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プロが伝える労働分野の最前線 #16~20

(こちらは2021年6月15日~10月19日に「Web年金時代」に掲載したものです。

#16  フリーランスとの取引における留意点

鎌田 良子(かまた りょうこ)
ドリームサポート社会保険労務士法人/特定社会保険労務士

労働分野の旬なテーマについて、実務の参考となる情報を提供する連載企画。第16回は、フリーランスで働く人を活用する企業等における留意点をテーマに取り上げます。解説はドリームサポート社会保険労務士法人の鎌田良子さんです。

フリーランスを使う会社が増えている

人生100年時代、一億総活躍、副業解禁、多様な働き方が可能となった社会的背景から、フリーランスへの注目が高まっています。内閣官房の2020年の調査によると、広い意味でのフリーランス人口は、約462万人(本業約214万人、副業約248万人)で、年々増加傾向にあります。

コロナ禍で料理宅配サービス配達員を路上で目にすることが多くなりましたが、インターネット経由で単発の仕事を請け負う「ギグ・ワーカー」と呼ばれる働き方も増えているようです。企業からは、「自社の社員を業務委託契約に切り替える際の注意点を教えてほしい」といった相談が相次いでおり、フリーランスという働き方に対する理解が、一層必要になってきたという実感があります。

フリーランスとは、具体的にどのような働き方で、取引において何に注意すべきかを見ていきましょう。

フリーランスの定義とは

厚生労働省のガイドラインによれば、フリーランスとは「実店舗がなく、雇人もいない自営業者や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と定義づけられています。つまり、多くは個人事業主です。特定の企業や団体に所属せず、仕事の発注者である企業などと自ら契約を結び、仕事を請け負います。

フリーランスのメリットは、場所や時間の自由度が高い就業環境で、裁量があり、能力発揮による達成感や充足感が得られやすい点です。育児や介護などワークライフバランスがとりやすく、プライベートとの両立も可能ですが、一方で収入が不安定になりやすく、コロナなど社会環境の影響を受けやすいというデメリットもあります。

労働者とフリーランスは何が違うのか

労働者とフリーランスの大きな違いは、契約方法と働き方にあり、適用される法律も異なります。

労働者は、会社等に雇い入れられた際に会社と「雇用契約(労働契約)」を結びます。雇用契約が「労務の提供」を約束し報酬を得るのに対し、フリーランスは、請負契約や委任契約を結び、原則「ある仕事の完成」を約束し、報酬を得るというものです。

「働き方」にも大きな違いがあります。

労働者は、会社等に属し、その会社の就業規則やルールに則って、会社等の指揮命令を受けて働きます。労働時間や休日、休暇、賃金等あらゆる面で労働基準法その他の労働法令の適用を受けます。また、一定の要件を満たした場合には、会社が社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険)に加入させる義務があります。労働者が業務中に怪我をした場合には、労災保険から給付を受けられます。

一方、フリーランスは、労働法令の適用がありません。代わりに、独占禁止法や下請法が適用されます。仕事の完成が約束なので、完成時の仕様などを除き、発注者である会社から働く時間や作業方法等について指揮命令することはできません。原則として個人の裁量で仕事をするため、能力によっては高い報酬を得ることが可能になります。しかし、労働者でないため会社の社会保険は適用されず、自身で国民健康保険や国民年金に加入する必要があります。また、労災保険も適用されませんし、失業しても公的な保障はありません。

例えば、少し極端な例ですが、建設業の会社が2軒の家を建てるとしましょう。1軒は雇用契約しているその会社の社員が従事し、1軒はフリーランスの大工に委託したとします。社員が従事する場合は、労働法(労働基準法、労災保険法、労働安全衛生法等)の適用を受け、休日や休憩、労働時間、残業などについては、その会社の就業規則や36協定の定めに従って労働します。使用する道具なども、原則は会社負担です。

一方、フリーランスの大工が従事する場合は、期日までに仕様通りに完成させることが条件であり、作業の手順や日程については個人の裁量に委ねられます。天候や進捗具合によっては、休みも返上で働く場合もあり得ますし、逆に早上がりをすることも可能です。

個々の働き方の実態により労働者性が判断される

では、雇用契約かフリーランスかは、当初の契約により全て判断されるかというと、そうでもありません。フリーランスを使用する場合、しばしば問題になるのがその「労働者性」です。以下の判断基準を参照ください。

<労働者性の判断基準>

以下の4点により総合的に判断されます。

  • 仕事の依頼、業務指示に対する許諾の自由があるかどうか

  • 業務遂行上の指揮命令があるかどうか

  • 勤務時間や勤務場所の指定、管理等があるかどうか

  • 代替要員が認められるかどうか

勤務の実態で判断されますので、仕事の仕方が事細かく指示されていたり、働く時間や曜日を全て指定されていたり、遅刻すると報酬が減額されるなどの場合は、労働者性が認められる場合があります。

フリーランスに労働者性があると問題に

フリーランスに労働者性が強いと判断された場合は、労働基準法や労働組合法が適用されることになります。そうすると、会社に、36協定で定められた残業手当や、会社の都合で休業させた場合の休業手当の支払義務などが生じます。また、フリーランスがユニオンに加入していた場合、待遇の改善を求め団体交渉を申し入れてきた場合に会社は応じなければなりません。要件を満たした場合には、社会保険、雇用保険への加入も必要となります。

実際、ある会社の下請業者の業務委託のスタッフが怪我をしてしまったケースでは、勤務実態などから労働者性が認められ、適用されないと思われていた労災保険が適用されたということもありました。

労働者性が強い働き方の場合は、フリーランス契約の前に実態をよく確認しましょう。

フリーランスと取引を行う会社の遵守事項

本来は、働き方の選択肢を広げることが目的ですが、フリーランスを悪用する会社も残念ながら見受けられます。柔軟な働き方といいながら、裏の目的として、人員整理や、社会保険料の節約のために、社員からフリーランスへの転換を強要するようなケースで、あってはならないことです。

また、優越的地位を利用して、支払を遅らせたり、発注後に減額を迫ったり、不合理にやり直しを強要することは、独占禁止法違反行為となります。

他にも、以下のような行為は不適切で問題となります。そのようなトラブルとならないよう、会社は発注時の取引条件を明確にした書面をフリーランスに交付するようにしましょう。依頼する業務内容、期間、報酬などを明記した契約書がベストです。また、報告の仕方や納品物の検収方法なども明確にすることが大切です。

出典:厚生労働省 フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン

まとめ

働き方改革は、会社員だけでなくフリーランスや副業もその対象に含まれました。国は、フリーランスにも働きやすい社会にしていきたいと明言しています。経済産業省の「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告書によると、仕事は従来の「企業単位」から将来は「プロジェクト単位」に変化していくことが予想されます。

企業も、外部人材を積極的に活用してイノベーションを促していくことが求められ、個人も、自律的に働くことが求められています。 企業は、フリーランスをうまく活用し、そのメリットを最大限に活かして、業績や成果に繋げたいものです。

鎌田 良子(かまた りょうこ)/ドリームサポート社会保険労務士法人/特定社会保険労務士
大手金融機関に15年間勤務、総務経理マネージャーとして勤務体系の整備や、人材育成に携わる。 出産を機に、働く女性の両立支援、子どもの教育支援などの長期的なキャリア目標の実現に向けて、社労士業界へ転身を決意。社会保険労務士事務所エスパシオを経て、2015年法人化に伴いドリームサポート社会保険労務士法人へ転籍。2019年社会保険労務士登録、2021年特定社会保険労務士付記。 現在は部門のリーダーとして多数の顧問先を担当、組織の顕在化していない課題の本質を捉え、お客様にとことん寄り添い共に課題解決を目指す姿勢が、経営者、人事担当者から高い信頼を得ている。 週4正社員制度を活用し、医療的ケア児のボランティア等の社会貢献活動に取り組む一方、社労士の枠にとらわれない学びを続け、チームビルディングや人の強みの見つけ方など学びの成果を顧問先企業に伝えるとともに、社内メンバーの指導、育成でも発揮している。

ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。

ドリサポ公式YouTubeチャンネル
代表 安中繁が、労働分野の実務のポイントをわかりやすく解説している動画です。是非ご覧ください。(下記のQRコードからもご覧いただけます)


#17   中小企業も月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率50%が適用に

尾山 大樹(おやま だいき)
ドリームサポート社会保険労務士法人

労働分野の実務の参考となる情報を提供する「プロが伝える労働分野の最前線」 第17回のテーマは、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率(50%以上)が中小企業にも適用される労働基準法の改正です。施行は令和5年4月なのでまだまだ先のことと思われるかもしれませんが、対応への準備を考慮すると実はそんなに猶予があるわけではありません。ドリームサポート社会保険労務士法人の尾山大樹さんが解説します。

中小企業の猶予期間が終了

令和5年4月から改正施行される労働基準法により、今まで大企業のみに適用されていた月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率(50%以上)が、中小企業(※1)に対しても適用されることになります。

平成22年4月に大企業を対象にスタートしたこの制度は、通常よりも高い割増賃金率(50%以上)の支払いを企業に義務付けることで、長時間労働を抑制し、労働者の生活と健康を守ろうという趣旨ですが、経営体力の弱い中小企業には、その適用が猶予されていました。いよいよ、その猶予期間が終了し、中小企業にも大企業と同じ割増賃金率が適用されるようになります。まだ先のことと思わず、今からしっかりと対応を考えておく必要があるでしょう。

具体的には、①給与計算方法の確認、②長時間労働への対応に備えた仕組みづくり、などが考えられます。そのポイントを、改正の概要とともに解説します。

給与計算への対応

まずは、変更による給与計算への対応を確認しておきましょう。

令和5年4月より、法定時間外労働が月に60時間を超えたところから、中小企業においても割増賃金率が「25%以上」から「50%以上」に引き上げられます。(【図1】参照)

割増賃金の計算は、以下のようになります。

<例> 時間外労働が1ヵ月あたり72時間だった場合:

・1時間あたりの単価×60時間×1.25= a

・1時間あたりの単価×12時間×1.5 = b

a+b=その月の時間外手当の額

この「60時間」には、「法定休日」に労働した時間は含まれませんが、「所定休日」に労働した時間は含めます。どの日が法定休日かについては、就業規則に記載があるかを確認し、定めがない場合はこの機会に明確にしておきましょう。

賃金台帳や給与明細書に時間外労働時間を表示している場合は、区別して記載するなどの仕様変更が必要となります。

割増賃金の計算方法が間違ったまま運用し続けると、知らず知らずの間に賃金の未払いが積み上がってしまう懸念もあります。この機会に自社の給与計算の方法が間違っていないかを、再検証しておくことをお勧めします。

代替休暇の活用も可能

原則の割増賃金率(25%)を超える部分(50%までの部分)については、割増賃金の支払いに代えて「代替休暇」を付与することが認められています。

例えば、1ヵ月の時間外労働が「72時間」だった場合、60時間を超えた12時間分について、割増賃金率引き上げ分の25%を「休暇」に換算し、「12時間×25%=3時間」として、3時間分の代替休暇を与えるという方法です。休暇といっても、時間単位で与えることができるわけです。労働者に、お金ではなく休息の機会を与えるという趣旨です。

注意すべきは、60時間超の時間外の割増分すべて(50%)を休暇に換算することはできないという点です。原則の割増賃金率(25%)の部分は、必ず金銭で支払わなければならないことに留意しましょう。(【図2】参照)

長時間労働を是正するための仕組みづくりを

そもそも月に60時間を超える法定時間外労働をさせること自体、労働時間の上限規制の観点から好ましいものではありません。しかし、季節的な繁忙や人手不足の問題からやむを得ない場合も多くあります。まずは36協定の手続きを確実に行うことが重要です。

割増賃金率がアップするということは、月に60時間を超える残業をする労働者がいればいるほど、人件費が増加するということです。塵も積もれば、で、徐々に経営を圧迫することになりかねません。労働者の心身の健康を守るためにも、仕組みづくりで、長時間労働を是正する方向に舵を切っていきたいものです。

残業の多い労働者について、残業が月60時間を超えそうな場合は事前に警告を鳴らしたり、勤怠を上司がこまめにチェックし、労働時間が長くなっている者がいたら業務を他の労働者に分散させるなどの対処をしましょう。

具体的な対応STEP

長時間労働の是正と、残業代の増加による経営への影響を考慮し、今から長期的な準備を行うことが求められます。

対応STEPを3つに分けてご紹介します。

STEP1:猶予期間終了後の残業代の試算をしましょう。

STEP2:月60時間超の時間外労働が発生している原因を把握し、業務の整理をしましょう。

STEP3:人員の増加や、業務を分散させることを検討しましょう。


・STEP1:猶予期間終了後の残業代の試算をしましょう。

まずは、月60時間超の時間外労働がどの程度あるのか、手当にしたらどの程度の額になるのかを把握します。改正後に、現在と同じ働き方をした場合に支払うこととなる残業代をシミュレーションしてみましょう。

・STEP2:月60時間超の時間外労働が発生している原因を把握し、業務の整理をしましょう。

次に、1人に対してキャパシティオーバーの業務が振られていないか、そもそも必要な残業なのかなど、月60時間超の時間外労働が発生している原因を調査します。

原因を把握したら、例えば、事前の準備を徹底することによる会議時間の短縮や、便利なツールの活用、外注の利用など、効率化できる部分がないかを検討します。その後、実際の業務を「必要な業務」と「不必要な業務」に整理し、業務のスリム化を実施しましょう。

・STEP3: 人員の増加や、業務を分散させることを検討しましょう。

業務のスリム化を実施してもなお、月60時間超の残業が発生する可能性がある場合は、今のうちから正規または非正規の労働者を新たに雇用することも検討しましょう。教育を行ったうえで業務を分散し、各人の時間外労働を平準化します。季節的に業務が集中するような場合は、代替休暇も活用して労働者に休息の機会を与えるようにしましょう。


その他、自社に合わせた以下のような取り組みも、残業削減の意識を高めるために有効です。

・トップメッセージ:残業削減に取り組むことを社長から社員へメッセージで伝える

・ノー残業デー:企業が定めた日または曜日の残業をなくし、社員を一斉に退社させる

・残業申請制度:事前に残業申請を行い、承認された場合のみ残業が可能になる制度

・残業時間に応じた人事評価制度:部下の残業時間を考慮し、管理職の評価を決定する制度

まとめ

令和5年4月の法改正により、中小企業に対しても月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率(50%以上)がいよいよ適用されることになります。

長時間労働の是正は昨今の働き方改革の大テーマの一つです。まだ残業削減に取り組んでいない会社もすでに残業削減を進めている会社も、猶予期間の終了が見えてきた今の時期から、割増賃金率アップへの準備を始めましょう。

そして、この機会を労働者が安心して働ける環境を整えるチャンスととらえ、より良い会社の未来を創りましょう。


尾山 大樹(おやま だいき)/ドリームサポート社会保険労務士法人
大学卒業後、大手飲食チェーン会社に入社。店長として複数の店舗運営に6年間従事。スタッフの採用から育成、定着までの一貫した管理の重要性に気づき、企業の「ヒト」に長く関わることのできる社会保険労務士を目指す。 2018年ドリームサポート社会保険労務士法人入社。現在は担当する顧問先の労務相談への対応や職場の新しい仕組み作りをサポートする傍ら、部門を超えた顧問先向けのセミナー、社内研修等の企画・運営のリーダーとして活躍。前職の経験を活かし、店舗運営など経営管理の側面を踏まえたアドバイスや『仕事とは、常に二手三手先を読んで行うものだ』を信条とした育成指導にも定評がある。

ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。


#18   選択的週休3日制は普及するか?

安中 繁(あんなか しげる)
ドリームサポート社会保険労務士法人 代表社員/特定社会保険労務士

労働分野の実務の参考となる情報を提供する「プロが伝える労働分野の最前線」第18回のテーマは、「選択的週休3日制」です。政府の骨太の方針2021や成長戦略実行計画においても普及を進めると言及された「選択的週休3日制」について、導入のポイントや留意点をドリームサポート社会保険労務士法人・代表社員の安中繁さんが解説します。

2021年4月、自民党が選択的週休3日制の導入を政府に提言したことが、報道でも大きく取り上げられ、「週休3日制」は、一躍トレンドワードに浮上してきました。

また6月には、国家公務員法の改正が可決成立し、国家公務員の定年年齢が60歳から65歳へと引き上げられることが決まりましたが、60歳以降は、時短勤務も選択できるしくみとするなど、「選択制」という点にも、これからの働き方のトレンドがあるように思えます。

なぜいま週休3日制?

ひとつには、世界の価値観が、生産・消費至上主義から、持続可能主義へと大転換したことを指摘することができます。

かつて、日本が経験した、高度経済成長期に終止符を打つこととなるオイルショック時、働き方の概念にも一定の変化がみられ、この時期に、週休2日制が導入・普及をみました。

いま、SDGsが世界的な目標となり、脱炭素が叫ばれ、さらにコロナ禍によって価値観が変わり、大切な人と語り合うような時間、自分らしく生きていることを実感できる時間など、職場以外での時間を充実させたいと願う人が確実に増えてきているわけです。また、育児、家族介護、ご自身の病気の治療、高年齢であること、障害を持っていること等、長時間勤務にたえられない環境の方も、働き続けられる環境をつくることが社会的な課題になってきてもいます。

そんな背景から、各社が、これから本格的に週休3日制を検討し始めることになりましょうから、本稿では、導入時に是非検討していただきたい重要な観点をお伝えしていきます。

週休3日制導入の重要ポイント

1.導入の目的を明らかにする
2.年間総労働日数を決める
3.月給は比例減額を原則とする
4.休暇制度をはじめとする社内各種制度の整合性を確保する

1.導入の目的を明らかにする「週休3日制」とひとくちにいっても「こうしなければならない」というステレオタイプはありません。そのため、柔軟な発想で従来の固定観念を打ち破るような新しい働きかたをデザインすることができます。自由度が高い分、自社が何を目的に導入するのかを明らかにしておかないと、制度設計が迷走してしまいます。

□採用の強化
□シニア層の活躍
□総労働時間の削減

目的はいろいろありそうですね。最も優先度の高い目的は何か。これを明らかにして、制度設計を進めていきましょう。

2.年間総労働日数を決める
年間総労働日数が、暦の巡りにより変動するという職場が、従来多く存在していました。賃金が月給制で定められていて、かつ、残業代もほぼ支払われないような会社であれば、不合理感はなかったかと思います。

しかし、週休3日制で勤務する人が混在することとなると、月給の設定をするにあたり、時給単価での比較は避けて通ることができないテーマですので、時給単価算定に影響を及ぼす年間総労働日数は、暦の巡りにかかわらず、固定化することをオススメしています。

本来であれば、月給制フルタイムの方について、ある年の時給単価と、その翌年のそれが暦の巡りで変動するなどは、納得のいくものでないはずです。しかし、日本では長く残業時間の把握が大雑把であったことや、残業代の計算が大雑把であったことなどを要因として、この課題は着眼されずにきました。

ちょうど同一労働同一賃金による法改正を受けて、正規・非正規間の賃金格差についても、不合理ではないものにすることが求められていることも背中を押してくれる事情ですので、年間総労働日数を固定化する取り組みをおこなっていただきたいです。

3.月給は比例減額を原則とする

①正比例で減額がキホン
給与水準は、週5勤務社員対比で必ずしも正比例とする必要はありません。短時間勤務となるため会社への貢献度が低くなることが想定されるなら、その分、低めの設定とすることもできますし、短時間となる分、労働密度が高くなることが想定されるなら、その分高めの給与設定とすることもできます。しかし、所定外労働が発生し、結果的に週5勤務社員と同じ時間勤務したときの給与に差が出ることが現場で混乱を招くケースが散見されるため、正比例で設定することを原則ルールにすることをお勧めします。正比例で設定することとすれば、低めに設定する(または高めに設定する)こととする割合の決定と、その決定に至る合理性の検討の手間も省くことができます。

事例でみてみましょう。

・週5勤務社員の年間労働日数=246日
・週休3日制社員の年間労働日数=209日・・・対比85%

基本月給を、上記の割合で設定すれば、ちょうど正比例となります。

注意していただきたいのは、週5から週4になるのだから、5分の4=80%にすればいい、と安易に結論づけないことです。

週5勤務社員は、多くの場合、祝日も休日とされているため、厳密には、完全な週休2日よりも年間ベースでは休日が多いのです。

②基本月給を据え置くと、実質賃上げになる
所定労働時間数を1日20分短縮(旧:7時間35分⇒新:7時間15分)した味の素は、月給を据え置きとしたため、実質賃上げとなり、その平均額はひとりあたり月額14,000円程度であると発表しています。

賃上げになる理由は2つあります。ひとつは、所定労働時間が短縮されるため、割増賃金の基礎となる賃金が高くなることです。もうひとつは、いままでは支払う必要のなかった短縮された20分について勤務した場合、残業になるためです。社員思いの会社は、基本月給を据え置いたまま所定労働時間を短縮したいと考えがちですが、思わぬコスト増の結果を招くこととなり得ます。

③各種手当も減額がキホン
ここまでお読みいただいて、お気づきになられたかと思いますが、各種手当についても、正比例減額を基本としないと、実質賃上げとなってしまうことが想定されます。

育児時短勤務をしている社員について、基本給だけは比例減額としたものの、各種手当を据え置きとしたことで、その社員が残業をした結果の総額賃金が、通常勤務している社員よりも高額となってしまうといった逆転現象もよく聞く制度設計上のエラーです。

なお、残業単価に含めなくてよい次の手当は、この際、制度として存続させるかどうかを再検討してはいかがでしょうか。その理由は、同一労働同一賃金に求めることになるのですが、論点がずれるので本稿では詳細を述べることはしません。

・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当

4.休暇制度をはじめとする社内各種制度の整合性を確保する

多くの職場では、正社員の残業が恒常的に長時間化していることと引き替えにするかのごとく、さまざまな休暇制度を充実させてきました。

夏季休暇、年末年始休暇、特別休暇、リフレッシュ休暇・・・

さて、週休3日制の社員にも、フルタイム社員と同等の休暇制度を適用させますか?

たとえば、年次有給休暇であれば、週4日以下で一定の要件を満たしている労働者については、付与される年次有給休暇日数が、フルタイム社員と比較して、減らされる制度があります。たとえば、フルタイム社員に10日付与される年休が、週休3日制社員には、7日といった具合にです。これを、年次有給休暇の比例付与制度といいます。

正社員に、充実した休暇制度を設けている職場の場合、週休3日制社員にはどうするのかを決めておかないと現場での混乱が早晩発生することが想定されます。

どうすればよいか?

それは、何を最優先目的としていたかにより、おのずと定まってくるでしょう。

最後に

ここまでお読みいただくと、「週休3日制、なかなか手ごわいなぁ」と感じられるかもしれません。

けれども、世の中の大きな流れは、週休3日制を選択できる社会づくりに向かっています。できないかもな! と思考停止せず、できるところから一歩ずつでも、トライしてみていただきたいです。


安中 繁(あんなか しげる)ドリームサポート社会保険労務士法人 代表社員/特定社会保険労務士
2007年安中社会保険労務士事務所開設。2015年法人化し代表社員に就任。約300社の顧問先企業のため労使紛争の未然防止、人事制度構築支援等にあたる。新しいワークスタイル「週4正社員制度」の導入コンサルティングを得意とする。地方自治体、各種経営者団体での講演実績多数。主な著書に『週4正社員のススメ』(経営書院) 『中小企業は『懲戒処分』を使いこなしなさい』(労働新聞社)他。

ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。


#19  急増したオンライン面接のニーズ 今こそ対策を!

尾山 大樹(おやま だいき)
ドリームサポート社会保険労務士法人

労働分野の実務の参考となる情報を提供する「プロが伝える労働分野の最前線」第19回のテーマは、オンライン面接です。コロナ禍でも優秀な人材を採用するにあたって欠かすことのできないオンライン面接ですが、そのメリットやデメリット、導入のポイントや留意点について、ドリームサポート社会保険労務士法人の尾山大樹さんが解説します。

オンライン面接が増えている

2021年3月に政府は、2022年度卒業・修了予定の学生向け採用活動ルールを定め、経済団体などに、学生が安心して就職活動に取り組める環境づくりを求める要請文を出しました。

ここには初めて、オンライン就活への配慮に関する内容が盛り込まれました。

具体的には、オンライン面接を実施する際に、①ズームやスカイプといった使用ツールを事前に明示し、学生が準備する時間を確保すること、②通信環境にアクセスすることが困難な学生に対しては、改めて別の機会を用意すること——など、オンラインによる採用活動への配慮事項が盛り込まれています。

オンライン面接とは、企業の面接担当者と学生のパソコンやスマートフォン、タブレット等をネット回線でつなぎ、Webカメラを介して実施する面接のことを指します。新型コロナウイルスの感染拡大により、学生は、既に大学の講義をオンラインで受講することが当たり前になっており、就活においても、オンラインによる選考のニーズが一気に高まってきました。

そんな背景から、オンライン面接の活用は今後、各社の課題になってくるでしょう。

本稿では、オンライン面接のメリット・デメリットから、従来の対面での面接と比較してより良いオンライン面接とするために整えておきたいポイントをお伝えします。

オンライン面接のメリット・デメリット

学生を対象に行った民間調査では、コロナ禍における2021年度の就活生のうち8割以上がオンラインでの面接を経験しているという結果が出ています。オンラインの場合、コロナ感染のリスクがないということ以外に、企業側のメリットとして、以下の3点が挙げられます。

①面接会場への移動の手間やコストが削減できる

②採用選考の効率化が図れる

③時間や場所の制約を受けないため学生の対象を広げられ優秀な人材発掘につながる

まず、企業側、学生側双方の移動時間や交通費、宿泊費が不要になります。面接にかかる費用や時間的な負担が軽減できることをメリットと感じる学生は多く、企業側も、担当者の旅費だけでなく、社外に面接会場を準備するための手間や費用も節約できます。

次に、選考の効率化です。複数の面接担当者が1ヵ所に集合する必要がないため、隙間時間を活用でき、スケジュールの調整がしやすいというメリットがあります。例えば、東京本社にいる人事部長と名古屋支店長がリモートで同時に面接を行うことが可能ですし、担当者が出張先での空き時間を使って面接に参加することもできるため、時間が有効活用でき、選考のスピードアップが図れます。

3番目として、オンラインに対応していることで応募者数が格段に増えます。遠隔地の学生の応募も可能となるため、優秀な人材と出会える可能性が広がることが、最大のメリットといえるかもしれません。

その他、面接の模様を録画できるため、社内で共有することで、後から面接の振り返りに利用したり、面接担当者の育成に役立てることも可能になります。ただし、録画に抵抗がある応募者もいることから、必ず同意を取るなどの対応が求められます。

一方、オンラインならではのデメリットとして、以下のような問題が考えられます。

①通信トラブルが起こる可能性がある

②直接顔を合わせたときの応募者の印象がオンライン面接時とは異なる可能性がある

③非対面コミュニケーションは慣れていないと難しく感じる応募者もいる

では、これらの問題点を埋めるため、企業として今後、どのような対策をすればよいか確認しましょう。

オンライン面接対策をする際のポイント

1.オンライン面接の注意点

オンライン面接のデメリットを補完する意味でも、下記の注意点を事前に社内で共有しましょう。

①通信トラブルは評価の対象外にする
回線がうまくつながらない、音声や画像が切れ切れになるなどの問題は、オンライン面接のトラブル事例の中で最も多いものです。音声が聞き取りづらいなどの通信トラブルは発生することを想定して、学生に音声の大小などは評価の対象外とすることを伝え、不安を取り除くことが大切です。

また、通信トラブルが酷く面接が実施できないような場合に備え、代替日や別の手段を用意するなどの対策を事前に検討しましょう。このような事態を避けるために、使用するツール名を早めに伝え、学生が準備できる猶予を与えておくことも肝要です。

②アイスブレイクを入念に実施する
アイスブレイクとは、氷(アイス)を壊す、溶かすという意味で、初めて出会った人同士や、会議前の緊張をほぐすことでコミュニケーションを円滑にし、出席者が積極性を発揮できるようにする手法のことです。

オンライン面接の場面では、対面して行う面接と比較して、応募者が緊張してしまうケースや伝えたいことを伝えきれなかったと感じるケースがあります。そこで、本題に入る前に、答えやすい軽い話題を振って、応募者の緊張をほぐす時間を、対面して行う面接と比較して、多く取るようにしましょう。ただし、背景に映り込んだ部屋の様子をしつこく尋ねたりすることはハラスメントにつながる恐れがあるため、注意が必要です。

③情報管理を徹底する
オンライン面接では、画面共有機能を使用することがあります。画面上に内部文書や他の候補者の履歴書を開いたままにしており、誤って応募者が目にしてしまわないよう、情報管理を徹底しましょう。

2.面接方法による評価の違いを少なくするには

今後、対面・オンライン両方の面接方法を用いるケースが増えることを想定して、面接方法による評価の違いをできる限り少なくすることが求められます。そのポイントを2つご紹介します。

ひとつは、面接に要する時間を対面面接と比較して、オンライン面接では多く取るようにすることです。どうしてもオンライン面接では、表情や歩き方、所作などが見えにくく、その人の持つ雰囲気や熱意が伝わりにくいものです。後日実際に会ってみたら、別人のように感じたというケースもあります。

このような非言語コミュニケーションが取りづらい分、アイスブレイクの実施や、学生の話すエピソードについて「具体的には?」「もう少し詳しく聞かせてもらえませんか」といったように、面接担当者は一つひとつのエピソードを深掘りするなどして会話のキャッチボールができる工夫をするとよいでしょう。前に述べたような通信上の問題で時間をロスする可能性も考慮し、面接時間をしっかりと取るようにしましょう。

ふたつ目は、社内で面接担当者向けのガイドブックを作成するなどし、事前に質問事項や面接に臨む際の注意点など、必要な情報を共有することです。

面接担当者がしてはいけない質問や、ハラスメントになりえる質問を共有することで、リスクを軽減し、企業として一貫性のある面接を実施することができます。オンライン面接の担当者は、学生に対してあいづちや大きく頷くなどリアクションをしっかりと取ること等も、心構えの一つとして確認するとよいでしょう。

最後に

新型コロナウイルス感染症が世間を騒がせて1年以上が経過し、多くの企業が初めてオンライン面接を導入されたのではないでしょうか?

冒頭で記したように、政府がオンライン就活に対して配慮するよう要請文を出す時代です。必要に迫られてオンライン面接を導入したという企業が多いと思われますが、今後、対面面接とオンライン面接の両方に対応することが企業に求められることになるでしょう。便利な反面、オンラインゆえのミスマッチが起こるのは残念なことです。オンラインのメリットを活かしつつ、企業は応募者に自社の魅力を積極的に伝える工夫が必要となるでしょう。

この機会を、オンライン面接の注意点や社内の面接方法を見直す機会にしていただければと思います。


尾山 大樹(おやま だいき)/ドリームサポート社会保険労務士法人
大学卒業後、大手飲食チェーン会社に入社。店長として複数の店舗運営に6年間従事。スタッフの採用から育成、定着までの一貫した管理の重要性に気づき、企業の「ヒト」に長く関わることのできる社会保険労務士を目指す。 2018年ドリームサポート社会保険労務士法人入社。現在は担当する顧問先の労務相談への対応や職場の新しい仕組み作りをサポートする傍ら、部門を超えた顧問先向けのセミナー、社内研修等の企画・運営のリーダーとして活躍。前職の経験を活かし、店舗運営など経営管理の側面を踏まえたアドバイスや『仕事とは、常に二手三手先を読んで行うものだ』を信条とした育成指導にも定評がある。

ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団。


#20  法改正を機に男性の育児休業取得推進を!

平泉 千尋(ひらいずみ・ちひろ)
ドリームサポート社会保険労務士法人

労働分野の実務の参考となる情報を提供する「プロが伝える労働分野の最前線」第20回のテーマは、令和4年4月以降に施行される改正育児・介護休業法です。男性の育児休業の取得を促す法改正のポイントについて、ドリームサポート社会保険労務士法人の平泉千尋さんが解説します。

男性の育児休業取得率はいまだ低水準

厚生労働省の「令和2年度雇用均等基本調査」によると、2020年度の男性の育児休業取得者の割合は12.65%となり、前年度の7.48%を大きく上回りました。しかし、女性の育児休業取得率81.6%(2020年度)と比べると、かなり低い取得率であることが分かります。

2021年6月に成立した「改正育児・介護休業法」では、希望に応じて男女ともに仕事と育児を両立できるよう、とりわけ男性が育児休業を取得しやすくなるような内容が盛り込まれました。これにより、今後、男性の育児休業取得率が上がることが予想されます。

2022年4月を皮切りに、段階的に施行されるこの改正に備え、今企業が行うべきことを考えてみましょう。

改正のポイント

まずは、2022年4月より段階的に施行される育児・介護休業法の主な改正ポイントを確認します。

1つ目は、以下に挙げた「雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置」の義務化です。

【2022年4月1日施行】
1.育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
2.妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置

1.の「育児休業」には、今回の改正で新たに創設された「出生時育児休業制度(いわゆる産後パパ育休)」も含まれます。具体的には、①育児休業に関する研修の実施、②相談体制の整備等(相談窓口の設置)、③自社の育児休業取得事例の収集・提供、④自社の育児休業制度と取得促進に関する方針の周知、のいずれかの措置を講じる必要があります。

2.については、①育児休業に関する制度、②申し出先、③育児休業給付金に関すること、④育児休業中に労働者が負担すべき社会保険料の取り扱いについて、の4点が周知事項となっています。また、個別の周知・意向確認の方法としては、面談や書面交付等が挙げられています。つまり、ポスターの掲示などでは足りず、申し出をした労働者に対し「個別に」、休業の意向確認を行うことが必要となるわけです。

2つ目は、以下の新たな制度がスタートすることです。

【2022年10月1日施行】
1.「出生時育児休業(産後パパ育休)」の創設
2.育児休業の分割取得

現行の育児休業制度では、原則子が1歳までの期間が育休取得対象期間となっていますが、改正後は、それにプラスして、男性が子の出生後8週以内に4週まで取得可能な「出生時育児休業」が創設されます。出産した女性の産後休業と同時期のため、男性版産休(産後パパ育休)ともよばれます。

また、この4週の休みは2回に分割して取得することが可能であり、長期間休むことが難しいといった場合でも、柔軟に育児休業を取得できることになります。

これに加え、育児休業の取得申し出の期限が原則休業の2週間前(現行:1ヵ月前)までに改正されることと、労使協定を締結している場合に限り労働者が合意した範囲で休業中に就業することが可能となることも、育児休業の取得のしやすさにつながることでしょう。

さらに、前述の改正とは別に、現行では分割取得することができない育児休業を、分割して2回まで取得が可能となります。よって、男性は最大4回、女性は最大2回に分けて育児休業を取得することができるようになり、夫婦が交代で休業するなど休み方のバリエーションが広がります。

出典:厚生労働省リーフレット「育児・介護休業法改正ポイントのご案内」

あわせて、2022年10月に健康保険法でも改正がありますので、確認しておきましょう。

現行では、月末時点に育児休業を取得していれば、その月の社会保険料が免除となりますが、改正後は、現行に加え、同月内に14日以上の育児休業を取得した場合にも、その月の社会保険料が免除されることとなります。

一方で、賞与における社会保険料は、育児休業が1ヵ月を超える場合に限り免除となるよう、制度が変更されます。この改正がなされる背景には、月末に1日だけ育児休業を取るなど社会保険料の免除を目当てとした短期の休業者がみられることがあります。制度の抜け道を利用する人がいることによって公正さを欠いていることが、今回の改正に大きな影響を与えたといえます。

出典:厚生労働省資料「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律の概要」

自社で行うべき対応

さて、改正ポイントを踏まえたうえで、想像してみてください。みなさんの会社では育児休業を取得したいと希望する社員が、希望通り、育児休業が取得しやすい職場づくりができているでしょうか。また、法改正によって、より柔軟に育児休業が取得できる制度になりますが、会社はそれに対応することができるでしょうか。

この法改正によって、男性の育児休業希望者が増えることが予想されます。そのため、働き盛りの男性社員から育児休業取得の申し出があったとき、快く受け入れられるよう準備をすることをお勧めします。

まずは、社員に向け、出産・育児にまつわる休業の制度を周知する必要があります。法律ではどのように定められているか、そして自社ではこういった手続きを踏んで取得まで進む、という流れを知ってもらうことから始めましょう。周知することで、会社が育児休業に対して前向きな考えをもっているというメッセージになります。

また、上記とあわせて、管理職に向けた説明や研修を行うことお勧めします。「男性が育休なんて……」という昔ながらの考えをもった上司のもとで働く社員は、育児休業が取得できる制度があると知っていたとしても、希望を申し出るのは勇気がいるものです。加えて、特に男性社員は、育児休業を取得することで出世が難しくなるのではないか、復職後に今まで通りの仕事ができなくなるのではないか、といった不安も抱えています。

育児休業取得に対して、会社が前向きな姿勢であるのと同時に、管理職層も同じ姿勢で、育児休業を取得したいと考えている社員の気持ちに寄り添う必要があります。職場の上司や同僚が快く育休取得の希望を受け入れてくれたと感じた社員は、「自分の育休取得のために上司や同僚が協力してくれた、次は自分が協力をしよう」と考え、復帰後の良好な社内コミュニケーションにつながるのではないでしょうか。

続けて行いたいのは、今後、育児休業を取得する可能性がある社員の把握です。いわゆる「プレパパ」といわれる社員がどれだけいるか。事前に把握しておけば、育児休業の申し出があったときにスムーズに対応できるはずです。そのためには普段から、風通しの良い職場環境をつくっていることが重要です。プライベートかつ、デリケートな問題なので、コミュニケーションの取り方を一歩間違えればハラスメントととられることもあるため、部下から相談・報告しやすい環境づくりに努めてください。

会社にもメリットがある

育児休業取得促進に向けての対応についてお伝えしてきましたが、育児休業取得を希望する社員が増えることは、会社にとってもメリットがあります。その1つは、業務を見直す機会になる、ということです。それまでその人に任せていた業務は、休業を取得することになると、必然的に他の人へ引き継ぐ必要があります。それをきっかけに業務の棚卸しや見える化を行うことにより、業務の属人化を排除することができることや、マニュアルの作成を行うことで業務の効率化につながります。

また、もう1つのメリットは、育児休業取得者が、復帰後も、家庭とのかかわりを積極的にもとうとすることで、限られた時間内に効率よく業務を行おうと意識をすることです。それが周りの社員へも良い影響を与え、会社全体の生産性の向上につながります。育児休業取得を受け入れてくれ、休業から復帰したあとも無理のない働き方をさせてくれる会社に対しては、社員の家族も「理解を得られている」という安心を感じることができるでしょう。

それぞれの社員らしさを生かせる職場環境へ

育児休業取得促進のため、会社で取り組むべきことや見直すべきことがある場合、はじめは労力も時間も必要な作業となりますが、一度、会社の風土となってしまえば、それが当たり前になり、育児休業取得を希望する社員が気持ちよく休業を取得することができるようになります。

仕事とプライベートのバランスを重視する人が増える中、社員が自分自身の「らしさ」を生かしながら働ける環境づくりの一歩として、前向きに育児休業の取得しやすい職場づくりについて考えてみてはいかがでしょうか。


平泉 千尋(ひらいずみ・ちひろ)/ドリームサポート社会保険労務士法人大学卒業後、IT関連企業で総務経験を積み、業務上の関わりを通して社労士の仕事に興味を持つ。その後、出産・育児を経験したことから、家庭と仕事の両立可能な働き方を模索し、2017年、週4正社員Ⓡ制度を取り入れているドリームサポート社会保険労務士法人に入社。 現在は、担当部門の係長として、多数の顧問先企業の労務相談、給与計算、社会保険手続きを担当する傍ら、OJTを通して社内の新人育成にも力を注いでいる。企業と、そこで働く人たちがそれぞれの「らしさ」をいかせるよう、それぞれの思いに耳を傾けることを自身のモットーとし、その丁寧でお客様の気持ちに寄り添った助言に定評がある。

ドリームサポート社会保険労務士法人
東京都国分寺市を拠点に事業を展開し、上場企業を含む約300社の企業の労務管理顧問をしている実務家集団



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