが、実感としてはもっと高いと感じる」とし、同一建物の移動が多く給与も安定する高齢者向け住宅等に併設された訪問介護事業所に若手が集中し、平均年齢を引き下げているのではないかと推測した。

日本介護福祉士会の及川委員もこの意見に同意。「自宅に訪問する訪問介護事業所と特定施設等に併設された事業所とでは別」との認識のもと、資料を整理して欲しいと要望した。また、中山間地域でのサービス提供においてはサービス提供時間よりも移動時間の方が長い現象が起きているとし、問題定義した。

移動時間や移動コストに関する意見は、他の委員からも寄せられた。

全国町村会の米本委員は、移動時間は長いが特別地域加算などの加算に該当せず加算が算定できない事業所があるとし、どの地域においても必要なサービスが確保される方策の検討を希望した。

全国市長会の長内委員は、移動時間に加えエネルギー価格の高騰が経営を圧迫している現状を考慮し、物価高騰に対する迅速・柔軟支援措置を求めた。

民間介護事業推進員会の稲葉委員は、都市部・離島・中山間地域ではそれぞれ実情が大きく異なっており、加算が有効に活用できていない点を考慮すると、地方においてはサービス類型そのものを見直す必要があるとの認識を示した。

【訪問入浴介護】減少続く要介護者を支えるサービスに、必要な検討を

訪問入浴介護を提供する事業者は減少が続いており、この10年ほどで事業者数は70%程度に縮小している。

一方で、要介護5の利用者が全体の33.5%を占めるなど、より要介護度の重い利用者が中心であり(要介護3以上の利用者が約9割)、また事業所数が減少しているにもかかわらず利用者・費用額は増加傾向にある。

(論点:訪問入浴介護)
■訪問入浴介護について、その機能・役割を踏まえつつ、看取り期等においても、利用者の安全を確保しながら、サービスを提供する観点などから、どのような方策が考えられるか。

大分県国民健康保険団体連合会の奥塚委員は、中津市では社会福祉協議会が運営する1事業所のみであると言及。

寝たきり等の利用者が主な対象者である訪問入浴介護では採算がとれず、また入浴車両の価格や維持管理費なども現状の要因ではないかと分析した。そして、要介護度の高い高齢者が増加する今後の在り方に、検討が必要であるとの認識を示した。

【訪問看護】他のサービスや同サービス、医療保険とのさらなる連携を

訪問看護事業所は近年増加しており、請求事業所数は1万事業所を超えている。

一方、介護保険の訪問看護費を算定する病院・診療所は減少傾向となっている。

利用者の推移を見ても年々増加する傾向にあり、令和4年の利用者数は要支援・要介護あわせて約69万人となっている。

また、医療ニーズの高い在宅療養者の増加を背景に、特別管理加算、ターミナルケア加算、緊急時訪問看護加算等の加算についても年々増加していることから、より専門性の高いケアを要する者の療養生活を支えるサービスとしての機能が求められている。

(論点:訪問看護)
■医療ニーズの高い在宅療養者が増加している中、退院直後からの支援、緊急時対応、ターミナルケア等について、より質の高い訪問看護サービスを効果的・効率的に提供するためにはどのような方策が考えられるか。

訪問看護に関しては、委員からはさまざまな「連携」に関する意見が上げられた。

全国老人福祉施設協議会の古谷委員は、ICT活用等の環境作りや看護職員の確保の必要性とあわせ、他のサービスにおいて看護職員が不足している状況に言及。各サービスとの協力による柔軟な看護職員の活用策を検討する必要があると投げかけた。

高齢社会をよくする女性の会の石田委員は、訪問介護と訪問看護の連携を評価する加算、看護・介護職員連携強化加算に注目。現在は痰吸引等という限られた内容の連携であることに触れ、看取りや医療ニーズに高まりに伴う幅広い領域での連携を考慮し、「加算などの評価をしていく必要がある」とした。

日本看護協会の田母神委員は、看護職員の身体的・精神的負担が大きい夜間休日の対応について、更なる評価や複数事業所の連携による体制確保と負担軽減の必要性を訴えた。また、ターミナルケアの実態は医療保険の訪問看護とほぼ同様であるなど、医療保険との格差について整合性の確保を求めた。

日本慢性期医療協会の田中委員は、医療と在宅の連携を目的とし病棟の看護師やリハビリテーション職と訪問とのハイブリッド型の人材を育成している経験をあげ、医療・介護の連携のための、ハイブリッド職の育成について提案した。

日本医師会の江澤委員は、医療保険の対象となることから介護保険の訪問看護の対象とならない患者の要件(別表第7)については、「極めてまれな疾患も多い」と言及。在宅医療の実態と馴染まない項目のある別表第8とあわせて、見直す時期との見解を示した。

また、法改正を要するものの、特定施設や認知症グループホームにおける介護保険の訪問看護・訪問リハビリテーションのニーズについて、調査の必要を訴えた。

【訪問リハビリテーション】12月減算の拡大か、長期維持の評価か

訪問リハビリテーションの受給者数は毎年増加しており、令和4年では約13.6万人となっている。

事業所の開設者種別割合は、病院・診療所が76.8%、介護老人保健施設が23.1%となっている。また、介護老人保健施設のうち、訪問リハビリテーションを実施しているのは28.4%。

このほか、令和3年度改定で新設された、介護予防リハビリテーションにおける12月減算が適用される利用者の割合は48.8%となっている。

(論点:訪問リハビリテーション)
■医療機関からの退院時に医療保険から介護保険に移行する際も含め、必要な方に対して早期に、適切な期間リハビリテーションを提供するために、どのような方策が考えられるか。
■アウトカムの評価や認知症への対応など訪問リハビリテーションの内容を更に充実させるためにどのような方策が考えられるか。

日本経済団体連合会の井上委員は、医療介護連携強化や早期のリハビリテーション開始が重要であるという認識を示すとともに、12月減算の予防を継続している理由に着目。改善の見込みや必要性とは異なる、本人や家族の希望を挙げる割合が大きいことから、人材や財源の重点化の観点から、減算措置の拡大に言及した。

健康保険組合連合会の伊藤委員も、井上委員と同様の見解を示し、適正化の観点から、長期間利用の場合のサービス提供への評価、在り方についても検討するべきとした。

一方、全国老人保健施設協会の東委員は、要介護状態にならないよう長期間維持ができるならば、評価されるべきものであり減算するべきものではないと主張。生活期においては「生活機能の維持ということも大きなアウトカムになる」と訴えた。

さらに、介護老人保健施設の事業所開設割合が低い点については、医療機関とは異なり「みなし指定」に該当しないことがハードルとなっているとの見解を示した。

【居宅療養管理指導】終末期の口腔衛生、特別な薬学管理などに関し意見

居宅療養管理指導においては、請求事業所数・受給者数・費用額と増加傾向となっている。

また、調査によると介護支援専門員がケアプランに反映する上では、医師には「生活機能低下の原因となっている傷病等の経過」、歯科医師には「摂食・嚥下機能」や「口腔機能の維持・向上」に関する情報提供を求められている。

(論点:居宅療養管理指導)
■居宅療養管理指導について、利用者が可能な限り居宅で、有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができることを推進する観点から、どのような方策が考えられるか。

日本歯科医師会の野村委員は、摂食嚥下機能の低下や口腔衛生状態の不良、誤嚥性肺炎などで歯科と他職種との情報連携・共有できる仕組みの構築を促した。また、通院が困難な利用者に制限されている歯科衛生士の居宅療養管理指導に関しては、必要な利用者への提供が可能となるよう整備を求めたほか、終末期における口腔乾燥により生じる疼痛・不快感などに、適切な介入が可能となるよう検討を求めた。

日本薬剤師会の荻野委員は、情報通信機器を用いた服薬指導について、医療と介護の整合性の観点から、医療におけるオンライン服薬指導のルールを踏まえた内容とする必要性を訴えた。また、医療用麻薬持続注射療法や在宅中心静脈栄養法のような特別な薬学管理が必要な利用者に対する検討を求めた。

【居宅介護支援・介護予防支援】ケアマネ負担は拡大か、予防への加算を求める意見も

居宅介護支援においては、管理者が事業所ごとに常勤専任の主任介護支援専門員を配置しなければならないとされつつ、令和9年3月31日までの猶予措置がとられている。

事業所における介護支援専門員の従事者数はここ数年横ばいとなっており、実務研修受講試験の合格者数は令和元年度以降増加傾向となっている。

配置状況は、「1人」が22.6%で最も多く、次いで「2人」が21.9%。管理者が主任介護支援専門員である事業所の割合は80.8%となっている。

なお、法改正により令和6年4月1日からは、要支援者に行う介護予防支援について居宅介護支援事業所も実施できるよう見直されている。

(論点:居宅介護支援・介護予防支援)
■今後、高齢者人口の更なる増加や現役世代の減少に伴う担い手不足が見込まれ、多様な利用者のニーズへの対応が求められる中、業務効率化等の取組による働く環境の改善等を図るとともに、ケアマネジメントの質を向上させていくために、どのような方策が考えられるか。

日本慢性期医療協会の田中委員は、介護支援専門員実務研修の合格率が2割以下という点を注目し、入り口を閉めすぎている可能性があるのではないかと指摘。さらに受験資格までの期間が5年間であり、主任介護支援専門員になるにはそこから5年間の実務を行わなければならず、育成までの期間が長すぎるのではと疑問を呈した。

日本労働組合総連合会の小林委員は、第9期の介護保険事業計画の基本指針において介護支援専門員によるヤングケアラーなどの家族支援が盛り込まれた点に触れ、「一方でケアマネージャーの負担も増えていくことも想定される」と指摘。報酬上の検討を求めた。

全国市長会の長内委員もこれに同意。介護支援専門員が「総合百貨店の調整役、コンシェルジュのような役割を担う必要がある」として、業務への適切な評価と複合的課題に取り組む支援体制の強化について議論が必要と訴えた。

全国老人福祉施設協議会の古谷委員は、居宅介護支援事業所も対象となる介護予防支援の指定対象拡大の法改正に触れ、プラン様式の見直し・統一のほか、介護予防支援においても入退院時や通院時の病院等との連携について、加算をするなどの検討が必要とした。

日本介護支援専門員協会の濵田委員もまた、指定対象の拡大にあたって居宅介護支援事業所が兼務で受ける場合に、各種の体制加算が継続できるよう配慮を求めた。

【福祉用具・住宅改修】貸与の利用者・費用は増加、検討会は取りまとめ後に報告予定

福祉用具貸与事業所の数は横ばいであるが、利用者数は増加しており、費用額も増加傾向となっている。一方、福祉用具販売については横ばいの傾向となっている。

住宅改修費に関しては、近年減少傾向となっている。これは、手すりなどをレンタルで対応する利用者が増えていることなどが要因と考えられている。

福祉用具貸与・販売種目に関しては、「介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」において検討されており、7月20日開催された第7回検討会では3つの論点引き続き議論することとなった。

  • 福祉用具貸与・販売に関する安全な利用の促進、サービスの質の向上等への対応

  • 福祉用具貸与・販売に係る適正化の方策

  • 福祉用具貸与・特定福祉用具販売の現状と課題を踏まえたあり方

検討会において引き続き議論が行われ、一定の取りまとめの後に、介護給付費分科会に報告される予定となっている。

こうした状況を踏まえ、次のような論点が示された。

(論点:福祉用具・住宅改修)
■福祉用具・住宅改修を取り巻く状況の変化や「介護保険における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会」の議論の整理等を踏まえ、福祉用具等を利用者に適時・適切に提供するという観点から、どのような方策が考えられるか。


次回第221回介護給付費分科会は、8月7日の午後を予定しており、議題は調整中となっている。


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